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―第2話― コウイチの頼み

 その日は、HRで委員決めが行われることになった。――その結果。

「では、ジャンケンで負けた学尾くんと姫ヶ谷さんをクラス委員に任命します」

 皆の拍手喝采の中でオレは深くため息をついた。『面倒だ』。しかし姫ヶ谷コトハを知るには絶好のポジションではある。そこでオレなりにこの数日間で調べ上げた、姫ヶ谷コトハの考察をまとめてみることにした。


 姫ヶ谷コトハ。彼女はオレと同じく笹枝高校心理学専攻の二年C組で、今年初めて同じクラスになった知的女子。ご存知の通りオレ同様、ジャンケンで負けてクラス委員になった一人だ。その艶のあるしっとりとした黒髪には一切の癖が無く肩下まで伸びている。女子生徒の中では平均的な身長の持ち主だが、高校二年生にして人並み離れたそのプロポーションは、男女問わず周りの目を引いていた。二週間で四人の男をフッたというだけはあって、かなりの美貌の持ち主だが、性格の方はというと……まだ情報が足りない。やはり噂や客観的視点では得られる情報は限られてくる。ここからは直接話すしか……。


 そしてやってきたこのシチュエーション。その日の放課後、オレと姫ヶ谷コトハはクラス委員の仕事をしていた。二人きり。周りには誰もいない。コウイチから引き受けた頼み以上の事になるが、なぜかオレの頭の中には最初の頼みである『告白』が過ぎっていた。今がチャンスかもしれない。ならばオレが攻略してみせよう。この『姫ヶ谷彼氏適正テスト』を。唾を呑みオレは口を開いた。

「好きです。僕とつきあってください」

「ごめんなさい」

 あろう事か、ソッコーでフラれてしまった。――いや、ちょっと待て。大体彼女は断ることをしないはずじゃないのか? 一度付き合う事で彼氏として適正かどうかを判断しているんじゃなかったのか? それがこの最短記録だ。

「それより、委員の仕事早く終わらせましょ」

「ハイ……」

 自分で言ってむなしくなるが、オレの返事は大層情けなかった。しかし何故だ? 解せない。それに気まずい。しばらく間を空けて、姫ヶ谷は口を開いた。

「……その言葉、あなたがホントに私を好きになった時、もう一度聞かせて」

「はぁ……え? どういう事ですか?」

 彼女はここで初めて、オレに視線を向けた。

「だって……あなたは私に恋をしていないでしょう? 差し当たり、誰かに頼まれて私を探ろうと近づいたといった所かしら」

 オレは姫ヶ谷のその言葉に呆気に取られていた。全くのその通りである。オレの告白に気持ちが入ってなかっただけかもしれないが、計画を見破られていた。まるでそう、心を読まれているような感覚だ。オレは彼女に返す言葉も見つからない。しかし、この瞬間から心友コウイチの計画は破綻してしまった。すまない。

 しかし話はここで終わらなかった。

「ねぇ学尾君、そんな第三者さんのあなたに聞きたいんだけど、その人は私のどこが好きなの?」。姫ヶ谷はそう言ってシャーペンのノックを下唇に押し当てる。

「それは多分、姫ヶ谷さんが美人だから……かな?」

 その答えに彼女はため息をついた。

「それは私の見た目が好きってことなの?」

「いや、きっと性格も……」オレはコウイチを弁護するべく、とっさにそう言った。

「それはウソね。でなければあなたに探りを入れさせたりしないわ」

 すまないコウイチ。次に告白する時はもっとハードル上がってるかもしれない。

「皆そうなの。前に私に告白してきた四人も、美人だとか可愛いだとかで私の外見ばかり。話した事もないのに、誰も私の内面を見てくれなかったわ。少なくとも、あなたとは違って本気だったみたいだけど」

 一瞬ではあったが、そこには悲しそうに俯く姫ヶ谷コトハの姿があった。贅沢な悩みだ。しかし人が第一印象を見た目から入るのは、仕方が無い事じゃないのか? オレはそう心の中で、彼女に問いかけていた。

「にしても学尾君ってお人よしね。普通ならそんな頼みは引き受けないと思うけど、何て頼まれたの?」

 もうここまで来ると、オレは何一つ隠す気がなくなっていた。

「ああ、最初は『試しに、姫ヶ谷に告白してみてくれないか?』って言われて、さすがに断ったんだけど『じゃあせめて、情報だけでも』って言われて……思わず引き受けちまった」。オレは頭を掻きながら言う。

「ふーん……」

 コトハは意外にも、興味津々な表情でオレの顔を覗きこんでいた。その大きな瞳を直視できずに、オレは思わず視線を反らす。

「そ、それで姫ヶ谷に近づいたはいいがなんていうか、頼まれた事以上の仕事をしてやろうと張り切っちゃったっていうか」

「その結果が今の『告白』ってワケね?」

「まぁ、そうなるな」

 彼女はしばらく間を空けると視線を下ろし、やがてクラス委員の仕事に戻った。オレはそんな姫ヶ谷を目で送り、仕事を再開しようとしたその時、彼女は再び口を開いた。

「――もし、その依頼人が同じ本校の心理学科の人間なら考えられる事は一つ。あなた、マインドコントロールされてるわよ?」

「マインドコントロール?」


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