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野生児がすぐに再会して

長くなりました。

イリヤスが行って、俺はすることがみつからなかったので、街を探索することにした。

実際、イリヤスに会う前にはNPCでないプレイヤーを探すという目的があったわけだが、イリヤスにあったことでそれは満足してしまった。

というわけで、雑貨屋なう。


◇◆◇◆◇◆◇


「いらっしゃい!薬は買ったかい、冒険には絶対必要だろう?」


元気のいい声を無視して、品物のリストを受け取る。

赤い薬50P、青い薬200Pとか、そういう日常的に使うものは上のほうにある。

で、マップを探すと結構下のほうにあった。ローカルマップ500P、ワールドマップ1000P。

でも、やっぱり俺の所持金は5P。

今は何も買う気がない、しかし今後、金は絶対必要になるはず。

金はモンスターから出る、つまりモンスターを倒さなければ生活できない。

殺生は好き好んでするほうでないので、それは克服しなければならないと思う。

っていうか、何でモンスターを倒すこと前提で考えてるんだ?

よく考えれば、ここの雑貨屋みたいな店を開いて、商売で生計を立てることもまるっきり不可能ではあるまい。

それにしても元手になるくらいの金は必要だが、殺生前提で生きるよりは、借金してローン生活のほうがいいと思う。


「不可能ではないってだけで、よくここまで想像できるな、俺」


実際、出来ないかもしれない。が、似たようなことをしてでも殺生を忌避することが先決と思われ――――


『こちらは、ペンタゴン・オンライン運営AIです。』


いきなり、耳に機械的な女性の声が響いた。


『プレイヤーの皆さんは、今すぐもっとも近い街の集会所または教会にお集まり頂き、お持ちのウォッチより『会話』ウィンドウを開いてお待ちください。5分後に再度ウォッチより放送いたします。』


◇◆◇◆◇◆◇


今、混乱している。

訳が分からない。

茫然自失とはこんな状態なんだな、と自分が至極客観的に納得している。

あるいは、ものを考えられない状態で人は、指示があるとそれに一も二もなく従ってしまうものなのか、と発見を驚いている。

気がつけば、どこにあるか分からない集会所、もしくは教会を探しに元居た雑貨屋を飛び出していた。



集会所はすぐに見つかった。教会ではなかったようだ。

かなり大きめに作られたその建物の中に入る。

入ってみると、驚くことに数人の人が居た。そのうち二人は話をしていた。これがNPCでないと分かった理由だ。


「おい、気がついたら雑貨屋の前に寝ていたんだ」

「私はこの集会所の前に倒れてたの」

「どういうことなんだ!」


俺が入ってきたのを見て会話中だった二人と、あともう一人が話しかけてくる。


「俺にもわかりません。俺ですか?森の中に寝ていました」


話しかけてきた三人は全て平装。普段着だ。俺もだけど。


「どっちにしても、5分後にまた何かあるみたいですし、それを待ったらどうですか?」


三人は俺から離れていった。俺も何か話したかったのだけど……

そうだ、イリヤスは今どうしているのだろうか。次の街が短時間で移動できるほど近いならそっちに行くだろうし、遠いならこっちに戻ってくるか。


「でも、ここを見つけられなかったら、会えないじゃないか……」

「あの、貴方?すこしいいかしら?」


さっきの三人の一人の女性が話しかけてきた。

大学生くらいだろうか。それくらいには見える。


「ごめんなさい、さっきから全員に話しかけるんだけど、どうにも不安がなくならなくて。こんな意味の分からないところに訳が分からないまま居るなんて、それだけで不安なのに、さっきの頭に直接響くような音声……あれはどういう技術なのかしら?もう、本当に何もかも、」

「俺はヒデカズって言います」


先手を打って自分から名乗る。この人に早く名乗れという意味と、ちょっとした牽制の意味をこめて。

ちょっとこの人うざい。


「ああ、ごめんなさい、名前も言ってなくって。動揺してて……」

「見れば分かります」

「そうね……私は、早苗って名前。苗字も行ったほうがいいかしら?」

「いえ、必要ありません」


俺も名前しかいってなかったし、苗字を教えてもらう必要性は今のところない。相手を呼べればいいだけだ。


「知らないうちに知らないところに居るなんて、可能性としては拉致、なのかしら、でもこの状況、拉致って感じじゃないし……」

「まったく訳がわからないと、さっき言ってましたが……まず、ペンタゴン・オンラインは知ってますか?」

「名前ぐらいは。弟が病的にのめりこんでいたわ」

「そうですか。やったことはないんですか?」

「ええ」


兄弟がペタゴ中毒って意味では、俺と同じだろうか。おれは兄だが。


「さっきの放送のとおりだとすれば、」


と、俺が会話を続けようとしたとき、


「ヒデカズ!! 居るか!!!」


バターン!と大きな音を立てて集会所の扉が開かれた。

逆光が邪魔をしたが、そこにはイリヤスが立っていた。


「おい、聞いたか、さっきの!」

「聞いたからここに居るんだろう。落ち着け、声が大きい」


扉が開かれた音よりも、イリヤスの声のでかさで、集会所の中の人がイリヤスに視線を集中させている。早苗さんに至っては、目を大きくして驚いている。


「こっちにきたってことは……次の街にはまだ着いてなかったみたいだな」

「ついてたらそっち行ってたさ。ところで」


イリヤスが集会所を見渡す。


「ちゃんとした人間がすぐそこにいたんじゃねえか!走り回って戻ってきて何の罰ゲームだよ!徒労だよ!」

「だからうるさいって」


パコン、と頭をたたく。こいつは、テンションが下がりにくいタイプなんだろうか。


「あと、せっかくウォッチで会話できるのを確かめたばっかりなのに、それを使ういい機会だったのに、何で使わなかったんだよ」

「あー。しまった、使えばよかった」

「あの、盛り上がってるところ悪いんですが」


早苗さんが会話の間に入ってくる。

このおかげでちょうど良く頭がクールダウンされた。


「聞いてて疑問に思ったんですが、ウォッチって何ですか?」

「あー、ウォッチってのは」

「ヒデカズ、この人誰」

「早苗といいます。お話の途中すみません」


ぺこりと頭を下げる早苗さん。

絶対俺たちのほうが年下なのに、ちゃんと丁寧な物腰なあたり、すごいと思う。中学の一つ上の先輩にも子供のように扱われることがしばしばのため、余計に感心してしまう。中々出来ないことだ。


「この人、俺らと同じようにぶっ倒れてたんだけど、俺らよりはこの状況に混乱したらしく」

「なーる。今見てるものは今見てるものなんだから、無条件で納得すればいいのに」

「誰もがお前のようには出来まいよ。それで、俺らもよく分からんけど、できるだけ俺らで分かることを――――」


と、その時。


『ペンタゴン・オンライン運営です。』


集会所の壁に、五角形の、―――ペンタゴン・オンラインのロゴマーク。それが投影された。

今度は音声が頭に直接響かない、そのマークから聞こえてくる。ちなみに立体ホログラム。


『皆さんにはいきなりこのような状況になってしまったことを深くお詫びいたします。しかし、事情により、この世界でしばらく暮らしてもらうことになります。』

「なんだと!」

「ふざけるな!いきなり何なんだ!」


いきなり訳の分からない言葉を告げだすペタゴ運営(その言葉を信じればだが)。


『まず、皆さんのいる世界はペンタゴン・オンラインの世界であるということをまず理解していただきたいと思います。』


ペンタゴン・オンラインの世界。

その言葉は、俺がほしがっていた回答。

しかし、その荒唐無稽な言葉には集会所にいる人のほとんどが絶句した。


『多くの方はご存知と思いますが、ペンタゴン・オンラインは有限会社○○が運営するMassively Multiplayer Online Role-Playing Game、多人数同時参加型オンラインRPGです。』

『その世界の中に入り込んだ、という理解が望ましいです。』

『先に述べた事情というのは訳あってお知らせできません。また、しばらく暮らしてもらうことのしばらくの期間も不明であるとお考えください。』

『この世界で皆さんが退屈しないように娯楽を用意させていただきます』

『思い思いの時間をお過ごしください。』

『その他の質問には、それぞれ手首の『ウォッチ』にて質問フォームを設けましたので、そちらからお願い致します。可能な限り、返答させていただきます。』


ブツッ、と音がしてホログラムが消え、機械音声がやんだ。


◇◆◇◆◇◆◇


集会所に無音のとばりが降りる。

誰もしゃべらないのはあまりにも衝撃的な内容を告げられたからか。しかし、俺は逆に安心、納得していた。

やっと、胸に何かがストンと落ちてきたみたいだ。

晴れ晴れしている。


「何なんだ!信じないぞ、俺は!」

「何がペンタゴン・オンラインだ!そんな話を誰が信じるって言うんだ!」

「おい!いたずらはこの辺でやめておけ!」


でも、やっぱりそれは俺だけで。

集会所の中にいる人たちは今の話が信じられなかったようだ。

怒ったようにして(いや、実際怒って)大声を張り上げている。その人たちは全員大人(に見える)で、納得できるのは子供だからなのかなあ、と思ったりした。


「この状況でほかに頼るものがないからといって、この情報を鵜呑みにするわけにはいかない……あの声の言うことが正しいという証拠はどこにもない……」


早苗さんは大人のようだ。状況が飲み込めていない。


「おい!現実逃避してんじゃねえぞ、おっさん達!」


いきなり、イリヤスが声を張り上げた。


「あの声の言ったことが本当だとするのが一番筋道の通った考え方じゃねえのかよ!さっさと信じちまえよ!」


イリヤスの口調は、この場にいる大人(二十歳以上、の意味)に対して怒っているような口調でありながら、この場の大人だけでなく、大人そのものに怒っている……ような気がする。


「何を言う、あんな荒唐無稽な話を、信じろというほうが無理だろう!」

「そうだ!ゲームの世界なんて妄想に付き合ってられるか!」


二人に反論されて、数の上では劣勢なイリヤス。援軍に行くことにした。


「落ち着いて俺の話を聞いてください。俺は、この街から離れた森の中で目を覚まし、ここにくる途中で角の生えたウサギに遭いました。不可抗力で倒すと、光になって消えたんです」

「そんな馬鹿な話があるか!」

「お前も俺たちをここに連れてきたやつらの仲間か!」


だよねー。いきなりこんな話をされても信じるわけないかー。

自分で言ったことながら説得力ないな、と呆れる。

そういえばこの人たちずっと大声。喉痛くなると思うんだけど……。


「なんであんたらに事実を認めさせなきゃなんねえのか、わからねえけどよお……。こーゆーの見て、まだそんなこというのか?」


そういってイリヤス、右手をウォッチへ。

ほんの少しの後、イリヤスの右手に剣が出現した。

またすぐにウォッチを操作すると、今度はその剣が消えた。


「この左手首のコレがさっきの声が言ってたウォッチってやつだよ。これで装備を変えたりステータスがみれるんだよ」


もう一度剣を出し、それを大人たちに向ける。


「これで信じられねえなら救いようがねえな。幸いペタゴはMMORPGだ、協力して補い合って、つるんで持たれあって、何とかやってけよ」


言い切って、イリヤスは集会所を出た。


AIとは人工知能です。(少なくともそのつもりで書きました)

早苗さんは理系大学生っぽいです。おねーさん。

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