彼が笑っていられるような
ふくれた横顔を見つめた。
「またあのことで堕ちてると思って来たのに……」
「一歩遅かったな、宇都木」
もちろんふくれているのは彼ではない。
見舞いに来たという宇都木先輩と、ずっとこの場にいたにも関わらず、蚊帳の外にされていた担任だ。
担任の存在をすっかり忘れていた。
あのやりとりを見られていたと思うと、今更ながら顔が熱くなる。
「何照れてんの、春日井さん」
「別に照れてなんか」
「俺のひよちゃんいじめたら、宇都木でも許さないからね」
「……お前、なんかむかつくんだけど」
私を腕の中に閉じ込めつつ、彼は不貞腐れたように言う。
半分くらい視界が遮られたものの、宇都木先輩が笑う声はしっかり聞こえた。
それに私はイラッとしたけれど、彼は違うようだった。
不貞腐れながらも隠した口元には笑みが浮かんでいる。
だから、これでいいのかな。
「あ、そうそう。駅前の有名なケーキ買ってきたんだけど食べる? 春日井さん」
「食べます!」
「期間限定のクッキーも買ってきたんだ。だからそっから出ておいで」
「はい!」
「……ひよちゃん、お願いだから餌付けされないで」
喜々として彼の腕から出ると、呆れたような寂しそうな声がかけられる。
それを背後に聞きながら、私は宇都木先輩のお土産に手を伸ばした。
きっと、これが彼にとって幸せな日常で。
どこにでもあるような普通の光景だけれど、何よりも輝いているのだろう。
そうであって欲しいと、私は願う。




