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野生児が遭遇して

とりあえず、歩きまわることにした。あのまま突っ立っていても何も分かることはないだろうと思ったからだ。

目に入るのは同じ様な、と見せかけて実は全く同じ形の木。

「工業製品みたいだ」なんだか懐かしい気がするのは気のせいに違いない。木だけに。

でも、せっかく木があるので登ってみることにした。野性児だしね!

掴まるのに良い枝はなかったが、登れないことはなかった。てっぺんまで登る。

周りの景色を見渡すと、

「うわあ……」

何の起伏もない森、それが地平線まで広がっていた。

ところどころ木がなくて草原くさはらになっていたり川があったりするようだが、(よく見れば少し起伏がないでもない)基本的に木ばっかり、山と呼べるようなものはない。

「森なのかよ……野性児は山に住むもんだぜ……」

山と森は違う。山に住めても森には住めない。これ重要。

というか地面を見てみると落ち葉もなく、折れた枝もない。綺麗な草と、ところどころに低木。明らかにおかしい。山にしろ森にしろ成長⇒死⇒分解というサイクルは同じ。違和感の元の一番でかい原因はこれだったのかも。

ああ、きちんと手入れされたうちの山が懐かしい。間伐のおっちゃん元気かな。

…………だめだ、強烈な違和感のせいで既に懐古主義者だ。わずか昨日までは確かに慣れ親しんだ山にいたってのに。

ちなみに天気はさわやかな晴れでした。降水確率は0パーセントです。


とにもかくにも、脳内で警報が鳴り響く、ここは異常だと。

警報のおもむくまま、落ち葉のない歩きやすい道を、走り抜けた。


◇◆◇◆◇◆◇


……三十分は走りまくっただろうか。疲れてしまった。今は走りではなく歩いている。

三十分前に見たように、地平の果てまで森は広がっているらしい。俺は方向音痴ではないが、こうも広く、代わり映えのない景色だと方向音痴も何もないだろう。

いっそパンでもちぎって落としていくか? お菓子の家に着けるかもしれない。

なんて童話を思い浮かべても、パンはおろか食べるものなど何も持っていない。冗談だ。

「くっそ、道ぐらいねーのかよ」

とはいえ、人がいると分かっているわけではない。道がないのは人がいない証拠かもしれないということを無意識的に考えないようにしていたそのとき。


ガサガサッ、と向こう側からがした。


低木をかき分ける音。よもや人か、と希望が胸に差した。

音のした方へ走る。三十分走った身体がかるく悲鳴を上げたがそんなことは気にならない。

さっき音がしたあたりに出る。

すると、


ウサギが姿を現した。


人か、と思っていたからがっかり、

ということはなかった。幸か不幸か出言えば幸だ。

なぜなら、理由は簡単。

ウサギの頭に一本のツノ!

不幸だ!

もうわけがわからないよ。

このウサギ、結構大きい。

だが、野生の生き物はこちらから害を与えようとしない限り、向こうから向かってはしないものだ。

そう思いだして、動物に分かるかは疑問だが両手を上げて、ゆっくり後退する。

熊に遭遇してこれで襲ってこなかった事がある、だからウサギ(ツノあり)にだって、

と思ったのだが。

敵意むき出しで威嚇してるし。マジかよ。

彼我の距離は現在5メートル弱。

ホールドアップで後退するも、ツノを奮いながら歩んでくる。

あっちはウサギだ、人間の俺の方が歩幅がでかい。じわじわと距離が開いていく。

それを感じたのか、感じたならどっか行けよと言いたいが、残念なことにツノウサギは走って距離を詰めることにしたようだ。ツノの先をこっちに向けて走って来る。

逃げること、戦わないことしか念頭にない俺は背を向けて走る。

「どうなってんだよ、この森!」

急スタートで筋肉の悲鳴、でもあのツノに刺さりたくはない。結構尖ってる。

歩きでも差が開くほどに双方には歩幅の差があったが、両方とも走りだとさらに開くようだ、すぐに木々に隠れて見えなくなる。

50メートルほど走った。大きく距離を取ったと思って振り返る。

「ふう…………」

もう、追いかけてこないだろう。走ってきた方を眺める。なんだか懐かしい気がするが、んなわけあるか。ツノ見ろツノ。あと、こんな好戦的な野生動物がいるわけがない、そもそもウサギは草食だ人間を襲ってどうするとやっと気付き、

「嘘だろっ!?」

木々の隙間から姿が見える。まだ追いかけてきていた。

選択は二つ、

あきらめず逃げ続けるか、

あきらめて倒すか。

気絶ぐらいさせれば、その間に遠くまで離れられる。

――――不必要に生き物を殺すものは山では生きられない――――

いつも忘れなかった言葉が脳裏をかすめる。

ツノウサギはツノを向けて走って来る。

躊躇してツノウサギが接近、決断。

迎撃、でも殺しは無し。

座右の銘に背かないことを何度も確認。

こっちからもウサギに向かって走る。ツノウサギは走って突くつもりしかないようだ。

俺とツノウサギで足し算されたスピードに任せ、刺さらないように右手でツノをつかみ、頭を上向ける。

空いた腹に蹴りを入れ、向こう側に吹っ飛ばす。意外と軽いツノウサギの体重。

結構なダメージになっているはずだが、着地(と言えるほど綺麗じゃなかった)しても気絶やダメージのある様子も見せない。懲りないのか、またツノを向けて向かってくる。

今度はそれを避け、足を引っ掛ける。つんのめり、地面にツノが刺さる。自然、胴体が持ち上がり、しめたとばかりに渾身の蹴り。

サッカーボールのように蹴り飛ばした。

ぼてっぼてっとバウンドして転がるツノウサギ。

そこまではまだ自然だった、違和感など取るに足りなかった、と後で思うことになる。



ツノウサギが光の粒子になって消えた。



呆然とする俺の耳に、響く電子音声。

『レベルが上がりました。APアビリティポイントを分配して下さい』

ここでやっと思い出す。違和感の正体、その裏で感じていた懐かしさ。


懐かしき、ペンタゴン・オンライン。



人間が少しだけ傷つけた森がもっとも人間に恵みを与える、とは東北の阿仁マタギの言葉、らしいです。間伐GJ。何かの本で読みました。無駄知識。

感想。アドバイスなど下さい。嬉しくて踊ります

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