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―第11話― 学尾家

『約束をした』

 

 オレは何とか家にたどり着く。玄関の明かりを点け、親父の靴が無い所を見ると、まだ帰っていないようだ。オレの右手には、持ち手の部分に猫の肉球のデザインが施された女物の折り畳み傘。この日は結局、姫ヶ谷を家まで送り、傘をそのまま借りてきてしまった。世間が言う所の『相合傘で』だが、コウイチに見られていたら殺されていた所だ。

『でも約束をした』 

 姫ヶ谷が泳げないという事を唯一知ってしまったオレは、放課後の後さらに姫ヶ谷に泳ぎ方を教える事を約束をしてしまった。オレはそのまま二階の自分の部屋へと足を運んぶ。明日返すのを忘れないように、折りたたみ傘を鞄に忍ばせた(親父には見られたくない)。その時、鞄を開けて一番上にあった『姫ヶ谷コトハの考察』ノートが目に付いた。オレはそのノートを開くと性格の所に記した『性格:あまり良くない』の横にこう書き足した。

 

 『性格:あまり良くない、が、やさしい一面を持つ』


続けて


 『泳ぎが苦手』


 一息ついた所で気が抜けたのか、急に眠気が襲ってきた。今日はなんだかすごく疲れた気がする。オレはそのままの姿でベッドに倒れこんだ。 


******


 ――寒気がする。目を覚ました時とっさにそう思った。夏だというのにこの寒気はなんだろうか。オレの部屋にエアコンは無いはずだが、微かに部屋のカーテンが揺れているのに気が付いた。

『開けっ放しだったか』

 現時刻は夜九時を回っている。帰ってきてから約二時間、明かりを点けたまま眠っていたようだ。寝ぼけた頭でその少し開いていた窓を閉めるが、気が付けば酷く汗を掻いていた。やがて頭痛に襲われる。寒気と汗、それにこの頭痛。どうやらオレは、風邪を引いてしまったのかもしれない。『あぁ、やっちまった』。フラフラの意識の中で、体温計を取りに一階まで下りると、テレビの音が聞こえてきた。どうやら親父がかえってきたらしい。

「親父」

「おお! シゲル、ただいま。晩飯買って来たぞ」

 そう言ってオレの親父、学尾ノボルはコンビニの弁当を指差した。いつもの事だ。我が家『学尾家』にはオレと親父、男だけの二人暮し。母親はオレが物心つく前に亡くなったらしい。だから顔も覚えていない。小学生の頃、一度だけ写真を見せてもらった事があったが、それももう昔の話だ。親父は警察官をしながら、一人息子のオレをこの十数年間、一人で育ててきてくれた。本人には言えないが、優しくも厳格な父を、オレは尊敬していた。

「おかえり親父……今日はなんかもう、いいや」

「お前大丈夫か? 具合悪そうだけど」

 オレは引き出しの中にある体温計を取り出し、熱を測る――。

「……38.7℃、さいあく」

「まずいな、薬飲んで寝てろ」

 熱があると知ったら余計苦しくなった気がする。オレはコップに水を注ぎ、薬を飲んだ。苦味さえ感じないほどに味覚まで麻痺しているようだった。親父はオレの手を肩に回すと、部屋まで連れて行く。

「何か欲しいものはあるか?」

「…………」

 親父はオレを寝かせると、電気を消しゆっくりとそのドアを閉めた。

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