野生児の最初の一日が終わって
イリヤスが集会所から出たので、それを追って俺も外に出た。
「おい、イリヤス、ちょっと言い過ぎてないか?」
追って出てきたはいいけども、話すことを探してこう言った。本当は、あれぐらい言ってやってもいいと思っていた。それくらい、あの大人たちには腹が立った。
「ヒデカズ、俺はな、大人ってものが嫌いなんだ」
唐突な嫌い発言。さっきイリヤスの声で思ったことは合ってたってことか。
「大人は分かってくれない、とか口うるさいから嫌い、とか、そんな独りよがりな理由じゃない。親にしろ担任にしろ、誰だって、大人ってのはみんな例外なく馬鹿だ。大馬鹿だ。そうじゃなかったことがない」
これは爆弾発言。イリヤスは反抗期・思春期真っ只中なのか?
「まあ、お前が何を思おうが勝手だが、お前だってそのうち大人になるんだぜ?そんなことばっかりも言ってられねえって」
「自分のことは、わからん、どうすればいいのか。大人になるなんて、ルービックキューブより簡単なこと、今更言われるまでもねえよ。でも、自分のことはわからんが、大人が馬鹿にしか見えないってのは、確かにあるんだよ、俺の感情として」
「……」
「……」
会話が続かねえ。
「そういえばさ、さっきの、剣を出したやつ、分かっててやったのか?」
間を埋めるためとはいえ、馬鹿な発言だと思う。分かってなきゃやらねえだろうが……。
「ああ、この街を出るときにな、ヒデカズがツノウサギに遭ったって言ったのを思い出して、初心者装備でもないよりはましかと思ってな、出したんだ。そうしたら」
「いきなり手の中に出てくるからびっくりしたと」
「そう」
自分で驚いたものを、他人を驚かすために使ったというわけか。
「あ、でも右手が完璧にふさがる武器とか、左手に盾とかある時って、ウォッチ操作できないじゃん。どうするんだろう」
「それは、例の質問フォームで質問してみたらどうだ?ていうか、地面に刺すとか、ただ手を離せばいいんじゃないか?それに、回復のために薬使うときって、いちいちウォッチ触んなきゃならないのか、面倒だな」
「あの……ありがとうございました」
いきなり早苗さん。俺らの後に続いて出てきたようだ。
でも何故にありがとう?
「あの、私、ここがどこなのか、何でここにいるのか、そういうのが分からなくて不安だったんですけど……。それなのにあの声を信じることが出来なくて……。それを、一気に解決、というか、問答無用に納得させてくれて。何故ここにいるのか、というのはまだ分からないままだけど、それでも、不安はかなりなくなりました。ありがとう」
そういって、また深く頭を下げる早苗さん。なるほど、この頭はイリヤスに向けて下がっているのだな。
イリヤスはというと、戸惑ったように目が泳いでいた。
憶測だが、イリヤスにとって早苗さんは大人で、その大人からこうやって面と向かって例など言われたことがない、またはあるけども純粋に驚いている、とか、そんなとこだろう。
ていうか、自己紹介しただけの相手からこんなに深々と感謝されたら誰だって驚く。
「でも、分からないことはたくさんあるから、いろいろ、教えてね?」
あ、丁寧語直った。
「……いいですよ。出来る限り、気の向く限り、力になってもいいです。大して知っていることは変わりませんが」
その言葉だけ言って早苗さんに背を向ける。そして歩いていってしまう。
早苗さんは微笑んで、
「ありがとう」
めっちゃいい微笑み。イリヤス、背を向け損だぞ。
その後俺達は互いにフレンド登録をした。
◇◆◇◆◇◆◇
イリヤスはもう今から次の街へ向かうらしい。今から次の街に着いたとしても睡眠時間ぐらいはある、そう見当をつけているそうだ。
イリヤスは空の暗さを見て、
「今大体五時ぐらいだろうけど、たとえ六時でも、次の街までさすがに六時間はかからねえだろ。ついてから寝るよ」
イリヤス、ウォッチには時計ってものがあるんだぜ。五時四十三分。
ウォッチを使いこなせていないイリヤスだった。
今度こそ行ってしまったイリヤスだが、俺はというと、寝るところを探し中。
基本NPCの町だし、NPCの家に入って寝ることにしようかな。不法侵入だけど。
最終手段は森の木の上なので、別段切迫してはいない。
以上のことを頭で整理しながら、NPCの家でどれが良いか選んでいる。
家が並んで建っているが、その一番端っこの家が小さくて質素だったのでそれにする、質素は俺の好みだ。
戸をあけてその家に入る。が、ここで予想外。中に人(NPC)がいた。
いや、家なんだし、その家の持ち主がいることは簡単に予想できたはずなのに。全く考えてなかった。
動転して固まる俺とは違い、驚きもせずそこにいるNPC。若い女性NPCだ。
そこはやっぱりNPCで、俺が動転から回復しても、そして家中動き回っても何の反応も見せなかった。
家主に失礼とは思いつつも、家の実況をする。外から見て二階建てより少し低いと思われた家は実は一階建てで、天井が高かった。家具は、たんすとテーブルとベッドがあるだけ。そういえばNPCって寝るのかな。
NPCとはいえなんの断りも無く家を使うのは、とそんなことが気にかかり、この人に声をかける。
「あのー、今日一晩だけ、屋根を貸してください。今日だけですから」
「あの、私のお願いを聞いてもらえないでしょうか!」
あれ、この人しゃべるぞ?NPCじゃないのか?
困ったときのウォッチ頼み、すぐにウォッチを見る。そこに『クエスト』の文字。
えーと、たしか、クエストって、NPCからの頼みで、それをクリアするとアイテムとかお金とか経験値とかもらえるんじゃなかったっけ?
しかし、ここでクエストか。いきなりすぎやしないか。
確実にクリアできるとは限らないんだし、期限付きなら断ることにしよう。
「いいですよ」
「私には年老いた母がいまして、その母の生活を少しでも助けるためにこの町に私だけ引っ越してきたんです。でも、母のことが心配で……お願いします、どうか私の母の様子を見てきてくださいませんか?」
なんだ、思った以上に簡単じゃないか。要するに、どこかにいるその母親に会って会話してまたここに戻ればいいわけだ。簡単簡単。
「わかりました」
「本当ですか?ありがとうございます!」
頭を下げる女性。そういえば頭を下げるのを見るのは今日二回目だな。
ウォッチに『クエスト受諾』の文字。これで、その母親に会えばクエスト終了条件を満たすことになる。
でも、それは明日以降。とりあえず今日は寝る。
そういえば、普通のNPCと、クエスト持ってるNPCの区別ってつかないな。区別する方法があるのかな。
ふとウォッチを見れば七時、だが寝る時に寝ることが出来るのは山で生きる条件の一つ。寝れないことは無い。
さすがにベッドは遠慮して、質素なたんすの辺りで横になった。
題名のバリエーションが少なそうなので一話を長くしたほうが都合がいい事に気付いた筆者。だが長く書く文才など無い。
イリヤスロリk(
チガイマスヨ?
あと、NPCNPCといいますが、NPC自体に差別的な意味はありません。平等権です、人格が無くとも人権はあります。……あれ?