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―第5話― 『ジャンケンの女王』 鷹崎マリ

 そしてオレと姫ヶ谷コトハは二年C組代表として、委員会が開かれる会議室へと移動した。会場には各クラスから男女二名が参加する。六クラスから二名の学生と、会議を取りまとめる保健・体育の先生二名。計十四名の人間が召集された。

「ではA組から順に競技を発表してください」

 やがてA組から順にクラス集計で決まった競技を発表される。他のクラスの競技が被らない事を、オレはただ祈り続けた。そして、各クラスの集計結果は――。

 A組『野球』

 B組『バレーボール』

 C組『水泳大会』

 D組『サッカー』

 E組『創作ダンス』

 F組『バスケットボール』

「以上が今回の候補だ!」

 オレの祈りは届いた。あとは六クラス代表ジャンケンバトルを制する事が出来れば、我ら二年C組(男子)の念願である水泳大会に手が届く。しかし、オレはジャンケンで負けてクラス委員になった弱者だ。必然、『ジャンケンは心理戦だ』と言い放ち、勝とうと思えばいつでも勝てる自信満々のウチのお姫様に任せることになったのだが、忘れていた。A組には『ジャンケンの女王』と呼ばれる鷹崎タカサキマリがいた事を。

 二年A組、クラス委員の鷹崎マリは一年の一学期は委員会に出なかったものの、二学期三学期ともクラス代表ジャンケンバトルに参加し、見事に連勝。その他、未だジャンケンで負けた所を見た者がいないという逸話の持ち主だ。ということは今学期は野球か、あまり得意ではないな。オレはC組の勝利を諦めていた。そんなオレの様子を見兼ねてか、姫ヶ谷コトハはオレに尋ねてきた。

「学尾君……この六クラス代表ジャンケン、私に勝ってほしい?」

「それはもちろん、勝ってほしいけど……相手が悪すぎる」

「それはA組の鷹崎さんの事?」

「ああ、お前も知ってるだろ? 確かに彼女を見ていると、ジャンケンは運だけではないような気がするよ」

「確かに、鷹崎さんはジャンケンに関して類まれなる才能を持っているわ。でも彼女のそれは心理戦ではない」

 オレは彼女の説明を頭の中で整理していた。オレが思っていたジャンケンは運勝負。姫ヶ谷コトハの言うジャンケンは心理戦で、ならば『ジャンケンの女王』、鷹崎マリのジャンケンはいったい何だというのか。

「彼女のそれは……そうね、『不敗ジャンケン』とでも言うのかしら」

「不敗ジャンケン?」

「知ってる? 学尾君。ジャンケンっていうのは確実に読める手が一手でもあれば『負けない』の」

「確実に読める手?」

「ええ、でも基本その一手を読むのが難しい。グー・チョキ・パーのうち、普通なら勝ち・負け・引き分けの確率はそれぞれ1/3なんだけど、そのうち相手の出す手が一つでも読めるとしたらその確率は変わってくる」

「でも、どうやって読むんだよ?」

「本来なら相手の出し手なんてそう簡単に読めるもんじゃないわ。ただ一つの例外を除いては……。それはグーよ。ジャンケンにおいてグーだけが最初はニュートラルであるがゆえに、そのシルエットに大きな変化はない。でもチョキかパーを出したならその形は大きく変化してくる。そこを見極めるの。グーかそうでないか。そうなると必然的に、相手の手に変化がなければパーを、そうでなければチョキをだせば負けはないわ」

「パーかチョキな……それにしたって難しいんじゃないか?」

「ええ、実際私には出来ないわ。でもこれも鍛え方次第では……」

 そう言うと彼女は顔の前で小さく右手こぶしを作った。

「『後出しジャンケン』」

「え?」

「いくらジャンケンの弱い学尾君でも、これなら勝てるでしょ?」

「それはまぁ」

「検証してみましょう」

 オレは姫ヶ谷に言われた通り、ワンテンポ遅れて手を出した。

「ジャンケンポン、ポン」

 当然、オレは姫ヶ谷に勝つ。むしろ『後出しジャンケン』で負けろと言われた方が難しいだろうが。

「学尾くん、今『後出しジャンケンで負けろと言われた方が難しい』って思ったでしょう?」

 オレは姫ヶ谷のこの言葉に鳥肌が立った。

「おま……! やっぱり人の心が読めるのか?」

「そんなワケないでしょ! ……コホン。これはいたって『普通』の事なの。この十数年間生きてきた私達にとっては、ジャンケンで『勝ちたい』と思うのが普通。その潜在意識が『後出し』でも働いているが故に、負ける事の方が難しい。それを人に気づかれないように極限まで極めたのが『ジャンケンの女王』鷹崎マリ。恐らく彼女は反射神経に近いレベルでグーに対してのみ、パーを出している」

「なるほどな……そしてそれが鷹崎マリ、ジャンケン必勝の秘密」

「――御名答」

「でも、それじゃオレたちが勝つことなんて無理じゃないか。 しかも今回の場合、六人同時でジャンケンするわけだから、その他の四人はどう攻略するつもりだ? まさか五人相手に心理戦で勝つというのか?」

 オレはそんな事出来るはずがないという意味合いを込めて、姫ヶ谷に言った。

「ここからは実戦を交えて見せてあげるわ。私の心理学方程式を」

 そう言うと、姫ヶ谷はその『六クラス代表ジャンケンバトル』のステージへと足を運んだ――。

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