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『船長の手記』


船長の手記


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 あの日、いきなり乗り込んできた船長率いる海賊に、乗組員、そして父さんは、なすすべなく、ヤツらの剣の前に倒れた。

 あの時、僕――いや、私を海に投げてくれなかったら、自分は今、ここにはいなかっただろう。

 

 

 血の海に変わった船の上で叫び声を上げていると、父は「逃げて生き延びろ」と囁き、当時子供だった私を海に落とした。そのすぐ後に、あの気の狂った船長が父にとどめをさすのを見た。

 

 寒くて冷たい海の中を、死ぬものかと一生懸命に泳いだ。だんだんと空は暗くなり、海は荒れ始めた。

 自分が今どこにいるのかも分からない海の中で、「諦めるなと」言う父の口癖を何度も呟いた。

 そして、おそらく次の朝日が昇った頃に、どこだか分からないが岸に流れ着いた。偶然にもそこには人が住んでいて、小さな村があった。

 私は「ギンギン海賊団」の船長になるまで、その村にいた女性に育てられた。彼女は私を実の子供のように可愛がってくれ、私も、彼女を母親のように慕った。

 しかし、私は父の事も、船員の事も忘れはしなかった。気が付けば毎日のように剣を振り、父達を殺したヤツらへの復讐だけを思って生きてきた。

 剣術は独学だったが、自分でも驚くほど腕は上がっていった。最終的には村で一番の剣士とうたわれていた若き村長までもを打ち負かした。


 そして、自分の船を持ち、「GIN-GINギンギン海賊団」なる物を作った。全ては、この海のどこかにいるあの船長に復讐するためだ。

 海賊団といっても、敵に近づきやすくするための策でしかなかったため、正直なところ、船員は私1人でよかった。しかし、身寄りのない人や、海賊に憧れる人達を善意で船員として迎えた結果、大規模な「海賊団」になっていった。

 海でおぼれ、身よりの無かったアンディーは、なぜか自分に似たものを感じで船員として迎え、地上の賊――つまりは盗賊だったイヴァンも、身寄りがないと縋られ、船員にした。

 そして、海賊になる事を夢見ているというロブや、料理をしながら各地を転々としていたイルマを船内料理人と船内の掃除係に迎えた。

 あの4人を含む256人の船員達にはいつも感謝している。



 つい何日か前、イヴァンが私に古い日誌を見せた。書いては破り、破っては書いてを繰り返したあげく、残り9ページほどになった物だ。

 イヴァンは端の折ったページを開いて、私に渡した。……中は、私が「ミカクニンセイブツ」ではないかという事と、イルマの事が書き連ねられていた。

 彼の目を盗んで、他のページをパラパラとめくってみると、私に対する嫌味やグチが書き込まれていた。「女顔」、「女みてぇ」、「ナマケモノ」……その類の言葉がほとんどだった。

 ナマケモノで、身の回りが汚いというのはともかく、「女顔」という言葉には、不快な物を感じた。昔から「女々しい」だの、「女」だの言われてきたせいか、私はそれらの言葉が一番嫌いだからだ。

 

 私を、船員達は誤解しているようなので、イヴァンにだけ、今まで隠し通してきた秘密を全て明かした。話が終わると、彼はサメが目の前を通り過ぎたような顔で私を見ていた。

 

 ここに、改めて書いておく。

 私が「ナマケモノ船長」を演じているのは、全て船員達のためだ。私が復讐しようとしているあの残忍な船長は、きっと今もどこかで生きている。

 ヤツらに目を付けられず、安全で居続けるには、地味で、誰も興味を示さないような海賊団でいるしかない。

 何もしない、バカなナマケモノ船長を演じていれば、物資や宝の数も少ないと見て、攻撃されにくい。せっかく集めた宝を捨てるのも、そのためだ。



 私が今ここに存在し、生き続ける理由はただ1つ。父や、船員達を殺したヤツらを、この手で倒す事だ。


 


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