何も知らない帰り道
意味がわからない。
玄関で手は離されたものの、靴を履き替える頃にはまた捕らえられて。
寄り道予定だったコンビニも、見事に素通りされた。
その上。
「あの、コンビニ……」
「春日井さんの家って駅裏だったよね」
「はぁ……で、コンビニ」
「こっから三十分くらいかぁ。結構短いね」
彼は一切話を聞いてくれない。
私のことさえも、見事に素通り。
無理やり彼の腕に置かされた手も掴まれたままで。
リュック一つで学校に来ていたらしい彼を恨めしく思った。
せめて片手が塞がっていれば、容易に逃げ出すことができたのに。
「もうちょっと寄らないと、濡れるよ?」
「濡れて帰る予定だったので大丈夫です」
「大丈夫じゃないでしょ」
くすくすと笑われて、ちょっと気分が悪くなる。
……初めてだ、こんな扱い。
まるで十歳以上離れた子どもをあやすような感じ。
彼よりも随分背が小さいけれど。
童顔な上に、それを増すようなおさげなのも悪いのかもしれない。
それでも、同じ高校生。
どんなに離れていたって、三歳以上離れることはない。
「さて。こっから道知らないんだけど、教えて?」
「……次の信号、右です」
「りょーかい」
いつの間にか、駅を越えていた。
それからすぐ、私の家は姿を見せる。
「じゃ、明日迎えに来るから。待っててね」
来た道を引き返していく青い傘を見送る。
彼の名前をまだ知らないことに、気づいた。