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―第1話― 姫ヶ谷彼氏適正テスト

挿絵(By みてみん)





「またフラれたらしいよ」

「また? これでもう何人目よ?」

 

 ――四人目。始業式始まって以来これで四人目になる。これは彼女、 姫ヶ谷ヒメガヤコトハがこの二週間でフッた男の数だ。いや、『別れた』とでも言うべきか。彼女は一度告白されると、それを断った事が無い。一度付き合う事で彼氏として適正かどうかを判断しているらしい。いつしかそれは、正式に付き合うまでの『姫ヶ谷彼氏適正テスト』と呼ばれるようになっていた。そして恐らく五人目の受験者となるであろう男が、今まさにオレの目の前にいた。

 

 オレの名前は学尾マナビシゲル。笹枝ササエダ高校二年生で、心理学の勉強をしている。にもかかわらず人との付き合いが苦手なのだが、どうやら困っている人を見ると放っておけない性格らしい。そのせいか、よく人から相談や頼まれ事をする。言うなれば、オレが心理学を専攻し、『臨床心理士』を目指している所以ユエンだ。心の中では『面倒だ』と思ってはいるものの放課後、今教室ココで本人曰く『心友』の 稲芝イナシバコウイチくんの恋愛相談に乗っている自分がいた。


「おいシゲル! 聞いてるか? シゲルくーん」

「ん? なんだっけ」

「やっぱりまた考え事かよ。お前そういうの多いよな。頭の中で一人称小説ノベルのナレーションでもしてるつもりか?」

 そんなワケないだろう。オレはよくこうやって一人、考え事をしては自問自答を繰り返すという癖がついてしまっているだけなのだから。しかしどうだろうか。もし第三者視点からオレの心を読んだのであれば、まるでコウイチの言う小説ソレに見えなくはないのかもしれない。

「でもお前は主人公って柄じゃないな。今度の事で主人公は俺、ヒロインに姫ヶ谷ってなるだろう」

 自称心友のコウイチが勝ち誇ったかのように言った。

「はいはいそれで、オレにどうしろと?」。オレは机に肘を付いてコウイチに問い返す。

「今度、姫ヶ谷彼氏適正テストを受験しようと思う」

  つまり、彼は『姫ヶ谷に告白をしようと思う』と言っているワケなのだが。

「そこで、主人公の俺としては失敗できないのである!」

「じゃあ脇役のオレは告白するお前を見守っていればいいんだな」

「違う違う、それじゃあ何のためにお前は心理学を勉強しているんだよ」

 『お前のためじゃない』と言う事だけは自信を持って言えるが、心の中で彼にそうツッコミを入れている自分にも一つツッコミを入れたいというのが本音だ。

「……って言うかお前も心理学専攻だろうが」

「そう、恋愛とはつまり心の駆け引き、心理戦、タイミングが命なんだ。そこでお前に一つ頼みがある」

 そらきた。相談から頼み事へのナチュラルシフト。

「……俺が告白する前に、お前試しに告白してみてくれないか?」

「はぁ?」

 そんな滅茶苦茶な頼みがあるか。

テキを知り己を知れば百戦危うからずって聞いたことあるだろ?」。まぁこの場合、『敵』が「的」になる方が意味が通るが。続けてコウイチは口を開いた。「シゲル、お前が先に彼女に接近することで、この恋愛必勝への方程式を築き上げる」

 つまり、彼は『オレを捨て駒にして情報を集め、姫ヶ谷の彼氏になる』と言っているワケなのだが。当然、オレは断った――『面倒だ』。

「……それは無理な相談だな」

「じゃあ、せめて姫ヶ谷に関する情報だけでも調べてくれないか?」。コウイチは空かさずこう言ってくる。

 オレはしばらく悩んだ結果、不本意ではあるがその頼みを受け入れてしまった。

「それくらいなら」

 そらきた。オレの放っておけない性格。

「でも、何でオレなんだ? このC組なら皆心理学専攻だろ?」

「それはほら、あれだよ……相談事ならシゲルが一番だって、皆言ってたから――」

 


 結局、断らずにその指名を引き受ける事になり、後にオレは五人目の『姫ヶ谷彼氏適正テスト』の受験者となる。もちろん、最初は情報を得るためだけに、彼女に接近するつもりだった。



 そしてオレは、願っても無い形で彼女に接近することになる。

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