―第39話― 青い靴の少年
修学旅行も終わり、オレとコトハは我が家へとたどり着いた。もちろん、帰りもを10分ほど間を空けての帰宅。親父とクレハさんへのお土産がかぶり、後出ししたオレがなんだか惨めな思いをしたということは、心の中に留めておこう。
さて--。
オレはなんだかんだ言いながらも、『姫ヶ谷コトハの考察』をこのノートに書き続けていた。もはや観察日記と化してしまったそれは、彼女が家族の一員となったその日から、特に詳細に記されている。
「このノート、コトハに見つかったら絶対殺されるな」
そんなことを思いながら。
その日の晩のこと。
父シゲルの帰宅と同時にオレたち家族は久しぶりに4人揃って食卓についた。
「やっぱり4人揃ったほうがにぎやかでいいわね」
クレハは満面の笑みを浮かべて言った。オレとコトハも修学旅行先で一緒だったとはいえ、あの晩以降は班別行動で、特に一緒にメシを食うようなこともなかった。
家族みんなの顔をこうやって見渡すのはずいぶんと久しぶりな気がする。そんな中、一人浮かない顔をした男が一人。それがオレでなければ答えは一つ。
「どうした?親父」
「ん? いや……ね」
となりに座るクレハも心配そうにしていた。
「どうしたの? あなた、仕事から帰ってからずっとその調子だけど……」
「うん……そう、仕事のことなんだが」
オレとコトハは、顔を見合わせては首を傾げる。親父は続けて口を開いた。
「いやね、今担当している事件が実に不可解でね」
「事件?」オレは親父に問い返す。
「そう事件……いや事故?」親父は自問自答するかのように首を傾げていた。
「なんだよ、はっきりしないな」
「実はな、ある交差点で人が車にはねられたんだよ」
「あら、交通事故?」クレハは少し顔をしかめて言う。
「はじめはそう思ったさ。ところが、何度も起きてしまえばそれは事故じゃなく事件になる。どういうわけか、今月に入って立て続けに事故が起きてるんだよ。特に交通規制が変わったわけでもないのに」
「奇妙な話しね」クレハも考え込むようにして言葉をかえした。
「立て続けって、何件くらい起きてるんだよ」
オレは親父に問い返す。
「今日入ったぶんを含めると四件目になる。いずれも歩行者側が急に道路へと飛び出しているらしいんだが」
「歩行者側が? ……確かに、そりゃ事件だな」
「奇妙なのはここからだよ。そのうち、一命をとりとめた被害者の方から病院で話しを聞くことができたんだが……」
親父は再び黙り込んでしまった。
「それで?」
オレはもったいぶる親父を急かすように問い返す。
「……被害者本人もよくわかってなくてな、急に横断歩道の方へと吸い寄せられたって言うんだ。その原因が『青い靴の少年』の呪いだとかなんとか……」
まさかとは思ったが、再び背筋が凍りつく思いをした瞬間だった。思わずコトハと顔を合わせる。互いに言いたいことは一つのようだ。
忘れかけていたあの話。修学旅行のあの日、コウイチから聞いたあの『怖い話』を、再びこのような形で耳にするとは思ってもみなかった。まさか本当に心霊歩道があるとでも言うのだろうか――。