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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第三章 グレイス家の若君
12/14

#12 帰還者トーマス


 グレイス領は王家が直轄する首都圏とは隣接しており、王都からは馬なら1日、徒歩なら三日から四日程度の距離だろう。ちなみに今回は急ぐ旅ではないので、馬車で片道三日の工程だ。


 主なメンバーは、当主の父上、跡継ぎの俺、その婚約者のクリスティーナ嬢。今年に入って女児を出産したばかりの母上と、弟のヤリスは王都で留守番である。

 お供は、30名ほどの護衛団、父上の秘書官1名と従者2名。俺には世話係1名。クリスティーナ嬢にはブラン家から世話係1名と護衛の従者2名も随伴する。

 イメージ的には、江戸時代の大名行列を小規模にしたものだろうか。


 馬車は父上が乗る1台と、俺とクリスティーナ嬢が乗る1台の計2台。

 父上と俺が別々なのは、もしなにか有事が起きた場合に、どちらかが生き残れる可能性を大きくするためだと教えられた。サラリーマンにはない発想なので驚いたが、侯爵家の当主としてリスク分散は当然の考えなのだろう。


 母上やヤリス、執事をはじめとした使用人たち一堂に見送られての出発。

 ブラン侯爵家のご令嬢も一緒ということで、出発だけでも式典のような大仰な騒ぎだ。あくまで比喩で、誰も騒いだりしないが。


 今回の主役は、父上ではなく俺でもなく、クリスティーナ嬢だろう。俺は男子だし一度帰還しているから、俺の顔を見ても家臣たちはたいして喜ばないはず。

 しかし、名門ブラン侯爵家ご息女で貴族令嬢のお手本ともいえる彼女を見たら、多くの家臣や領民は「これが本物の侯爵令嬢ってやつか!?」と驚くに違いない。俺も5歳の時に初対面では驚いたもん。

 そんなことを考えていると、早く見せたくてうずうずしてきた。

 別に彼女自慢じゃないぞ。どちらかというと、出来の良い部下を自慢したい上司の心境か。結局、自慢したいだけなんだな。


 車中でのクリスティーナ嬢は、最初は口数が少なかったが、馬車が外環門を通って王都から出ると、目を見開いて興奮した様子で外の景色を眺めていた。

 この国は農業や畜産などが盛んなので、見える景色は田園や放牧地だったが、それでも彼女には物珍しいのだろう。牛を見ては「あの白のお肌に黒のまだらは、どのようにしてできるのでしょうか」と俺に質問していた。俺も知らないから答えられなかったが。


 三日間の移動は大きなトラブルはなく、予定通りの日程で領都近郊まで来ると、馬車の外ではなにやら騒がしくなった。

 何事なの?と外の御者に尋ねると、領都では領主一行の帰還を出迎えるために領民が待ち構えているらしく、そのための事前連絡や調整などをしているらしい。要はパレードみたいなものか。近代日本でも、海外の王族などが来日した際のパレードをテレビで見たが、あんな感じなのかな。

 クリスティーナ嬢は大丈夫だろうが、俺はあんなふうに爽やかに笑えるだろうか。自分が笑った顔を思い浮かべようとすると、どうしても50代の中年男のイメージが強すぎて、我ながらキモイんだよね。8歳のトーマスは子供ながらに凛々しくてイケメンなのに。


 そんな俺の中年スマイルの不安などお構いなしに、ご領主様一行が領都の門をくぐると、領民の大歓声で迎えられた。4歳の時に帰還したときは、こんな感じじゃなかったと思うのだが。婚約者を連れての帰還だから、お祭り騒ぎなのかな。

 御者席に座る世話係に「坊ちゃま、領民にお応えください」と言われたので、窓から顔をのぞかせて手を振ってみた。クリスティーナ嬢も反対の窓から同じように手を振っていた。


「トーマスさまー!きゃー!こっちみたー!」

「クリスティーナさまー!かわいいー!」


 ただ手を振っただけなのに、割れんばかりの大声援が巻き起こる。

 いやこれは、マジで凄いな。

 ビビるというか、感動というか、とにかく気持ちがザワザワして足が震える。武者震いってやつか。

 将来、俺は領主を継いで、クリスティーナ嬢と共にこの領民たちすべてを守らなくてはいけないんだな。

 自分がグレイス家の跡継ぎである本当の意味での責任感が、この時に初めて芽生えた気がする。


 城までの大通りは領民たちに埋め尽くされ、城門へ入るまで大歓声は続いた。

 そして城内に入ると、今度は整列したフル装備の兵士や文官たちに出迎えられる。

 そうだ。前回の帰還でもこんな感じで家臣団に出迎えられた。

 まず先に降りて、あとから降りるクリスティーナ嬢を補助しながらエスコートすると、「おぉ・・・」と家臣たちの感嘆の声が聞こえてくる。

 ふふふ、見たか。これがパーフェクト侯爵令嬢、クリスティーナ・ブラン様だ!

 なんて言ったら父上にお説教されたあげく矯正教育送りにされかねないので、ニヤけそうになる表情だけは必死に取り繕った。


 そんなこんなで、馬車から降りると、父上の実弟にあたるコーデン叔父上に出迎えられた。

 しかし、長旅で馬車に揺られて痛む足腰をほぐすこともできず、すぐに移動だ。クリスティーナ嬢は来客用の部屋に案内され、俺は父上と一緒に執務室に通された。

 ちなみにこの叔父上が、領主が留守のあいだの実務を担ってくれるから、領主である父上は王都での政務にあたれるというわけだ。

 今回は婚約者お披露目が目的とはいえ、領主である父上は留守中の業績確認などやることが山積みなのだろう。そして、俺にもその仕事を実際に見せておきたかったのか、到着したその日から早速仕事だ。


 大きなテーブルにはグレイス領の地図が広げられ、叔父上が資料片手に説明し、ところどころで執務官が補足を加えていく。昨年の税収の報告から始まり、各種税によって増減があり、その理由を父上が質問すると、執務官が説明していった。

 初めて聞く話ばかりだし規模の想像が難しいので、俺にはいまいちピンとこない話ばかりだったが、1つ気になったのは作物などの量を表わすビルという単位。

「秋の収穫にて小麦が1200万ビルあり、昨年度より150万ビルほど増えたおかげで、税収として400万ビルの見込み」と言った感じで説明されており、このビルという単位は初めて聞いたのだが、恐らく重さか容積を表わすのだろう。

 貴族の子供では、お金を扱うことがないのと同じように、日常生活で重さを計るような機会がないため、これまで重さの単位の存在を忘れていたが、これもクリスティーナ嬢には教える必要があると思う。そのためには俺も勉強しておく必要があるな。


 俺はあくまで父上の仕事を見学している立場なので、こちらからは口を挟まず静観していたが、時折父上から「トーマス、いまの話を聞いてどう感じた?」と質問が飛んでくるので、「小麦の税収が増えた理由が収穫量増との話でしたが、その収穫量増の理由まで把握できているのでしょうか?そこを抑えておけば、来年以降の収穫量も積極的に伸ばしていくことが可能になるのではないでしょうか」など、もっともらしいことを答えておいた。

 ちなみに、父上は「ふむ」としか答えなかったが、執務官は「あ、えっと、すぐに調査いたします」と少し焦った様子だったので、余計なひと言で彼の仕事を増やしてしまったかもしれない。






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