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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第一章 転生者たちの現実
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#03 二人目の転生者 後編


 マリナは、トーマスとクリスティーナが婚約関係だと聞いても、ショックを受けたり、諦める様子はなく、むしろ、その表情には余裕すらあった。

 この世界のマリナとしては14歳の少女だが、前世では18歳の女子高生であり、それなりに恋愛経験を積んできた。世間知らずのお嬢様に負ける気など、微塵も感じることなく、それこそ、前世では流行りだった悪役令嬢もののようにクリスティーナを断罪してやれば、トーマスを略奪するなど簡単だろうと考えていたのだ。


 マリナが内心でほくそ笑んでいると、クリスティーナ侯爵令嬢がリッター男爵とマリナの前にやってきた。

 美しい所作でカテーシーを披露するクリスティーナは、さすが侯爵家の長女であり、威厳と風格すら感じるもので、リッター男爵はトーマスのときと同様、ペコペコとしながらの社交辞令に終始していた。

 しかし、自分がヒロインであり、クリスティーナは退場が約束された悪役令嬢と見なしていたマリナは、「今こそ悪役令嬢断罪イベントのチャンス!」と、先手を打つことにした。


「クリスティーナ様に、お願いがありますの」


 談笑を続けるリッター男爵の言葉を遮るように、マリナが話しかけた。

 その瞬間、場の空気は固まり、周囲の人間は一斉にマリナへ視線を向けた。

 父の言葉を遮り、会話に割り込むなど、貴族の社交場ではご法度であり、周囲の反応は当然であった。

 しかし、クリスティーナはマリナの無礼を受け流し、表情を変えることなく微笑みながら答える。


「どうされました、マリナ嬢。わたくしにできることでしょうか?」


「わたくしを、クリスティーナ様のお茶会にぜひご招待いただきたく存じます」


「お、おい!なんてことを!?クリスティーナ様、愚娘の無礼、大変申し訳ございません。なにぶん、今日が初めての社交界デビューでして・・・」


「うふふ。大丈夫ですよ。では、次のお茶会には、マリナ嬢にもご招待状を送りますね」


「あ・・・ありがとうございます。大変楽しみにしております」


 思惑から外れたクリスティーナの返答に、一瞬怯むマリナだが、なんとか取り繕って、笑顔でお礼を述べた。

 マリナとしては、自分のお願いを断ることを想定して、「私のお願いを断るなんて、いじめですわ!」と悲劇のヒロインムーヴをかますつもりだったが、今回は失敗した。


 そんなマリナの思惑を知らないクリスティーナは、マリナからリッター男爵へ視線を向けると、にこやかな表情のまま言葉を続けた。


「リッター男爵。このような次第ですので、わたくしのお茶会の際には、男爵令嬢らしい振る舞いをお願いしますね」


「あ、いえ!た!大変申し訳ございません!」


 暗に、当主としての監督責任を問うクリスティーナの言葉に、血の気が引く思いで謝罪するリッター男爵だったが、さらに追い打ちがやってきた。この日の主賓である、トーマスだ。


「どうされましたか?なにか問題でもございましたか?」


 主賓として招待されたパーティーで、主催者が絡むトラブルがあったとなれば、グレイス家としては家名にドロを塗られたも同然。グレイス侯爵の名代である以上は、静観していては示しがつかない。

 しかもその相手が、自身の婚約者であるブラン侯爵家のクリスティーナ嬢となれば、トーマス自身の立場としても、黙ってはいられないのは当然だった。


「お騒がせして、申し訳ございません。マリナ嬢から、お茶会に招待して欲しいとのお願いをされましたので、お約束していたところでした」


 主催者であるリッター男爵よりも先に、トーマスの問いに答えたのは、クリスティーナだった。


「ふむ。リッター男爵、どういうことでしょうか?」


「あ、あの!私!クリスティーナ様とお近づきになりたくて!」


「ば、ばかもの!お前は黙っていなさい!大変申し訳ございません!後日改めてお詫びにお伺い致しますので、今日のところはお開きということで・・・」


 パーティーはお開きとなり、クリスティーナをブラン家邸宅に送り届けたトーマスは、その日のうちに、父グレイス侯爵へ事の顛末を報告した。


「そうか。ヤリスの処遇を間違っておれば、我がグレイス家もリッター家のようになっていたかもしれぬな」


「はい。その可能性は否定できません」


「リッター家の処遇、名代としてお前に任せる。グレイス家の家名にドロを塗ったこと、きっちり落とし前をつけて見せよ」


「畏まりました」


 リッター男爵からは『謝罪に伺います』と言われていたが、実際に来られるとグレイス侯爵の手を煩わせることになりかねない。一任されたトーマスは、そのような事態を避けるために、翌日にはリッター男爵家に使いを出した上で自ら足を運んで訪ねた。


 当主自ら丁重に出迎えられ、席に着くと早速謝罪を始めようとするのを制止して、トーマスは「まずはマリナ嬢から、直接話を聞きたい」と要求した。


「しかし、これ以上失礼があっては」


「私は構いません。少し気になることがありますので、できれば二人きりで話を聞きたいのです」


「ですが・・・」


「これは、お願いではありませんよ。グレイス侯爵の名代としての言葉だと、ご理解ください」


 これ以上拒絶すれば、グレイス侯爵への反逆となりかねない。観念したリッター男爵は、使用人にマリナを別の部屋に待機させるように指示を出した。


 準備ができたと報告を受けると、男爵はマリナを待機させている部屋にトーマスを案内し、床に跪くマリナと対面させた。


「トーマス様!私を助けに来てくださったのですね!」


「このばかもの!貴様のせいで我がリッター家は!」


 トーマスが会いに来たことに喜ぶマリナを、リッター男爵は容赦なく折檻した。


「リッター男爵、見苦しいですよ。二人だけで話をしたいので、席を外してください」


「申し訳ございません。外に控えておりますので、何かありましたらすぐにお呼びください」


 そう言って男爵が退出すると、トーマスは用意されていたイスに座り、マリナをじっと見つめて観察した。


「あの!トーマス様!聞いてください!トーマス様には私が一番お似合いなんです!」


「なぜ、そう思うのです?」


「私がヒロインなんです!悪役令嬢のクリスティーナ様よりも、ヒロインの私のほうがトーマス様にはふさわしいんです!」


 マリナの自称ヒロイン発言を聞いたトーマスは、イスから立ち上がり、目を細めてマリナを一瞥すると、「私をここから連れ出してください!トーマス様のお傍でなんでもしますから!」と騒ぐマリナには何も告げずに部屋から退出し、廊下で控えていたリッター男爵に「マリナ嬢の処遇について、相談しましょうか」と声をかけ、部屋を後にした。


 結局、マリナは修道院での蟄居が決まり、リッター男爵は監督責任を取るために家督を長男に譲り、当主を引退。また、姉の纏まりそうだった婚約話は白紙となった。


 そして、修道院に蟄居した三日後、マリナは身投げして命を落とした。

 しかし、これも身投げを偽装した暗殺であり、その事実はグレイス家の一部の人間しか知らない。






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