野生児がウォッチを通して会話して
「ウォッチの機能は3つ。」
イリヤスがいう。
「自分のステータスを見ることと、自分の能力を上げること、他人とコンタクトを取ること。
大まかにいうと、こういう風に分けられるんだ」
わかったという意味でうなずく。言っていることはわかる。
だが具体的な機能は?
「まず、ステータス。自分の能力値を知ることができる。レベルに攻撃力に最大HP、MP。今の自分のHP、MP。これらが知りたけりゃウォッチを見る。ま、説明するまでもないだろうけど」
そのとおりだ。それくらいはわかる。自分でも見たんだし。
「次、他人とコンタクトを取る。俺がウォッチを隅から隅まで調べて見つかったのは、メール、会話、チャットの機能だ」
メール、会話、チャット、の3つだな。
「俺は今まで誰にも会ってない。だから、今試してみないか?」
「断る理由なんか、ねえよ」
一も二もなくOKした。
◇◆◇◆◇◆◇
「えーと、まず会話してみるか。どこ押すと会話って出てくるんだ?」
「左下の、コンタクトの欄あるだろ、そこ押すと」
「オッケー、みっけた」
『会話』の所を押す。すると、『相手の名前を入力してください』の文字と入力欄。
「イ、リ、ヤ、ス、と。入力完了」
「できたなら、OKの文字を押してみ」
ぽちっとな。画面が変わった。
「おお、きたきた」
そういってウォッチを見せてくる。画面には『CALLING』の文字。
タッチして、ウォッチにしゃべる。
「もしもーし」
『もしもーし』
目の前のイリヤスとウォッチの両方から声が聞こえる。
俺もウォッチに向かってしゃべる。
「成功みたいだな」
「よっしゃ」
『よっしゃ』
「テスト通話はもういいか。ていうか、どうやって切るんだ?」
「タッチすればいいんじゃね?」
『タッチすればいいんじゃね?』
ウォッチをワンタッチ。画面に『HUNG』の文字が出た。切った、ということだろう。
「会話はオーケー、じゃあメールもやってみよう」
「なんだか、画面のワンタッチしただけで切れるってのは……何かの弾みに通信終了、ってことになりそうだな」
「あ?別に、何か問題でもあるか?」
「ないことはないだろう。話してる途中で切られたら気分悪いし」
「でも、切りたくなったらすぐ切れるってことでもあるんじゃないか?一分一秒も話したくないやつだっているし」
そう言うイリヤスの顔は、本当に嫌そうだったので、
「そんなやつ、着信拒否にでもすればいいんじゃないか。そんな奴がいるのか?」
と言ったら、
「いや、リアルに、そういう奴がいたんだ。電話で、嫌な思い出があって……」
と、心底嫌そうに言った。
イリヤスには悪いが、俺は「リアル」という言葉が引っかかった。
つまり、イリヤスはここをペンタゴン・オンラインの世界だとはっきり認めたのだ。
俺は、ここをはっきりペタゴの世界だと認めていない。常識的にも、俺の精神的にも、認められない。
それを簡単に認めてしまうイリヤスを俺は、羨ましく思っているのかもしれない。俺は、自分の感情が認めないというだけで、否定できない事実から逃げているのかもしれない。
いつまでも現実逃避はできないとわかっている。それでも、自分の心が邪魔をして、絶対に認められなかった。
感想・アドバイス・誤字脱字の指摘、たくさん下さい。その数だけうさぎ跳びします。