―第34話― 盲点?
「でも、ギリギリでも間に合ったんだ。さすがだよ。あの松平の読みを上回ったんだからな」
コウイチが誇らしげに言った。しかしコトハは勝ち誇ったふうでもなく、ことさらに神妙な面持ちでさらりとつぶやく。
「わからない。杭は出る前に打たれただけかもしれないし……」
「は?」
「いや、こっちの話よ」
暗がりでありながらわずかに困惑しているコトハの姿が見えた。
「あ~でもなんかもどかしい! こうも頻繁に見回りされたんじゃ、夜中いつ遊べってんだよ!」
コウイチがしびれを切らし、布団の中でうごめいている。
「夜中に遊ばせないのが先生の目的だろ?」
オレはコウイチに返すようにして言った。オレたちがそんなやり取りをしている間、鷹崎は珍しく口を閉ざしたまま、しおりを眺めていた。それに気がついたのか、コトハが鷹崎に訪ねる。
「……どうかしたの? マリ」
その問いかけに合わせて皆の視線が鷹崎にあつまる。
「聞いてみんな! 一つだけいい方法があるわ」
「いい方法?」
「ええ、このしおりの『盲点』を突く唯一の方法が」
やがて鷹崎はカバンから学生用のしおりを取り出した。
「シゲくん、ここに書いてある『宿泊ルールについて』の8項目を読んで」
『シゲくん?……オレのことか?』
オレは鷹崎からしおりを受け取ると、その項目に目を通した。
「第8項目……旅行中の消灯時間は22時00分。原則としてこれを守ること」
「その通り。そこには『22時00分には電気を消せ』としか書いてないのよ。つまり電気さえ消していればなにをやってもいいの。わかる?」
『……』
「…………」
「なんだそのへりくつは」
皆が口を揃えた。
「へりくつじゃないもん! これは立派な盲点でーす」
「……それにしたって鷹崎、電気消したままできることってなんかあるか?」
オレは具体的な提案を望んでそう返す。
「そりゃあんた、電気消してすることなんて一つしかないでしょ? ねぇコトちゃん!」
「え? なに?」
その時どういうわけか、コトハは顔を赤くして完全に思考停止状態となってしてしまった。
『え?』
オレはその答えをコウイチに求め視線を送ったが、そこには同じ問いかけが帰ってくるかのような眼差しがオレに向けられていた。
『……こっちみんな』
電気を消してできること。それはいったい……。
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「――それでね、夜中の2時になるとドアをトントンって叩く音がするの」
どうしてこうなった? 修学旅行初夜の消灯時間。先生たちの見回りをやり過ごすために鷹崎が講じた策。それは『消灯』=『電気を消す』ただその行為にすぎなかった。
「さすがに気になったAくんが恐る恐るドアを開けてみると……」
どうしてこうなった? 電気さえ消していれば何をしてもいい。そして鷹崎は言った。『電気を消してやることといえば一つしかない』と。
「キャーーーーッ!」
それがなんで『怖い話』なのかは知らないが。ところでコトハよ、オレのこまくをどうしてくれる。お前は怖い話が苦手だったのか? ははっ……また一つお前の弱みを握ってやったと言いたい所だが奇遇だな。オレもまたこの手の話は大の苦手なのだ。オレは声に出さぬようにと平常心を努めていた。