「このラーメンを食べ終えたら、いつものところに行こう」
「このラーメンを食べ終わったら」
食券を買う。
テーブル席に案内される。
広は・ふつう・多め・濃いめ
冴子は・固め・少なめ・ふつう
「広はいつも、それだね」
「いろいろ考えるのが面倒だから」
「ふーん」
冴子は言い、つづけて、
「もしかして、あたしといるのもいろいろ考えるのが面倒だから?」
「そんなことない。冴子といるのは安心したいから。会っていつもとおなじか確かめたいから」
よく見かける女性店員がラーメンを持ってきた。
「おまちどうさまです。・ふつう・多め・濃いめです」
「こちら、・固め・少なめ・ふつうです」
広はレンゲでスープを飲んだ。
「今日の冴子は機嫌が悪い」
「なんで?」
冴子はレンゲでスープを飲んだ。
「ふだんの冴子なら、麺を固めにしない。固めにするのは、決まってなにかに気を悪くしているときだ」
「ホントに?」
「機嫌がよいときは脂を多めにする」
「えー!嘘だ」
「嘘だ。そんなこと、冴子をひとめ見ればわかる」
「なんだ。じゃあ、何で気を悪くしているのかわかる?」
「30歳の誕生日にいつものラーメンに来たから。もしかして僕が冴子の誕生日を忘れているかもって思っている」
広は麺を啜った。
冴子は麺を啜った。
「このラーメンを食べ終わったら、いつものところに行こう」
広は、ほうれん草を箸でつかんで食べて、
「わからない?」
と、冴子を誘った。
冴子は、ほうれん草を箸でつかんで食べた。
広はレンゲでスープを飲んだ。
冴子はレンゲでスープを飲んだ。
「でもあそこはいま暗いわよ」
「構わないだろ?」
「うん」




