―第47話― バックナンバー
昨晩もコトハは結局、気になる一言を残しそのまま眠ってしまった。
――調べてみましょうよ。噂の元凶を――。
『いったい何のことだよ』
ところであいつはオレを寝不足にするのが趣味なのか? おかげで目の前のアナログ書体が文字化けして見える。これも心霊現象か、などという冗談はここまでにして非常に眠い。
翌朝、オレとコトハは笹枝市立図書館で新聞のバックナンバーを調べていた。心霊歩道で起きた事故について書かれた記事、その日付と詳細に目を通す。
「学尾くん、もっと昔の記事よ」
コトハは耳元でつぶやくとオレの肩をポンと叩いた。
「昔の記事って、去年になるぞ?」
最近あった事件のものとは、だいぶ年月に間が開くことになるが、この噂そんな昔に立てられたものなのか?
――その時。
静かな館内を携帯のバイブレーションが鳴り響いた。もはやマナーモードなんてあったもんじゃない。
何を隠そうコトハの携帯電話だった。
「学尾くん」コトハは小声で手に取った携帯電話を指差した。「ノボルおじさんから電話」
オレたちは急いで隣の部屋に設けられている通話室へと移動する。
「もしもし、ノボルおじさん?」
コトハは親父からの電話に応対した。
「コトハちゃん、今電話大丈夫かい?」
「はい。それで……」
「被害者の共通点についてだけど、性別、年齢共に共通点はなし。被害者同士も特に接点はないんだが、気になったのは皆がコンビニ側から踏み切り側へと横断歩道を渡ろうとした時、事故にあっている」
「一方向?」
コトハは胸ポケットから学生手帳を取り出し、メモを取り始めた。
「そしてもう一つ……」親父は調べあげたことの全てをコトハに伝える。
「キズだらけの携帯電話?」
「そう。被害者の遺留品の中で被害者のほとんどが、傷だらけの携帯電話を持っていたこと」
コトハは親父からの情報の一字一句を手帳に書き写す。その途中、彼女は手を止めた。
「今、『被害者のほとんどが』って言いましたよね」
「ああ」
「じゃぁ例外も?」
「いや、これについては少し古い記事でね。当時、被害者の遺留品は保護者の方が引き取ったらしいから手元に無くてさ。でも今回の事件と直接関係はないと思うんだけど」
コトハが電話の向こうで何を聞いたのかオレは知らない。しかし彼女のこの表情は、きっとなにかを掴んだのだろうと直感できた。
「その被害者のこと、詳しく教えてください」
「え? いいけどこの記事、保存状態が悪かったせいか所どころ破れていて歯抜け状態なんだ」
「では事故があった日付と被害者の名前、わかります?」
「それくらいなら。事故があったのは昨年の8月12日。死亡した被害者の名前は大炭ヨウヘイくん(6歳)だよ」
「了解です。ありがとうございました」
そう言ってコトハは電話を切った。
「見つけたわよ。噂の元凶『0番目の被害者』を」
オレはコトハを追うようにして通話室を出る。
「シゲルくん、事故があったのは昨年の8月12日、だからその翌日の13日の記事を見つけて」
「わかったけどさっき言っていた『0番目の被害者』ってやっぱり」
「そう、青い靴の少年のこと。化けて出るほどのだもの、悲劇的な死をとげたと考えるのが妥当ね。それは事故か、あるいは殺人……」
『殺人? ってかその言い方だとまるで呪いを否定しないみたいな言い方だな』
コトハの話を聞くなりオレの肌は、まるで鳥の毛のごとく逆立った。今は一刻も早くこの謎を解き明かさなければならない。次の犠牲者が出る前に。
オレたちはもう一度机の上に広げた記事を読み返す作業に戻った。