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―第49話― 菊袖リナ

 コトハが受付のナースに声をかけたその時、オレは病院へ入った時に感じた妙な違和感の理由を察した。


『コトハっ! ちょっと待っ――』

 受付のナースはオレとコトハを代わるがわる見ると少し眉をひそめている。

「妊娠チェックですか?」

「は……はぁ!?」

 オレはコトハがこんなにも声を裏返して驚くところを初めて見た。が、ナースがそう言うのも無理はない。本当ならここらで誤解を解いて終わりのはずなのだが、この二人ときたら。

「ま、まさか中絶ですか!?」今度はナースが声を裏返した。

「だからなんで私が!」コトハも顔を赤くしている。

「これだから最近の高校生は……」

『あ、あれ?』

 

 ――何分くらいだっただろうか。

 コトハが、もといオレとコトハがこのナースから説教をくらっていた時間は。まぁ、間違って産婦人科のカウンターに赴いたオレたちにも非があるが、このナースの勘違いとマシンガン説教にも驚いたものだ。見た目と中身は得てして食い違うものだということを知った17歳の夏。


「あら、ごめんなさい! 私てっきり……」

「いえ、もういいんです」

 オレたちはなんとか誤解を解くことができたようだ。

「えっと……入院患者の面会だったわね。それなら別館だけど、せっかくだから案内してあげる」

「すみません。えっと……」

「あ、私? 菊袖リナ」そう言ってナースは名札を見せた。「大丈夫よ。 私、元々あっちの担当だったから」

 そう言いながら、菊袖は長い通路をツカツカと歩みはじめた。コトハもほっとした表情で胸を撫で下ろしている。

「ところで、誰の面会?」菊袖はオレたちに歩幅をあわせて尋ねてきた。

「はい。こちらに大炭エラさんって入院していますか?」コトハはその問いに答えるようにして問い返す。

「ああ。あなたたちエラちゃんのお友達ね? あの子、つい先月まで私が担当してたのよ」

「そうなんですか。それにしても不運な事故でしたね、一年間も意識不明のままだとやっぱり大変ですよね。家族の方々も」

 そう問い返したオレの言葉に対し、菊袖は再び眉をひそめた。

「何いってるの? エラちゃんはもう意識を取り戻してるわよ」

『え?』


 オレとコトハは顔を見合わせた。確かに、オレたちが調べていた記事は一年も前に書かれたものだから、エラさんが意識を取り戻していても不思議ではない。

 菊袖はそんなオレたちに意外そうな表情を見せた。


「あれ? 知ってて面会に来たんじゃないの? さっき君と同い年くらいの男の子が面会に見えてたから、私てっきり同じ高校の友達かと」

 オレとコトハは再び顔を見合わせる。コトハはその場で足を止めた――。




「どうやら先を越されたみたいね」

 コトハはそう言って窓の外を眺めていた。その視線をたどるようにして病院横にある広場に目を向ける。広場にある噴水の脇で海堂シンが車椅子を押していた。

 菊袖もその様子を眺めている。

「そうそう。あの子よ」

「ではあの車椅子に乗った女性が?」

「うん、大炭エラちゃん。意識は戻ったけど、事故の後遺症でああやって車椅子を押してもらうことでしか自由に動けないの。まだ若いのにかわいそうよね」


 海堂が来ている以上、彼女への接触は改めなければならない。ここで海堂に見つかってしまっては、今度は何といって捜査から手を引くように説得されるか分かったものではない。

 なによりもコトハがそれを望んでいないようだった。

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