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―第18話― 見た目はいいのに

「見た目はよし! ……しかし食べ物はやはり味。コトハ同様、料理も見た目だけじゃなければいいのだが」

「私同様だって?」

「え? やっぱりお前、オレの心読めるのか!?」

「今口に出して言ってたわよ。 どうやら今日の晩御飯はいらないと見える」

 そう言いながら、コトハはオレの分のお皿を引き始めた。


挿絵(By みてみん)


「い、いります食べます、ごめんなさい」

 オレとコトハとのそんなやり取りを見てか、親父とクレハは顔を見合わせると笑い出した。

「いやいや、仲が良さそうで安心したよ」

「そうよ、最初会った時はお互い、一言も喋らないんだもん。気を使って損したわ。でも、急に仲良くなるものなのね」

 今度はオレとコトハが顔を見合わせた。これをどう見間違えたら仲いいと判断できるのか謎だが、親父とクレハには話しておかなければならないことがある。

「そのことなんですけど、クレハさん。オレとコトハは……」

「これからはクレハさんじゃなくて、お母さんでしょ? ママでもいいわよ」

「はい……じゃなくて、オレとコトハは実はもう知り合いだったんです」

「……えっ?」

 親父とクレハは予想通りの反応を示した。再び顔を見合わせているが、今度はキョトンとした面持ちだった。コトハはオレの会話を引き継いだ。

「そうなんです。私と学尾く……コホン、シゲルくんとは同じクラスなんです。だから初対面でもなかったし、どちらかというと同じクラス委員だから接点もあって」

 親父とクレハは声を揃えて驚いた。

「えーーーっ! じゃあ、二人とも笹枝高校の二年C組?」

 オレとコトハは揃ってうなずいた。親父はしばらく考え込むと、何かを思い出したかのように語りだした。

「……そういえば前にシゲルが言ってたな。六クラス代表ジャンケンで凄まじい勝ち方をした、頭も見た目もいいけど、性格が残念な子っていうのは」

「そう、それ!」。オレは箸で親父を指した。

「それ! ……ってシゲルくん? 性格が残念なってどんな話してるのよ」

 コトハは再びお皿を取り上げた。

「ちょっ、返せよ! そういう所が残念なんだ。もっと女の子らしくしてれば可愛げもあるものの」

「うるさいわね!」

 それを見ていたクレハが、今度は何かを思い出したかのように語りだす。

「あっ、シゲルくんってクラス委員なら、もしかしてコトハに告白した子?」

「そう、それ!」。コトハは箸でクレハを指した。

「それ! ……って、その真相は違うだろ!」

 オレとコトハはいがみ合っていた。しかし、今日の晩飯はまぎれもなくコトハが作った物だ。早くメシにもあり付きたいし、ここはひとつオレが折れて大人の対応を見せてやるか。

「ああもう、オレが悪かったよ」。だからメシを早く返してくれ。

「解ればよろしい」

 なんだか偉そうなコトハにイラッとするも、オレは大人の対応を貫いた。

「あら、シゲルくんって案外大人なのね」。クレハはその様子を見て微笑むように言った。

「仕方ないですよ。これから兄になる者として当然です」

「ちょーっと待ったーーーっ!」コトハは持っていた箸をテーブルに叩きつけると立ち上がって言った。オレは予想外のコトハの反応に驚きを隠せなかった。

「兄ですって? ……弟の間違えでしょ。私が姉で、あなたは弟。……あなた、何月生まれよ!?」

「何月って、5月8日だけど…」

「……ぅっ!」

 コトハは無言のまま着席する。わずかに続いた沈黙を破ったのはクレハだった。

「あらコトハ。自滅したわね」

「ま、まぁ、ご飯たべようか。せっかくのご馳走が冷めてしまうし」。親父も笑顔を努めていった。

「よろしく妹」

「誰が妹よ!」

「いただきまーす……ん!?」 

 



 ――とまあ、こんな感じで波乱の幕開けとなった新生活。結局その日の晩餐も、コトハが砂糖と塩を間違えたおかげでとても食べられたものじゃなく、出前を頼むことになった。見た目はいいのに味が残念でまるで……以下略。

 ちなみに途中でコトハの名字が変わるのは何かとまずいだろうという学校側の配慮もあり、彼女はそのまま『姫ヶ谷』を名乗ることになった。


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