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第6話 秘境と予約は相容れない



大体こんな秘境で「予約」なんてシステムが成立するのか?


帝都の出版局に便りを出してから数日。俺はその間、予約制度の導入に向けて、あれこれと調べ物をしていた。

とはいえ、図書館があるわけでもなければ、商業ギルドの支部があるわけでもないこの山奥では、情報源なんてたかが知れている。


持ち出してきた古い資料や、ライルが村の学び舎から借りてきた教本を漁りつつ、俺は眉間に皺を寄せて唸っていた。


(どう考えても……街からここまでの距離がありすぎる)


地図上では帝都から直線距離で百二十キロ。だが、道中の峠道と山道を経由すれば、実際は倍以上かかる。馬車では三日。歩きなら一週間。転移魔法は高すぎて庶民には無理。


この時点で、一般的な予約制店舗としての機能はかなり怪しい。


ここら辺じゃ、ろくな交通の便も通っていない。

魔導列車? もちろん走ってない。舗装路? 一部しか存在しない。

気軽に訪れるにはあまりにも“秘境”すぎるのだ。


さらに悪いことに――


(商人ネットワークが機能するような中継所が、近くにねえ)


山の麓にはいくつか交易拠点が存在するが、それも限られた季節にしか機能しない。

雪が降れば通行止め。魔獣が出れば封鎖。雨季になれば道はぬかるみ、荷車も動かない。


そもそもこの村自体が、「外部との接触が少ないこと」が売りの土地だ。

それを望んでここへ来たのは、他でもない俺自身だった。


つまり――


(この場所で“公的に飲食業を営む”ってこと自体、いろいろ矛盾してるんだよな)


静けさ、孤立、自由。それが俺の理想だった。


なのに今は、予約帳と営業カレンダーを前にして、客の来店調整で頭を抱えている。

拠点として築くには、あまりにも条件がチグハグすぎる。


「……とはいえ、やると決めた以上、やるしかないか」


俺はため息をつきながら、最後の手段に出ることにした。


――ダメ元で、近場の商人ネットワークに連絡を取ってみる。


それは、山の麓にある中継村「リクス」と「ナバレ」を経由している、零細規模の流通連絡網だ。

規模は小さいが、時折この村に調味料や布地を持ってくる行商たちは、どうやらそのネットワークを使っているらしい。


さっそく、以前訪れたことのある商人“ベロック爺さん”宛てに便りを書くことにした。




《リクス村 行商ギルド 様》

担当:ベロック殿


ご無沙汰しております。ガルヴァの食堂より、ゼンと申します。


この度、当方店舗への来訪者増加に伴い、「事前予約制」の導入を検討しております。

つきましては、リクスを起点とした伝言連絡または予約代行業務の可能性について、検討いただけないでしょうか。


・希望対応:来店日/人数の伝言預かり

・手段:訪問商人からの口頭伝達 or 簡易魔導符の活用

・報酬:予約一件につき、当方特製の干し肉または茶葉の譲渡可


不明点があれば、返書にてご連絡くださいませ。

時節柄、山道は危険もございます。くれぐれもご自愛のほどを。


              ガルヴァ山間の食堂 ゼン 拝




便りを結び、魔道鳥にくくりつけ、空へと放つ。


――まったく、元騎士団の俺が、今や商業交渉してるんだから世も末だ。


とはいえ、これがうまくいけば、

“予約の受付口”という外部の窓口ができるわけだ。


少しずつでいい。派手じゃなくていい。

俺の理想に、ほんの少しだけ現実を近づけるために――


今は、この一手に賭けてみよう。


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