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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第二章 スタートライン
9/10

#09 学問のススメ


 トランベル王国にも、学校に相当する教育施設があるそうだ。

 家庭教師に教えてもらった話では、学館と呼ばれる王国が運営しているもので、主に下級貴族や商家や地主などの男子を教育するための教育機関であり、女子の入学は認められていないそうだ。

 主に教えているのは、いわゆる一般教養にあたる、語学や算術、歴史や作法などで、俺が学んでいる哲学や政治学などは専門教科であり、上位貴族や王族の嗜みという扱いになる。

 つまり、各学問別に多数の家庭教師を雇う余裕のない下級貴族子息や、将来家業を継がせたい商家などの跡継ぎの教育に関する受け皿といえる。


 なぜこのような話になったかというと、近代日本で言う大学に相当する教育機関の存在を確かめようとしたら、学館の話がでてきたのだ。

 そして、俺が期待していた大学のような最高学府や研究機関はないとのこと。

 唯一それに近いのが、魔法研究館だけらしい。

 俺には魔法適正はない。ちなみに、クリスティーナ嬢もアベルもないし、3つ下の弟のヤリスにもない。


 うーん、もっと高度な勉学に興味があったのだが、大学が無いとなると、家庭教師に依存するか独学になるのか。

 そしてもう一つ引っかかったのが、女性の教育後進。

 トランベル王国では男女の教育格差が大きく、下級貴族や庶民の子女には勉強する環境すら無いと言える。せいぜい、政略結婚のために躾やマナーに社交界で会話できる程度の雑学を教えるそうだが、それは親や使用人が教えているのが実情らしい。

 そしてクリスティーナ嬢本人から聞いた話では、上位貴族の息女ですら、言語学や歴史学程度で、躾や作法などがメインなんだそうだ。


 それを聞いて一番に感じたのが、勿体無い。クリスティーナ嬢ほどの賢い人材を、女性だという理由で才能を伸ばす教育をしないなんて、大きな損失だと言える。

 しかも、クリスティーナ嬢は俺の許嫁であり、グレイス家にとっても貴重な人材だ。


 そこで、閃いた。

 俺がクリスティーナ嬢の家庭教師になればいいんだ、と。


 そう決意した翌日。クリスティーナ嬢が会いに来てくれたので、「庭の胡蝶蘭が蕾を開いたそうなので、一緒に見に行きましょう」と連れ出して、二人きりになれる時間を作った。

 ちなみに、使用人が一人ついてきたので、「二人きりでお喋りをしたいので、少し離れていてくださいね」と釘を指したら、「畏まりました、坊ちゃま」と言いつつ、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 いや、下心とかないから。グレイス家の未来に関わる相談だから。


 日傘をさしてエスコートしつつ、勉強の話から振ることにした。


「君は、勉強は好きですか?」


「はい、好きです」


 うーん。即答するということは、用意されていた社交辞令的な答えだろう。


「特にどのような学術が好きなのですか?」


「歴史学です。先人の功績が学べて、とても有益な知識だと思います」


 優等生的な答えだろう。しかし、いま聞きたいのはそんな答えではない。


「では、これから学ぶ機会があるとしたら、どのような学術に興味がありますか?」


「え・・・申し訳ございません。そのようなことを考えたことがないものですから」


 そりゃそうか。女性の教育格差は常識レベルなのだから、幅広い学術に興味を持つという発想すらないのだろう。


「君はとても賢い人です。僕は、その才能を活かすべきだと考えています。例えば、法律を学ぶことで一族の風紀を管理して対外的な訴訟の対応をしたり、算術を学べば財政を管理運用することもできるでしょう。医学を学んで、医師になるというのも面白いかもしれません」


「あの、トーマス様?そのようなことを仰られても・・・」


「僕には跡継ぎとして、このグレイス家を守り、繁栄させる責任があります。君にはパートナーとして、僕を助けてほしいと考えているのです」


「はい。婚約者としてのお役目、精一杯務めさせて頂きます」


「うん。でも、僕が言いたいのはそうではなくて、君の賢い頭脳が必要なんだ。そのためには、早くから勉強するべきだと考えているんだ」


「そうですか・・・ですが、わたくしは女性ですので、家庭教師を増やして頂くことは難しいかと」


「そうだね。でもここからが今日の本題なんだ。クリスティーナ様、僕と一緒に勉強をしませんか?僕の持っている知識を君に教えます。算術でも経済学でも法律でも、なんでも教えます。あ、医学と魔法は無理ですが。どうですか?」


 立ち止まってクリスティーナ嬢の目を真っすぐに見つめ、訴えた。

 そして、クリスティーナ嬢は目を伏せて少し考えたあと、答える。


「畏まりました。ぜひわたくしに、学問を教えてください」


 いつの間に辿り着いていた花壇では、まるで俺たち二人の未来を応援しているかのように、たくさんの胡蝶蘭が咲き誇っていた。

 こうして、俺とクリスティーナ嬢の勉強の日々が始まった。







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