キャラクター紹介
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■ ゼン・アルヴァリード
「俺はただ、生きていたいと思っただけだ。
世界を救った? そんな大層な話じゃない。
ただ、壊したくなかったんだ。目の前の、小さな日常を。」
● Ⅰ. 基礎情報
【項目/設定】
□ 名前 / ゼン・アルヴァリード(Zenn Alvaried)
□ 種族 / 人間(厳密には“零位種”)
□ 年齢 / 外見:30代後半/実年齢:推定43歳
□ 出身 / エーリア大陸南部辺境「アークウェン村」出身(無名の寒村)
□ 身長|体格 / 182cm|鍛え上げられた体。筋肉質だが無駄がない
□ 髪・瞳 / 暗めで落ち着いた赤茶色の髪、蒼灰の瞳(戦闘時は淡い光を放つ)
□ 呼称 / “灰色の盾”、帝国時代の通り名“蒼竜の守将”、村人からは“ゼン親父”
□ 職業(現) / 古民家食堂「灰庵亭」店主(週3営業・予約制)
□ 職業(過去) / 帝国騎士団「蒼竜」部隊隊長/赫焔の狼ギルド創設メンバー
□ 好物 / 焼き魚、味噌汁、濃い茶、山菜の天ぷら
□ 苦手 / 甘いもの、政治、社交辞令
● Ⅱ. 出自 ― 「零位種(Nullborn)」としての出生
ゼンは、人として生まれながら魔力を一切持たない特異な存在だった。
この世界において魔力とは「生命の証」であり、
魔力を持たぬ者は“生まれそこない”として扱われる。
しかし、ゼンの家系――アルヴァリード家には古くから一つの伝承があった。
“我らの血は神々の夢の余白より生まれしもの。
七柱の加護を拒み、理の外に立つ者なり。”
アルヴァリード家は、神々の戦争の後、
七神のいずれにも属さなかった“零位の系譜”。
その血筋は「神々の力を中和する存在(=器)」として
極めて稀に生まれるとされていた。
ゼン自身はそのことを知らず、
魔力が無いことを理由に幼少期は村から疎まれていた。
しかし、魔力を持たぬ代わりに、
彼の身体は外部のエネルギーを“拒まない”構造をしていた。
それが後に《オールノッキング》という能力として顕現する。
● Ⅲ. 能力:全拒還流の正体
“全ての力を受け止め、流す。それは守りではなく、還りの理。”
【発現原理】
・ゼンの肉体・魂は、七属性のいずれにも属さない「零位座標」に存在する。
・外部から加わるエネルギー(魔法・衝撃・熱・精神波など)を“自らの魔力回路”として変換し、再び外界へと放出する。
・よって彼自身は魔力ゼロ体質でありながら、無限の受動エネルギー変換炉と化す。
【応用能力】
▼ 技名(通称)/内容
□ 《リフレクト・ノウズ》 / 物理・魔法攻撃を無方向に散らす防御反射。
□ 《サイレント・フォールド》 / 魔法陣や詠唱構造を分解し、魔力式を中和。
□ 《ヴォイド・カウンター》 / 受けた力を蓄積し、意志に応じて一点放出。
□ 《灰燼の盾》 / 終焉戦役で発動した最終形態。属性概念そのものを拒絶し、空間を「静寂化」する。
【副作用】
・使用中は時間感覚が歪む。
・長時間発動すれば、己の存在そのものが“世界に溶けていく”。
・終焉戦役後、ゼンはこの副作用により「魔力ゼロ=存在薄化」状態に陥り、
以降、魔法を一切使えない普通の人間になった。
● Ⅳ. 人生経歴と転機
▼ 幼少期(~15歳)
・アークウェン村の貧しい農家に生まれる。
・魔力を持たないため、周囲から“無色の子”と呼ばれ差別を受ける。
・10歳の時、村を襲った魔獣の群れから妹を庇い、重傷を負うが奇跡的に生還。
このとき初めて《オールノッキング》が発現。
自身に向けられた殺意を“押し返した”経験が人生を変える。
▼ 青年期(15〜18歳)
・村を出て傭兵として放浪。
・イグニス大陸で“赫焔の狼ギルド”に所属。
荒々しい仲間たちに揉まれ、戦闘技術と人の情を学ぶ。
・ギルドマスターの老戦士グレンから「力の意味」を教えられる。
→「守るための力に価値がある」との言葉が信条となる。
▼ 壮年期(18〜30歳)
・ギルドで名を上げ、各地の討伐・護衛任務で実績を積む。
・帝国の目に留まり、“蒼竜部隊”として騎士団入り。
・帝国では軍略・戦術指揮を学び、階級的には将官級に昇進。
・しかし、ヴァル=ゼルグの台頭により不穏を察知。
“人が神を超える”という思想に強い嫌悪感を抱く。
▼ 終焉戦役(30代前半から後半)
・七大陸を巡る封印の旅に参加。
・最後の決戦で仲間と神々の祈りを受け、
“世界の盾”として全属性を受け止める。
・命を代償に戦争を終結させたが、魂は“人の領域”に戻された。
▼ 隠居期(現在)
・ガルヴァの山郷に移住。
・戦で荒れた土地を耕し、古民家を修復して小さな食堂を営む。
・帝国も彼の存在を黙認(象徴的英雄として生かすほうが都合が良いため)。
・噂を聞きつけ、旅人・異種族・旧友が訪れるようになる。
● Ⅴ. 性格・思想・人間像
【面/描写】
□ 表面 / 穏やかで控えめ。人当たりが柔らかい。店では笑いながら客を迎える。
□ 戦士として / 冷静沈着。戦場では一切の感情を表に出さない。
□ 信念 / 「力とは奪うためではなく、受け止めるためにある」
□ 恐怖 / “再び誰かを失うこと”。過去の仲間の死が心に深く刻まれている。
□ 対人関係 / 弟子や村人には父親のように接する。女性や子供に弱い。
□ 趣味 / 畑仕事、釣り、調理。日々を「味わう」ことに喜びを見出す。
□ 特徴 / 強者であることを隠す。名声を嫌い、誰もが“普通の男”と見る。
● Ⅵ. ゼンが「世界を救えた」理由(構造的根拠)
1. 血統的要素
→ “零位種”として、七神の干渉を受けない唯一の存在。
→ 属性の均衡が崩れた世界で、唯一「どちらにも属さない座標」を持つ。
2. 精神的要素
→ 信仰にも野心にも染まらず、「人として生きたい」という純粋な意志が最終的に世界の理を安定化。
→ 神々が見失った“生の温かさ”を保ち続けた。
3. 戦術的要素
→ 騎士団で学んだ軍略・陣形構築・属性制御術により、神々の力の波動を構造的に分析し“封印式”として再配置できた。
4. 物理的要素
→ オールノッキングによる“中和”は理論上、
無限の衝突エネルギーを静止点(Null Point)へ還元する機構。
神々の暴走も物理的に消散させることが可能だった。
5. 神話的要素
→ 七柱の神は、人の中に残る“希望”に再接続する形で世界を再生させた。
その器となったのがゼン。ゆえに彼は「人として神を繋ぎ直した」存在。
● Ⅶ. 現在 ― “静寂の英雄”
「戦場じゃ、死んだ奴らの名前を覚えてる暇もなかった。
いまこうして鍋をかき混ぜてると、いつの日か一緒に過ごした兵士たちや仲間が、どこかで笑ってる気がするんだ。」
ガルヴァの山郷の片隅に、木造の古民家を改築した小さな食堂「灰庵亭」がある。
昼には農夫、夜には旅人、時に王族や魔族までもが訪れる。
ゼンは彼らにただ、温かい料理を出す。
戦いも説教もない。ただ「食わせ、語り、見送る」。
だがその穏やかな眼差しの奥には、なおも“世界の揺らぎ”を感じ取る静かな気配がある。
七神の均衡が再び崩れるその時、彼が再び剣を取るかどうか――それはまだ、誰にもわからない。
● Ⅷ. 象徴的キーワード
【キーワード/意味・象徴】
□ 「零位(Null Point)」 / 世界の理の中で中立の座標を保つ存在。神々と人の緩衝。
□ 「灰色の盾」 / 善悪・光闇のいずれにも染まらぬ守護者の象徴。
□ 「赫焔の狼」 / 人間としての血と絆の原点。彼の“家族”の象徴。
□ 「灰庵亭」 / 希望の残滓。失われた魂が一時帰る場所。
□ 「受け流す」 / ゼンの人生哲学そのもの。力も悲しみも、すべて受け入れ、流す。
● 総評
ゼン・アルヴァリードは「人が神の器となり、神を否定した存在」。
彼は力に選ばれたのではなく、“力を拒んだ者”として世界を救った。
神々が世界を創り、人がそれを壊し、彼はただ、それを受け止めた。
■ 【斬晶の銀刃】――その来歴と構造
ゼン・アルヴァリードが手にしている「包丁」、それが【斬晶の銀刃】である。
一見すれば、幅広の刃と短めの柄を持つ、ごく普通の料理包丁に見える。
だがその実、鍛冶と魔工芸、そして食への思想が融合した“唯一無二”の逸品だった。
◆ 原材料:月晶鉄と白霧銀
【斬晶の銀刃】の本体に用いられているのは、ふたつの特異な鉱物――
ひとつは《月晶鉄》。
灰針山脈の地下深く、月の魔素が染み込んだ地層から、ごく稀に採取される結晶質の魔鉱石だ。
見た目は青銀色に光り、加熱することで極度の粘性と延性を持つ。
その特性により、「刃物としての柔軟性と弾性」が極限まで高まる。
だが月晶鉄はそのままでは脆く、刃物にするには強度が足りない。
そこで、補強材として混ぜられるのが《白霧銀》だ。
白霧銀は、霧深鉱窟にのみ産出する超微粒銀鉱。
魔素を吸収しやすく、刃の表層に“無属性膜”を形成する性質がある。
これによって、どんな属性攻撃にも侵されず、腐食や熱、魔力干渉にも強くなる。
つまり――
「柔と剛、魔と無」のバランスを極限まで突き詰めた合金
それが、斬晶の銀刃の“素材”だ。
◆ 製造者:武器職人 《カナン・バシュレ》
斬晶の銀刃を製作したのは、帝都に工房を構える武器職人 《カナン・バシュレ》。
その名は騎士団関係者の間では知らぬ者がいないほどで、
帝国の精鋭たちが手にする“個別仕様の剣・槍・斧”の多くは、彼の手によって鍛えられている。
ゼンとの縁も、元を辿ればこの頃に始まる。
ゼンが蒼竜部隊に所属していた時代、彼の装備――
愛用していた片刃剣 《竜閃》、魔素を遮断する鎧 《靄の環 (もやのわ)》、
さらには遠征用の折りたたみ式手斧や調理器具までも、すべてカナンの製造によるものだった。
ゼンの“異能”と“戦い方”を熟知していた数少ない人物のひとりであり、
かつてこう評されたこともある。
「あの男の戦闘装備を任せられるのは、バシュレ工房だけだ」
カナンは職人としては偏屈で無愛想だが、鍛冶の腕は比類なく、
魔鉱の調律と熱処理に関しては帝都で五指に入る天才と言われていた。
戦場が遠ざかったゼンが、山奥で「包丁を作ってほしい」と彼を訪ねたとき、
カナンはただ一言、「おもしれぇな」と言って笑ったという。
◆ 製造依頼の経緯
ゼンが“灰庵亭”を始めてしばらく経った頃、
自作の調理器具では満足のいく解体ができなくなってきていた。
特に魔獣系の肉――筋繊維の方向が複雑で、骨の密度も高い種では、
通常の鉄刃では“潰して裂く”ことになり、繊維を壊してしまう。
そこでゼンは思い出す。
「最も信頼できる鍛冶屋がいたな」と。
帝都に戻り、久しぶりにバシュレ工房の扉を叩いたのは、ちょうど冬の初めだった。
カナンは当時も変わらず、火花が散るなか無骨なハンマーを振るっていた。
「包丁? お前がか?」
「ああ。人間も魔獣もさばく。“調理用”で頼む」
「おいおい……ずいぶん生臭い注文になったな、ゼン親父さんよ」
そんなやり取りの末、カナンは快諾した。
ただし――
「ただの包丁じゃつまらねぇ。オレの最高傑作にしてやる」
という、鍛冶職人の本気がその刃に込められることとなった。
作業は半年に及んだ。
・精製困難な月晶鉄の調整
・白霧銀の圧延
・高魔素炉での魔素溶融処理
・刃と柄の一体鋳造
・属性中和処理
・魔力干渉除去のための封刻
あらゆる兵器開発技術を投入して製作されたその包丁は、
もはや「武器」や「調理器具」という次元を超えていた。
彼はそれをただ一振りだけ作り、ゼンにこう言った。
「これは“喰らう”ための刃だ。お前の料理とその信念に相応しい一振りだと思ってくれ」
◆ 研ぎ石:霜晶砥
斬晶の銀刃の手入れには、通常の砥石は通用しない。
その刃は、鋼ではなく“魔素の結晶体”で構成されているからだ。
ゼンが使うのは、《霜晶砥》という特殊な砥石。
これは、極寒の霜雪山脈で産出される“氷のような鉱石”で、
魔素の純度が極端に高く、触れた金属の歪みを“正す”作用を持つ。
通常は高級魔道具の調律や、貴族用の調理器具メンテナンスにしか使われない逸品だが、
ゼンはかつて山の奥地でこの石を偶然採掘し、自ら成形して専用の砥石とした。
「刃を研ぐとは、力を与えることじゃない。静かに"正す"ことだ」
というのがゼンの信条だ。
その言葉通り、彼の研ぎには“削る音”がない。
ただ霧のような削り粉と、音のない波が空気を震わせるだけだ。
◆ 包丁としての性能
斬晶の銀刃は、その見た目に反して非常に軽く、
長時間の解体作業でも手首を痛めない設計となっている。
・骨と肉を切り分ける“先端の鋭角”
・筋膜を滑らかに裂く“刃のカーブ”
・食材の繊維を潰さない“刃厚の均一性”
・力を逃がすための“背面の微細な溝加工”
これらが一体化してこそ、ゼンの調理が成立する。
特に魔獣解体時には、
「筋肉の束を壊さずに脂を切る」「骨膜を滑らせて関節を抜く」など、
高度な技術を求められるが、斬晶の銀刃はその全てに応えてくれる。
◆ 特徴と思想
カナンがこの刃に込めた意志は、かつての武器づくりとは真逆のものだ。
「命を断つ刃を、命を活かす道具へ」
それが、ゼンという“戦場の終着点”を得た男に託した、唯一の武器ではない“刃”。
刃物は殺すためにあるのではない。
命を、食として繋ぐためにある。
ゼンは、食堂を開いてからというもの――
この包丁を「料理のためだけに使う」と決めている。
たとえ戦場で使えば相手を一撃で葬ることができようとも、
彼の中でこの刃は「料理の道具」でしかない。
だからこそ、その斬れ味は、どんな剣よりも“重い”。
◆ 総括
【斬晶の銀刃】は――
・最高の武器職人によって鍛えられた
・ゼンのためだけに作られた料理刃
・魔獣の骨すら静かに断つ切れ味
・戦わないことに意味がある“刃の矛盾”
この刃が振るわれるとき、それは戦いではない。
ただひとつの目的――“食べるため”に。
命を無駄にせず、美味しくいただく。
それがゼンの信条であり、包丁に込めた敬意そのものなのだ。
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■ カイ=ルーミナ
所属:空賊団「ルミナ・ドレッド号」船長
種族:竜人族
出身地:イグニス大陸・ロックフォート(鉱山都市)
年齢:30代後半(竜人族としては若年)
肩書き:元傭兵、現・空賊団長、元戦場の狩人
カイ=ルーミナは、帝国の正規軍に属さず、また公的な騎士団とも無縁の存在である。しかし、その名は帝国の南方戦線において一部の将兵から「空の斬り込み隊長」として恐れられていた。
彼女の本拠地であるイグニス大陸は、火山と鉱脈が密集する厳しい環境の土地であり、そこで育まれた竜人族は全体的に身体能力が高く、特に空中戦においては高い適応力を誇る。カイ自身も、幼い頃から武装鉱山護衛団に所属し、剣と風を味方に戦ってきた叩き上げの戦士である。
その後、彼女は仲間と共に鉱山都市ロックフォートを離れ、独立空賊団を設立。廃船を改修した飛空艇〈ルミナ・ドレッド号〉を手に入れ、大陸を股にかけた空賊として名を馳せる。とはいえ、彼女たちはいわゆる“悪党”ではない。掠奪よりも、危険地帯の物資輸送、魔獣掃討、航路開拓といった“半冒険者”的な任務を請け負うことが多く、その報酬で生活を成り立たせている。帝国とは中立的な立場を保ちながらも、時に協力し、時に敵対もする“自由なる空の民”――それが、カイたち空賊の在り方だ。
カイ自身の性格は、ひとことで言えば「破天荒」で「陽気」だが、「一度決めたルールは絶対に守る」という律儀さも併せ持つ。また、仲間思いの強さは尋常ではなく、船員たちからの信頼も厚い。
ゼンとは戦場で偶然の共同作戦により知り合い、以後「背中を預けられる数少ない戦友」として交流が続いている。ただし、ゼンが隠居生活を望むのに対し、カイは今なお“空を飛ぶこと”に喜びを見出す典型的なアクティブ思考の持ち主。互いの生き方は大きく異なるが、それでも“かつて同じ死線を越えた”という絆は今も確かに生きている。
● 空賊とは何か
空賊とは、飛空艇を用いて大陸間を自由に飛び回りながら活動する自立型の集団・個人を指す。かつては帝国による空域の管理が行き届いておらず、“空を使った無法者”の代名詞でもあったが、近年は空賊の中でも秩序を持った団体が増え、冒険者と同様の社会的地位を築きつつある。
特に「独立空賊団」や「空商連合」など、帝国に属さずとも信頼と契約を重んじる団体は、「空の冒険者」として商人・開拓者からの依頼を数多く受けている。空賊たちは一般的に、以下のような構成で運営されている。
【空賊団の基本構成】
・船長:空賊団の代表。航路選定、契約交渉、指揮を担う。
・副長:船長の補佐。主に内部の運営と船員管理を担当。
・操舵手:飛空艇の操作全般を担う。気象予測、魔力循環の調整にも精通。
・砲術士/技師:防衛・戦闘・修理の要。ときに整備士、魔導士が兼任する。
・調達員/物資管理係:交易や補給任務を担う。商人とのパイプ役でもある。
・船医/呪医:負傷者の治療に加え、魔導病や空中毒などの特殊な病にも対応。
【空賊の行動原則】
空賊には明確な“法”は存在しないが、暗黙のルールとして以下が広く浸透している:
・契約は絶対。報酬と義務を守る。
・他の空賊団との不要な衝突は避ける。
・帝国領空では、事前申請のない戦闘行為は禁止。
・空賊同士の抗争は基本的に“空中試合”で決着をつける。
・避難信号(赤煙)を上げた船には、敵味方問わず救助義務が発生する。
これらは“空の掟”と呼ばれ、破ると他の空賊団からも敵視される。
● ルミナ・ドレッド号について
カイが船長を務める〈ルミナ・ドレッド号〉は、旧型の貨物飛空艇を魔改造した大型艇。主に中距離〜長距離の航行を得意とし、船体には軽装甲と展開式の風斬翼を搭載している。速力はそこそこだが、安定性と防御力に優れ、戦闘と輸送のバランスが非常に良い。
内部は居住区・格納庫・厨房・魔導炉室に分かれており、長期航行にも対応できる。船員数は約30名。中には元傭兵、元技師、脱落騎士など多種多様な経歴を持つ者たちが集っており、まさに“空の寄せ鍋部隊”といえる。
● 空賊の個人艇について
空賊団が運用する大型飛空艇とは別に、多くの空賊は「個人艇」を所有している。これらは搭乗員1名〜2名を基本とした小型艇で、以下のような特徴を持つ。
【個人艇の主な特徴】
・高機動性・高加速性能:船体が小型なため旋回性能と加速力に優れ、追撃や逃走に適する。
・単独航行能力:魔導推進器と最低限の循環炉を内蔵し、数日間の単独飛行が可能。
・簡易戦闘機能:一部機体には小型魔導砲や強化装甲が施され、軽度の戦闘にも耐える。
・搭乗者との“同調機構”:魔導炉と搭乗者の魔力を同期させることで、操作精度が格段に向上する個体も存在。
・整備性と改造性の高さ:個人所有であるためカスタマイズがしやすく、操縦者の癖や趣味が色濃く反映される。
個人艇は単なる移動手段ではなく、“空賊の矜持”とも呼ばれる象徴的存在であり、多くの空賊が名を刻む愛機を持っている。
● カイの愛機:〈シルヴァ=ヴァルザン〉
機体名:シルヴァ=ヴァルザン(Silver Valzan)
機種分類:高速機動型個人艇
設計由来:ロックフォート鉱業機構・戦時特化型試作艇「RFT-07改」ベース
搭乗者:カイ=ルーミナ専用(竜人族専用調整済)
【構造概要】
〈シルヴァ=ヴァルザン〉は、かつてイグニス大陸の戦乱時に竜人族の特殊傭兵部隊用として設計された高機動型試作機を、カイ自身が空賊仕様に改修・魔改造したパーソナルシップである。
【主な構造と性能】
・全長:約8メルト(約12m相当)
・全幅(展開時):14メルト
・最大搭乗人数:2名(基本的には単座)
・主推進機:双魔導タービン式推進器+竜人魔核制御炉(カイの魔力との同調機構付き)
・航続距離:最大1,200リーグ(天候・魔力状況による)
・最高速度:突風環境下で音速の1.4倍(ただし操縦には高い空間把握能力を要する)
・外装材質:銀鋼合金“シルヴァルコア”+龍鱗樹皮の複合装甲(軽量・高耐熱)
【特殊機構】
・“風切り翼 (スラッシュウィング)”
展開式の可動翼。魔力制御によって形状変化が可能で、狭所飛行・旋回・急降下に対応。
・“竜叫エンジン (ドラグニック・クライ)”
カイの戦闘時に使用される魔力過給モード。短時間のみ爆発的な出力を得る代償に魔力消耗が激しく、使いすぎると搭乗者に反動が返る諸刃の機構。
・“同調制御炉 (シンパシー・コア)”
竜人族特有の魔力波長をベースに設計された炉心。搭乗者の感情や意思を受信し、機体挙動に反映されるため、文字通り“身体の延長”としての操作が可能。
【外見的特徴】
・機体は全体的に流線型で、銀白色の装甲と黒のエンブレムラインが特徴。
・機首にはドラゴンの意匠が刻まれており、夜間では尾翼とエンジン部が紫銀に発光する。
・機体後部には“カイの尻尾”に似せた装飾尾翼があり、本人いわく「威圧感のため」。
【運用】
カイは普段〈ルミナ・ドレッド号〉の船長として団を率いているが、索敵任務や緊急救援、伝令時などには〈シルヴァ=ヴァルザン〉を使って単独行動をとることがある。また、“空賊レース”のような高速機動が必要なイベントや賭け事にも用いられる。
レース時には一部の防御装備を外し、機体を“軽量高速モード”に変形させるギミックもある。
カイにとってこの愛機は、単なる道具ではない。
戦地で命を預けた相棒であり、空を自由に翔ける“翼”そのものである。
彼女がこの機体に向けるまなざしは、誰よりも優しい――まるで“仲間”を見るような、そんな温かさがある。
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■ イグザス・ベルネロ
本名:イグザス・ベルネロ(Igzas Berenello)
肩書き:元・帝国魔導技術局 特級技師/飛行技術理論家/現・独立飛行技師
種族:人間
年齢:不詳(見た目は50代半ば)
出身地:機械都市オルディア 技術研究区画生まれ
現在地:不明(山岳地帯にて隠棲中との噂)
● 概要と人物像
イグザス・ベルネロは、帝国魔導技術局において「飛行魔導術」および「魔導推進理論」の先駆者として知られる希代の天才技師である。
その名は帝国技術士録においても「一代で三世代分の理論を跳躍させた男」と記録されており、彼がいなければ帝国の空中戦略体系は20年遅れていたとも言われる。
だが、彼は名声や地位にはまったく頓着せず、技術局内での派閥争いにも関心を持たなかった。そのため一部の上層部とは折り合いが悪く、後年、正式な手続きを経て“自主退官”という異例の形で帝国を去ることとなった。
現在は、「空を制すのではなく、空と共に在る飛行術」を探求すべく、山岳地帯の隠れ家で独自の研究を続けているという噂がある。
● 性格と信条
イグザスの性格は、一言で言えば「理想主義者」である。
表面的には無愛想で口数も少なく、初対面では「常に眠そうな男」と評されることもあるが、内面は極めて情熱的で、特に“飛行”というテーマに対する熱意は誰にも負けない。
名言として語り継がれているのが以下の言葉:
「空は、誰かのために飛ぶもんじゃない。
自分が飛びたいから飛ぶんだ」
この言葉は、技術者としてだけでなく、一人の人間としての“在り方”をも表している。
彼にとって飛行は、手段ではなく目的そのものであり、命令されたからではなく、「空を飛ぶとは何か」という問いへの答えを求めて研究を重ねてきた。
そのため、軍事的用途に偏りすぎた帝国技術局に嫌気が差したとも言われている。
● 過去の功績
・魔導飛空艇〈ウルティモ号〉設計主任
・魔導推進器〈双輪式巡航炉〉理論確立
・多重魔力干渉の最適化フレーム〈シフトスレッド構造〉開発
・〈ノクティリカ〉の緊急運用対応(現場修復および実戦運用)
特に〈ノクティリカ〉の逸話は有名で、試作艦として戦場投入された同機の欠陥を、戦闘下において即座に見抜き、独自に再調整。結果、30名以上の負傷兵を乗せて強行離脱に成功した。この実績により、彼は「空の鬼才」と呼ばれることになる。
しかし、その後も帝国軍部の無理な改造命令や「性能より即納を優先せよ」といった圧力が強まり、ついに彼はすべての職務を放棄。
技術局には「現行の帝国飛行理論は、空を破壊するだけの理論である」という強烈な辞表文を残したとされている。
● 現在の状況と関与の可能性
カイの口から語られた情報によれば、イグザスは現在、標高の高い山岳地帯にて隠遁生活を送りながら、自力で飛行艇の設計・調整を行っているらしい。
正式な記録や消息は完全に絶たれているものの、いくつかの空賊団や飛行船乗りたちの間では「伝説の技師が住む山がある」という都市伝説のような話が広がっている。
また、彼の技術を求めてやってくる者も後を絶たないらしいが、直接会えた者はいない。イグザスにとって“人付き合い”は研究の副産物程度の価値であり、信頼を築くにはそれ相応の過去や繋がりが必要とされる。
彼に再び会える可能性があるとすれば、過去に“命を預け合った仲間”――つまり、ゼン・アルヴァリードのような存在だけである。
● 補足:技術者としての哲学
イグザスは常にこう語っていたという:
「完璧な理論は、完璧な現場でしか試せない。
だからこそ、私は“現場”に立つ技術者でいたい」
これは、机上の空論を否定するわけではなく、“戦場で命を守るための飛行”という極限環境を、彼なりの理想の舞台として認識していたことを意味する。
彼の設計は、理論上の最適解よりも、“想定外への対応力”を重視する。つまり、現場の兵士や操縦士の立場に立った設計――それが、イグザス・ベルネロの哲学だった。
今後、ゼンが彼と再会することになれば、かつての戦場の記憶だけでなく、“技術と人の関係性”を巡る深い物語が展開されることになるだろう。
そして、幻の食材と引き換えに動き始めたゼンの静寂は、再び空を駆ける“風”と交錯する――そんな予感を抱かせる、静かなる異才。それがイグザス・ベルネロという人物である。




