野生児が二次転職を終えて/野生児が友人と再会して
わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり
・・・・・・すいません、なんでもないです
ほとんど同じ量のモンスターを倒して、大体同じ量の経験値を得たはずなのに、イリヤスより俺のほうが格段にレベルアップが早いって、どういうことなんだろう。
という疑問があったが、
そうかこれがチートというものか、それなら仕方ない。
という半ばあきらめの納得になった。
ただ、
生える土棘という称号だけはどうにかならないか。
結構、この称号恥ずい。なにこの中二。
称号は名前以上に人々に流布するもので、基本的に「私の名前は○○、称号が○○といいます」「へえ、あの称号の人なんですか!」みたいな会話をするためにあるシステム。だから、称号を持つ理由が能動受動どちらであろうと違いがない。「ああ、あの称号の人ですか(笑)」とか言われるような称号は嫌なのだ。
称号を変えることもシステム的にはできるようになっている、ウォッチには『称号を変える』という選択肢があるのだから。
だが、それをしようとするとウォッチが受け付けてくれない。操作拒否。
運営がこの称号をかえる気がないということか。
まったく、迷惑なことだ。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、クエストアイテムのスカーフを渡し、無事に二次転職を終えた。しかし転職しても職業名は変わらなかった。魔法使いから魔法使いへ転職とはこれいかに。
普通は転職すると職業名が変わる、相撲取りは相撲取りなのに大関になったり横綱になったりするようなものだ。
名前は変わらなくても性能はしっかりと上がったようで、スキルがまたいくつか増えていた。攻撃、自分強化と、状態異常のスキルもあった。
今はあまり使う気がないが(というか使いこなせるとは思えない)、使うときになったら使おう。
そのときのためにSPは振り分けないでおいた。
◇◆◇◆◇◆◇
しっかし…………
「ひまだーーーーーーーー!!」
ほかの誰かがいれば暇つぶしに会話もできるだろうが、イリヤスとは別行動しているし、ほかにプレイヤーを知らないのである。いや、最初の町であった早苗さんがいるけど、如何せん遠い。
本当なら、することがないなら一人でモンスターを狩ってレベル上げをするべきなんだろうけど、今はそれをする気が起きない。これがゲームなら(いや、ゲームだけど、PCでする本来のゲームなら)かなり不真面目なプレイヤーだ。
しっかし、本当にすることがないな……。
アイテムをチェックし始める。どんなアイテムを持っているか把握しておこうか……
ワールドマップが目に入る。そうだ、次の街へ行こう。イリヤスにはメッセージを送っておけば良いか。
思い立ったら即実行、マップを見ながら次の町へ向かうことにした。
次の町の名前は……リヒテン、か。
◇◆◇◆◇◆◇
道中、レッドウッドという赤い木のモンスター、カールズバードというくるくるした頭の毛を持つ鳥のモンスターがいた。カールズバードは空を飛ぶだけあって倒しにくかったが、一回ゆっくりした低空飛行をしたとき、蹴っ飛ばしたら一回で倒せた。レッドウッド(赤い木)のほうは顔のある枯れ木が動いている感じで、ゆっくりした動きをするのだがHPが高くて簡単にはいかなかった。例の土棘というやつを連発して倒した。
リヒテンについてから気付いたのだが、土棘(土属性)で赤い木を倒すのは、属性が邪魔をしていたんじゃないか?木は土に強く、土は木に弱い。
土属性魔法使いにとって、木はあんまり敵にするべきじゃないのだろう、気をつけることにしよう。
ところで、今到着したリヒテンという街。街の入り口には『リヒテン 工業の街』と書いてあったのでどんなものか期待した。
結論、期待通りだった。歴史は不得意科目だったが、ない頭で思い出すと、この街は大体第一次世界大戦ごろのヨーロッパのような感じ。
何が言いたいかというと、『ヨーロッパ的な雰囲気を残しつつ、現代へ向かっている感じ』だ。
たしかに、これなら工業も盛んそうだな、とか考えつつ、街の中心部へ入っていく。
近代的ではあるものの、現代日本の町並みにはなさそうな店もこの街の町並みには並んでいる。
たとえば、アイテム屋・武器・防具屋、鍛冶屋とか、宿屋。都会の町並みにはホテルはあっても宿屋なんてないだろう。(それにおそらく、ものを食べなくても生きられるんだから、食事はでないだろう。寝るだけって、ビジネスホテルか)そこらへんに気付くと、やっぱりゲームだな、と思ってしまう。
何の気なしにアイテム屋に入る。すると、見覚えのある後ろ姿(身長)が目に入る。
(誰だったかな……)
このペンタゴン・オンラインの中での少ない知り合いにこの街にいるようなやつはいないのだが――
あ、と思い出す。
「タツミ! お前タツミだろ!?」
呼ばれて、怪訝そうに振り向いたその顔は、やっぱりタツミだった。
タツミも、こっちを見て俺だとわかったらしく、驚愕を顔に浮かべる。
「ヒデカズ!?お前もここに入ったのか!?」
「ああ、そうだよ、入っちゃったんだよ!つーかなんか懐かしいなあ!」
タツミ、漢字で書くと辰巳。俺の同級生である。
まさかここで会えるとは思ってもいなかった。
「お前も運営AIってやつの話とか聞いた?」
「うん、聞いたよ。僕が目を覚ましたのはここ、リヒテンだけど、この街の市民ホール?見たいなところで聞いた。あと、ヒデ、目に入ってないみたいだけど、キョウコも僕の隣にいるんだよ?」
言われてからタツミの横を見ると、確かにタツミの妹、キョウコちゃんがいた。推測だがこのペンタゴン・オンラインの世界に連れ込まれての不安から、タツミつながりで知り合いの俺を見てちょっと安心しているのだろう。
あと、キョウコちゃんは背の高いタツミと兄妹なのに背がかなり低めだ。身長差は……40センチはあるか?ちなみにキョウコちゃんは中一、俺たちと一つ下なだけだ。
「やあ、こんにちは。俺たちみんな災難だけど、ま、がんばっていこうよ」
「……何か子ども扱いしてないですか?前から思ってたんですけど……
私とお兄ちゃんは、違う場所に倒れてたんです。といっても同じこの街の中で倒れてて、それからお互いにこの街を探索してて、出会いました。それからはずっとこの街から出てないですね。」
水前寺先輩ははどうだったんですか、と聞いてくる。うん、こんな風に呼ばれてたな。
「俺はこことは違う町で目が覚めたよ。って、なんとなく分かると思うけど。リリスって街で目を覚まして、次にカンタータって街に行った」
「カンタータ?」
「どした?」
「もしかして、土に関係あったりする?」
「関係も何も、土の街 カンタータって銘打ってる。何、マップとか見た?」
「いや、カンタータって言ったら、あれだろ、カンタータ・土の歌の『大地讃頌』。あれ思い出して」
あー。そういえばそんな曲もあったなあ。
「そういえばじゃなくて俺らの次のクラス合唱がそれ……はあ、出られるのかなぁ……」
タツミ、瞬く間にテンションダウン。
「あ、そこで転職して、土の魔法使いになった」
「魔法使い?ヒデが?」
「似合ってないな」「似合いませんね」
さ、流石兄妹、息が合ってるじゃないか。
「ていうか、自他共に認める野生児が魔法使いとか、あわないにもほどがあるって」
「で、でも、なったものはしょうがないだろ。タツミはなんになるんだ?」
「あ、僕?僕は職業に就かないつもりだけど」
「因みに私もです」
へ?
「いやいや、この世界で職業に就かないって、何するつもりなの?たしかに食事しなくて良いし収入は必要ないけど、暇すぎるでしょ、それ」
「いや、職業に就かないとは言ったけど、何もしないとは言ってないって。
僕は職業は『初心者』のままで、NPCじゃないプレイヤーがやる店を開くつもりだよ」
「で、私はお兄ちゃんについていきます」
「いや、キョウコにはちゃんと初心者から脱して欲しいと思ってるけど……。
NPCの店で売ってるものって、いつも同じだよね?いつでも同じものが手に入ることにも安心感があるけど、僕が開きたいのはそうじゃない、強化された武器・防具、NPCより安い回復薬、それと情報。NPCじゃなくてプレイヤーが開くことの利点を追求するつもりだよ」
「へえ……」
なるほど、それも一つの生き方か。
確かに、モンスターを狩ることでしか生きられないわけじゃない。でも、そうなんだと、思い込んでいはしなかったか。
でも、いきなりそんなこと始めて、その店、ちゃんと続くのか?こういったらすごく悪い気がするけど、かなり無理言ってないか、それ」
まあね。自分で言ってても実現は難しいと思うよ」
「じゃあ、」
「でもだからってやったらだめなんて理由にはならないでしょ?ゲームなんだから、楽しんだもの勝ち、何でもありだよ」
ああ、そうだ。タツミはこういう、すごいやつだった。
普通のやつなら思っても実行できないことを、何てこともないようにやってしまう。本人はなんとも思ってないみたいだが、外から見るとかなりすごいやつに見える。
同じクラスだが、クラス全体を、いや学年を俯瞰してもこいつほど周りの人間の人望を集めるやつもいないだろう。キョウコちゃんがブラコンになるのも分かるってもんだ。
「……そうだな、俺が文句をつける筋合いはない。まったく、ない。どうやるかは分からないが、営業開始したら俺にちゃんと知らせてくれよ?」
「もちろん。ヒデに限らずたくさんの人の支援が必要な予定だからね、友達の友達は友達、ヒデもたくさんプレイヤー紹介してくれると嬉しいけど」
「任せとけ、お前の名前をこの世界中に広めてやるぐらいに」
「あの、水前寺先輩」
話の腰を折られた。いい感じに会話してたんだからあんまり口を挟んで欲しくなかったんだけど……
「私とおにいちゃんは数人のプレイヤーさん達と話をしました。それで、ある程度の情報を持っています。水前寺先輩が知っていることもあるかもしれませんが、それらを話します。そして、お互いに情報交換しませんか」
タツミを見る。
「話に夢中になって忘れていたけど、それもしたい。いいかい?」
タツミは、キョウコちゃんと同じ表情をしていた。
真剣な。
「ああ、かまわないぜ」
じゃあ、ここから……
真面目に、話をしよう。
あー、なんかヒデカズがキャラ崩壊し始めてる・・・・・・
ま、いっか。
属性については設定参照。です。
武器や防具の強化については、次の話で。
第一次世界大戦ごろの町並みは、GOSICK、異国迷路のクロワーゼの二つのアニメをイメージしています。変だ、と思ったらどっちかのアニメとかで見てくれれば、ダイレクトに分かると思います。
カンタータとは合唱と管弦楽の合わさった音楽、らしいです。だから作中でタツミが言っていることは正確にはおかしいということですね。しかしあれであの街を思いついたことは書いておく。