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―第50話― 解

 海堂シン。姫ヶ谷コトハの一歩先を行く男。この二人が今同時にこの場にいるということは、少なくともここまでは同じ解を見出しているということ。果たしてコトハの方程式がどこまで通用するのだろうか。

 不安にかられるさなか、オレたちは菊袖の一言を聞き逃さなかった。


「こんな事故が頻繁に起こるなら、あの横断歩道なんとかするべきよね」

 コトハは菊袖へと視線を移すとすかさず問いただした。

「菊袖さん。この病院にはもう一人、あの横断歩道で事故にあった方が入院されているんじゃないですか?」

「もう一人?」オレはコトハに聞く。

「ほら、ノボルおじさんが言ってたじゃない。一命をとりとめた被害者に病院で話を聞くことができたって」

「それがエラさんのことじゃないのか?」

「ノボルおじさんはエラさんと心霊歩道の事故を別件だと言っていた。だからエラさんのことじゃないわ」

 オレとコトハの会話から、菊袖が何かを察したように口を挟んできた。

「ああ! 確かにいたわね。杉原さんのことかしら。あの横断歩道で事故にあった人よ」

「いた……って過去形ですか?」オレも菊袖に問い返した。

「ええ、今はもうこの病院にはいないわ。今じゃケガよりも、精神的に参っているってことで、精神科に連れて行かれたの」

 精神科とは。どうやらオレたちは、またしても一足遅かったようだ。今回はやたらと後手に回る。


「無理もないわよ。しきりに『青い靴の少年が隣に立ってたんだ、呪いだ』ってわめくんですもの」

 そんな菊袖の言葉に対し、コトハは再び反応を示した。

「菊袖さん! 今なんて?」

「呪い?」

「その前!」

「青い靴の少年が隣に立っていた?」

 コトハは手帳を広げるとすかさずメモを取り出した。コトハは菊袖に念を押す。「間違いないですか?」

「ええ、彼も私が担当してたから何度も聞かされたわ。間違いない」

「ありがとうございました」

 コトハは菊袖に礼を言うと、踵を返しもと来た道を戻り始めた。オレもそれに続くように菊袖に一礼する。菊袖はあっけらかんとした表情をしていた。

 やがてオレの後を追うように菊袖は近づいてくると耳元で囁いた。

「確かにかわいい子だけど、少し変わった彼女さんね」

「彼女じゃないですよ」

「あら、そうなの? まだこれからなんだ」

「はい?」

 そんなやり取りをしながら、産婦人科の受付を通り過ぎる。

「またこの受付でお待ちしておりますね」菊袖は意味深な一言を残し、満面な笑みでオレたちを見送った。



******



 総合病院を出たコトハは立ち止まること迷いなく歩き続ける。

その向かう先がどこなのか、想像するに難しくはなかった。

「事故現場へいくのか?」コトハの後を急ぎ足で追う。

「うん」

 簡潔な返答だった。あの病院で菊袖に聞いた何かが決め手になったとでも言うのか。いつもながらにオレにはわからなかった。聞きたい気持ちも山々だが、今は黙って彼女の後を追うことにしよう。

 しかしそんなオレの気持ちを察したのか、何も聞かないうちにコトハの方から話しかけてきた。


「ねぇ学尾くん。青い靴の少年は、いったいどこに立っていたんでしょうね」

「……え?」

「初めにコウイチくんからあの怖い話を聞いた時、青い靴の少年はどこから被害者を引きずり込もうとしたのか。シゲルくん、あなたのイメージの中で、少年はどこに立っていたか思い出せる?」コトハは振り返ることなくそう訪ねてきた。


「そうだな……オレのイメージだと歩道の向かい側だったかな」

「つまりコンビニ側から渡るとして、反対の踏切の前辺りってことね?」

「そうそう。手招きをする少年が、何か見えない力で吸い寄せてくる的な」

 コトハは少し肩をすくめるようにして笑ってみせた。

「ふふっ。シゲルくんって想像力豊かなのね。私のイメージでは手招きはしていなかったけど、少年が立っていた場所はシゲルくんと一致したわ」

 そう言ってコトハは初めて立ち止まり振り向いた。ついたのだ。その現場へ。

「でも実際は違った。青い靴の少年は被害者の隣に立っていたのよ」

「隣に? ……それがなにか意味あるのか?」申し訳ないがオレは海堂と違って小学生にもわるように説明してもらわなければ理解できない。


「傷だらけの携帯電話に踏切、そして青い靴。たった今全てのピースが揃い繋がった」

 そう言いながらコトハは青色に変わった横断歩道を渡ってゆく。

「謎が解けたのか?」そう訪ねるオレにコトハは振り返り口を開いた。

「ええ。これは……」


 ――彼女の言葉は踏切警報機と電車の騒音でかき消された。風になびく彼女の黒髪と口元の動きだけが鮮明に映っていた。

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