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―第15話― 四人分

 電信柱の影に隠れ何かをまじまじと観察している姫ヶ谷の後姿を見つけた。オレは彼女の目線の高さに合わせ、後ろから近づく。軽く脅かすつもりで彼女の耳元で囁いた。

「なに見てるの?」

「わっ! ……学尾くん、ちよっと隠れて」

 オレは姫ヶ谷に袖を引っ張られ電信柱の影に隠れる彼女の後ろに隠れた。で、何を見ていたのだろうか。彼女の視線の先には美容室があった。

「……何してるかって?」。何も聞かないオレに彼女は尋ねてきた。

 そりゃそうだ。姫ヶ谷は今の自分の行動に正当な理由をつけたいらしい。傍から見るとなんとも怪しい状況だ。

「ストーキング?」

「聞こえが悪い言い方しないでよ! ……コホン。あのね、最近ウチのお母さんの様子が変でね」

「お母さん? じゃあ今美容室にいるのは姫ヶ谷のお母さん?」

「――御名答」

「へぇ! 初めて見る。どれどれ」

「ちょ、ちょっと」

 姫ヶ谷は再びオレの袖を引っ張った。しばらくして美容室の扉が開くと、一人の美しい女性が現れる。それが誰かを姫ヶ谷に確認する事なく彼女の母親だとわかった。

「そっくりだな。姫ヶ谷は完全に母親似だな。親父さんは見たことないけど」

「なのかな。私もパパの顔は思い出せない」

「思い出せない?」

 オレは彼女のその言葉の意味を察した。母親のことを「お母さん」と呼び、父親のことを「パパ」と呼ぶ姫ヶ谷コトハのその深層心理。それは彼女と彼女の父親との時間がそのまま止まっていることを意味する。恐らく彼女自身、無意識のうちに使い分けていることに気が付いていないようだ。

「学尾くん、なにしてるの? 追いかけるわよ」

「え? ああ悪い。今日はもう帰らないと」

「そう……よね」

 オレは姫ヶ谷を残しその場を後にした――。


******


 オレは親父に言われた通り、駅前のレストランに集合した。

「ここで……いいんだよな」

 久しぶりの外食なのはわかるが、この高級感はいったい……。っていうかホントにここで大丈夫なのか? オレが店内に入るとウェイトレスがやって来る。

「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」

「はい、学尾で予約してると思うんですけど……」

「学尾様ですね。こちらにご案内します」

 どうやらここで間違いないらしい。と思ったが席に案内されて間違いとも思った。オレが案内されたテーブルにはどういう訳か四人分の席が用意されていた。

「あの……予約は二名だったと思うんですけど……」

「二名ですか? こちらの席のご予約をいただいたのは学尾ノボル様ですが」

 間違いなく親父の名前だ。しかし四人とはどういうことだろうか。疑問を抱きながらもオレは席に着いた。落ち着かない。辺りを見渡しても制服を着た学生なんてオレ以外にはいない。場違いではないだろうか。そうしているうちに親父が到着する。

「すまん。遅くなった」。そう言って隣の席へと座った。オレはさっそく問いただした。

「……なんで四人分なんだ?」

 予約人数のミスかとも考えたが、親父が隣に座ったことでその可能性も無くなった。オレの目の前には空席が二つ。明らかにあと二人、誰かが来る事を説明している。警察の仕事仲間だろうか。だとしたらオレを誘うのはどうかとも思うが。

「実はなシゲル……前々から言おうとは思ってたんだが」

 どうした親父。そんなにあらたまって。視線を向けるその先、親父の後方からもう一人別の女性の声が聞こえてきた。

「ゴメンなさいね。ノボルさん、遅くなっちゃって」

 ノボルさん?

「ああ! クレハさん。いえいえ全然、平気ですよ」

 クレハさん? 親父の後ろには年の頃30~40歳ほどの、美しい女性が立っていた。しかしなんだろうか、どこかで見たことあるような。さらにその後ろからもう一人、もっと若い女性の声が聞こえてきた。

「お母さん、何なの急に……」

 親父は二人を前に紹介を始めた。

「この人は姫ヶ谷クレハさん。俺の再婚相手だ」

 

 ……


 …………


 ――……えーーーっ!!!!


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