―第45話― 推理対決
「あれ? コトハちゃん知ってるんだ?」親父は意外そうな顔を見せる。「アイツそんなに有名なのか? 今話題と言っても俺たち警察の内々だけかと思ったが」
「はい。ちょっと訳あって」
と言うよりはクラスメートだが。
「そうか……いやしかしアイツもたいしたものだよ。俺たち警察が何日かけても解決できなかった難事件を、なんなく解決してみせるんだ。ただなぁ……」
そう言って親父は頭を抱えた。
「……悔しいんですね? ノボルおじさん」
コトハの一言に親父もはっとした。
「かもしれない。俺たち大人が高校生相手に不甲斐ないだろ」
事件が解決を見ないこと。そしていつも海堂に頼らざるをえないこの現状に親父の精神は限界をむかえていた。
「もう警察の仲間も投げちまってな。どうせまた海堂が解決してくれるってさ」
親父はテーブルにつくと、ため息混じりにそう言った。しばらくの間、重たい空気が続く。やがてコトハは何の予兆もなくとんでもないことを言いはじめた。
「ノボルおじさん。今回の事件、私にも協力させてください」
「え?」
オレと親父は驚きのあまり声を揃える。もっとも、オレの場合は海堂との約束もありてっきり干渉しないものだと思っていたからだ。
「……コトハちゃん、気持ちはありがたいけどそんな危険なことはさせられない。言い方がおかしいかもしれないが、ただの事故ならまだいい。だけどこの事件、何か裏がありそうなんだ」
オレは親父の言葉に息をのんだ。
しかしコトハは、なおも親父を説得する姿勢を示す。
「……ノボルおじさん、私は今回警察の多くが捜査を諦めていることをむしろ好都合だと思ってるんです。そのぶん、おじさんが秘密裡に動くことができるから」
「どういうことだい?」親父はコトハに問い返す。
「これから私が言う事を明日、誰にもバレないように調べてください――」
「どういうことだよコトハ」
コトハはオレのベットに座り込み、湿った髪をタオルで乾かしている。オレとコトハは昨晩同様に今日の出来事を整理していた。
しかしながら彼女には聞かなければならないことがたくさんある。
「海堂からこの事件には関わるなって言われたろ?」
「確かに言われたけど、うんとは言っていないじゃない」
「言ってないけど……大丈夫なのか? アイツだって今回の事件は不可解だって言ってただろ。もしかしたら本当に呪いって可能性も」
「彼ほどの頭の持ち主が『不可解だ』って言う事件が、いったいどんなものなのか少し興味があるだけよ。それに……」
「それに?」
「私と海堂くん、この謎を解くのはどちらが先か、本気で勝負してみたくなったわ」
コトハは再び不敵な笑みを見せる。その口から初めて本気という言葉を耳にした。
コトハと初めて話したあの頃から薄々感じてはいたが、彼女はきっと彼女が思っている以上に負けず嫌いなのだろう。
今ここに『心理学方程式』姫ヶ谷コトハ対『高校生探偵』海堂シンの推理対決が始まる――。
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「まずはこの噂のポイントがどこにあるか、整理してみましょう」
オレはコトハに言われるがまま、ネットに上がっていた『心霊歩道』の文面をプリンターで印刷する。
ネット上にはいくつもの噂があがっていたが、中でも一番有力だと思う物を選別する。
「これなんかコウイチが話したのとほぼ一緒だろ」
オレは印刷したA4用紙と赤ペンをコトハに手渡した。
「まずは、あの場所が噂に聞く『心霊歩道』であることは間違いない。これは結果的にノボルおじさんにも教えてもらえたからまず間違いないでしょう」
「そうだな」
親父も結局教えてくれるんだったら、もっと早く教えてほしかったけどな。骨折り損だと感じるが、今日の調査でコトハに火が付いたのも事実、結果オーライか。
もう一度『心霊歩道』について整理すると――
今から数年前。
とある横断歩道で、小学生が車に跳ねられて死亡するという事故があった。少年をひいた犯人は捕まったが、亡くなった少年は自分が死んだことにさえ気づいてないらしく、未だ成仏できずにいるらしい。それ以来、ある時間帯にその歩道を渡ろうとすると、『青い靴の少年』が現れ、その少年を見た者はあの世に引きずり込まれるという。
そしてこの不可解な現象が昨日のあの場所で起こっている。