―第46話― 相違点と共通点
「……それじゃあ学尾くん、この話のポイントはどこ?」
「ポイント?」
「この話たる所以、わかりやすく言うと異質な部分は?」
オレはもう一度文面を眺める。
「青い靴?」
「そうね」
コトハは赤ペンで『青い靴』にアンダーラインを引く。
「他には?」
「あとは『ある時間帯に』」
「なるほど」
彼女はそう言って『ある時間帯』にアンダーラインを引いた。
「この話のポイントは主にこの二つね。その他の表現はよくありがちな平々凡々とした文章」
この二つのキーワードを紙の空欄に書き出すコトハ。
「次に」そう言って彼女は笹枝市内の地図を広げ、今日回った4ヵ所の横断歩道に印をつける。
「学尾くん、この中に一つだけ本物の心霊歩道があります。どれでしょう」
この問題を出すコトハの心理が読めない。さっき結論が出たばっかりじゃないか。
「……ここだろ?」
オレはそう言ってある一点を指さした。そこは紛れもなく今日の昼、警察と海堂に会った横断歩道だ。
「正解! よくできました」
コトハはニッコリ笑うとオレの頭をなでなでする。不覚にも少し照れたけどすぐに我に返った。
『バカにしてんのか?』
オレはすこしふてくされた顔をする。
「まぁまぁ。……じゃあ次は、心霊歩道とその他3ヵ所の違いは?」
「違い?」
「そうね、わかりやすく言うと心霊歩道にあって、その他3ヵ所にはないもの」
心霊歩道にはあって他の場所にはないもの。オレは今日回った全ての横断歩道を思い返した。
「これは地図を見た方がわかりやすいかもね。それに学尾くん、あなたは、もう答えを出しているはずよ。さっき心霊歩道を探すときにいったい何を目印にしたの?」
目印――?。
「あっ!線路をたどって……」
「そう踏切。心霊歩道の近くには踏切があるの」
オレは地図でその事実を確認する。確かに、他の3ヵ所には踏切どころか線路すら見当たらない。
「私の推理が正しければこの事件、心霊歩道の条件を満たすためにはこの『踏切』がポイントになると思うの」
心霊歩道なのに踏切とは。しかしネットに書き込まれている噂と、コウイチの怖い話のどちらにも踏切なんて言葉は一言も出てこない。
何だかんだと考えを巡らせているうちにオレは、ある疑問を思い出した。
「そういえばコトハ、親父には何を頼んでたんだ?」
オレの質問に彼女は上目使いに微笑む。
「あら、学尾くんにしてはいい質問ね」
『オレにしてはは余計だろう』そんなツッコミを心の中で唱えながらもコトハの話を聞く。
「さっき私たちは心霊歩道とその他3ヵ所の『相違点』について話してたじゃない?」
「うん」
「それに対して、ノボルおじさんには被害者の『共通点』について調べてもらいたかったの」
「共通点か。なるほど」
その共通点次第では被害者には被害者たる所以があるということだろう。それは被害にあった時間や年齢、性別、容姿などありとあらゆる可能性を考慮した場合、共通点さえわかれば何かつかめるかもしれない。
しかしコトハの唱える心理学方程式とは、こういった事件にも応用できるものなのか? だとしたら便利なもんだ。
「さてと、それじゃあ明日からの行動だけど」コトハはベットに倒れ込みながら言う。「『火の無い所に煙は立たぬ』って言うじゃない? 調べてみましょうよ。噂の元凶を――」
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