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ー第56話ー 容疑者の軌跡

姫ヶ谷コトハの鋭い眼光は、ある一点を指し示していた。彼女の視線を辿るようにして、その場にいた誰もが自分の目を疑っていただろう。

「大炭エラさん、ここから先のことはあなたなら話せるはずです。それとも私からお話しましょうか?」

コトハの問いかけを前にしても、大炭エラは決して動じる様子は見せていない。周囲の人間からしてみればあまりにも自然で毅然な態度だった。

やがて大炭エラはコトハに視線を返す。

「姫ヶ谷さん、なかなか興味深い推理ですけど最後に何を言うのかと思えば、これではまるで私が犯人みたいじゃないですか」

「そう言っています」

大炭エラの問いかけに対し半ば被せるようにしてコトハは言った。姫ヶ谷コトハのここまでの推理は確かに目を見張るものがあった。

しかし、その場にいた警察関係者の誰もがまるで夢から覚めるがごとくこう思ったのだろう。一女子高生の推理に耳を貸すのもここまでかと。

「まってコトハちゃん、何を言ってるんだい?エラちゃんは車椅子で歩くことができない。その時点で容疑者からはいの一番で外れるだろう?」風間刑事は素人をなだめるようにして言った。

「そうですね風間さん。エラさんは車椅子だから歩くことができない。……と考えるのは自然なことです」

コトハはそう言ってタブレット端末を軽くタップする。画面が切り替わり映し出されたものは、すぐ後ろにあるコンビニの防犯カメラからの映像だった。

「遠隔でこちらの端末からも見れるようにしてもらいました。見ての通り、わずかにこの歩道が映っているんです」

「あ、ホントだ!だとしたら一連の事件当日のことも……」風間刑事が興奮気味に言う。

「それもそうなんですけど、私が皆さんにお見せしたかったのはこちらなんです」

コトハは再び画面をタップした。そこに映し出された映像はいまよりもっと前の記録のようだ。その場にいた誰もがその画面を穴が空くように見つめていた。

「まさかコトハちゃん、この画面に映っている青い靴の少年が今回の亡霊、犯人だって言うの?」

「お察しの通りです。菊袖さん」

コトハが指し示した防犯カメラの映像には過去数件分の事件と画面に映る少年らしき人物を結びつける証拠となりえる映像が残っていた。

犯人と思しきその青い靴の少年は、パーカーを深くかぶっており顔こそ認識できないが、コンビニの雑誌売り場で立ち読みをした後に必ず横断歩道へと向かっている。今月起きた事故を4画面設定にすると、全てが同じタイミングで発生する事故映像を残していた。

青い靴の少年はまるで死神のようにピタと被害者の横に着き一度も触れることなく事故を引き起こす。

かたわらで見ていたオレもにわかには信じられないでいた。

ただ、全ての事柄がコトハの推理を裏づけている。

「この少年と事故の因果関係をみなさんに認識してもらった上で、凶器となるこの青い靴が『ある場所』から見つかったその時は……」

「つまり私の病室から青い靴が見つかったその時は、私がこの青い靴の少年、犯人ってことですね」

コトハの推理に被せるようにして大炭エラは笑みを見せる。その姿は真相を暴かれる前の犯人の姿とは到底思えない。

「……」

姫ヶ谷コトハは無言のまま大炭エラをまっすぐに見ていた。

しばらく続いた沈黙を破ったのは親父の携帯電話の着信音だった。

「もしもし鈴谷か⁈ それで、青い靴は見つかったか?」

ーー証拠を隠す暇など与えてはいない。コトハの推理が正しければ、大炭エラの病室から防犯カメラに映っていたものと同じ青い靴が見つかるはず。

にもかかわらず、凶器となる青い靴は院内のどこを探しても見つからなかった。


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