ルミナス聖皇国
ルミナス聖皇国 ― Luminus Theocracy Empire
― 光の神に導かれし「人の文明の中心」 ―
● Ⅰ. 国家概要
【項目/内容】
□ 正式名称 / ルミナス聖皇国(Luminus Theocracy Empire)
□ 通称 / 光の帝国、聖皇国、中央帝国
□ 政体 / 神権一体型聖皇制(宗教と政治の融合)
□ 宗教基盤 / 光の神〈ルミナ〉信仰(七神の中で中心的存在)
□ 元首 / 聖皇(セント・ルクレティア七世)
□ 政府構造 / 三権合議制(聖皇院・枢機院・行政院)
□ 軍事組織 / 帝国聖騎士団〈蒼竜〉|神聖魔導兵団〈白翼〉
□ 首都 / 帝都セレスティア(Celestia)
□ 人口 / 約5,700万(大陸全土)
□ 国家理念 / 「光は秩序、秩序は正義、正義は人の理」
□ 国花 / 白金蓮(純粋と再生の象徴)
● Ⅱ. 地理・領土構造
・大陸名:ルミナス大陸(アルザリオスの東部にある大陸)
・中央部に帝都セレスティア、その周囲を環状都市圏が囲む。
・北部は高原と渓谷が続く寒冷地帯。
・大地は白亜の石灰質で、日光を反射し、昼は眩しいほど明るい。
⚫︎ 地形特徴
・ルミナ高原:帝国の心臓。透明な魔力流が地中を走る“光脈”が集中。
・セレス山脈:聖都を取り囲む天然の防壁。神の加護とされる。
・オルタ河:帝都を貫く大河。全土の水源と物流の中心。
・光都街道:帝都を起点に七大陸へ延びる七本の聖道。
● Ⅲ. 政治体制の実態
聖皇制とは:
建前上は「神の声を聞く者(聖皇)」が国家を導くが、
実際には宗教と行政と貴族の三権が均衡する合議制。
【機関名/構成/役割】
□ 聖皇院 / 聖皇と神官長で構成 / 信仰・教義・儀礼の最高機関
□ 枢機院 / 貴族・騎士・都市代表 / 政治と法律の立案・承認
□ 行政院 / 技術官僚・魔導士・教育者 / 実務・経済・教育・外交
➡︎ 聖皇は象徴的存在でありながら、宗教儀式・外交調停・法解釈権を持つ。
だが実際の政策決定は枢機院が担い、権力闘争は日常茶飯事である。
● Ⅳ. 宗教・思想体系
光の神〈ルミナ〉信仰の基本理念
▼ 「光は秩序、秩序は正義、正義は共存」
・神ルミナは“七神の長姉”とされ、太陽と真理の象徴。
・ルミナ信仰は、倫理・教育・法体系の根幹を成す。
・ただし神の沈黙以降、教義は形式化し、
“信仰”から“道徳学”へと変化している。
▼ 教義三原則
1. 明察(Insight):真実を見抜く力。
2. 節制(Moderation):力の使用は正義のためのみ。
3. 共生(Coexistence):他者を照らし、闇を裁かず。
ゼンが重んじた“中庸の哲学”もこの教義に由来するが、
彼は「光は闇を裁かない」という部分を最も重視していた。
● Ⅴ. 経済・社会構造
【区分/内容】
□ 経済基盤 / 魔導産業・教育・出版・宝石加工・医療
□ 通貨単位 / ルミナ金貨(七神共通通貨セプトの基軸)
□ 社会階級 / 聖皇貴族 → 教会貴族 → 学者・商人 → 職人 → 市民
□ 教育制度 / 義務教育+聖学院制度。識字率95%以上。
□ 輸出品 / 魔導書、聖水、光石、法術装置
□ 輸入品 / 海産物 (ネプトラ)、金属 (グラシア)、香辛料 (イグニス)
▼ 特徴:
・経済は「知」と「信仰」を商品化する“教文化経済”。
・国家そのものが巨大な宗教都市群の集合体。
・教育と法が一体化しており、神官と教師の地位が同格。
● Ⅵ. 文化・芸術・日常生活
【分野/特徴】
□ 建築 / 白石と金属装飾による聖堂建築。反射光で昼夜照明。
□ 芸術 / 聖歌・光絵画・天文詩。芸術は祈りの延長。
□ 服飾 / 白と金の法衣が基本。階級により刺繍の色が変わる。
□ 食文化 / 淡味中心。光麦・白果・聖水を使用。断食儀礼も残る。
□ 祝祭 / 《暁光祭》…神の沈黙以降も続く“光の再来”を願う祭典。
□ 教育 / 神学・倫理・魔導理論が必修。神官と学者は同職扱い。
「光を学ぶことは、生き方を学ぶこと」――セレス学院校訓。
● Ⅶ. 帝都セレスティア ― Celestia, the Eternal Capital of Light
― 神々が沈黙してもなお輝く都市 ―
▼ 概要
【項目/内容】
□ 位置 / ルミナ高原の中心、標高820mの聖環盆地
□ 人口 / 約500万(帝国最大都市)
□ 構造 / 七重環状都市(各層が社会階級に対応)
□ 都市理念 / 「光は全てを照らし、誰にも届く」
□ 通称 / “永光の都”|“神々の残響”
□ 主な地標 / 大聖堂〈ルミナ・アストラ〉|蒼竜騎士団本部跡地|中央広場〈暁の塔〉
【層区分/名称/概要】
□ 第七環(最外) / 下市街〈陽環〉 / 商人・旅人・下級神官の居住区。市場・宿屋が集中。
□ 第六環 / 職人工区〈彩環〉 / 鍛冶師・魔導工・印刷師など。魔導具市場が有名。
□ 第五環 / 学院区〈知環〉 / 帝国最大の教育区。セレス学院・魔導図書院が所在。
□ 第四環 / 研究区〈理環〉 / 魔法工学研究・錬金術・医療施設。一般立入禁止区も。
□ 第三環 / 政庁区〈律環〉 / 行政院・司法院・枢機院が集中。帝国の頭脳。
□ 第二環 / 神殿区〈聖環〉 / ルミナ大聖堂・聖皇院・儀礼殿。常に聖歌が響く。
□ 第一環(中心) / 皇環〈セレスドーム〉 / 聖皇宮殿・暁の塔・光晶泉。神々の象徴的中心。
【都市の特徴と雰囲気】
・すべての建築物が“光反射石”で覆われ、昼夜問わず輝く。
・夜は光脈灯が街全体を照らし、空から見ると金環が浮かぶように見える。
・市民は“光の祝福”と呼ばれる魔力循環により、健康寿命が長い。
・一方で、光の恩寵を受けない者(貧困層・異教徒)は、下層街に追いやられている。
「光に照らされぬ影こそ、この都の真の姿」
― 帝都地下区“影市”の格言。
● Ⅷ. 軍事と防衛構造
・蒼竜騎士団(Azure Dragon Knights):
聖皇直属の最精鋭部隊。ゼンはその元隊長。
騎士団は象徴的存在で、帝国の正義を体現する組織だった。
・神聖魔導兵団〈白翼〉:
宗教戦闘部隊。治安維持と儀礼守護を担う。
政治闘争の影では、諜報や暗殺も行う。
・帝都防衛機構:七層環状の防壁+魔導防御結界「光晶障壁」。
・軍備は表向き縮小しているが、裏で次世代兵器(魔導鎧・人工天使計画)が進行。
● Ⅸ. 思想的二面性 ― “聖都の光と影”
【側面/内容】
□ 表の顔 / 平和・秩序・学問・信仰の象徴。文明の理想郷。
□ 裏の顔 / 教義による管理社会。異端排除。特権階級の閉鎖性。
□ 象徴構造 / 「光に照らされる影こそが、真の闇」
ゼンは、帝都時代にこの二面性を目の当たりにし、
「正義とは何か」という問いを抱き続けた。
その矛盾が、後に彼が帝国を去る直接の動機となる。
● Ⅹ. 現在(帝国暦1385年時点)
・聖皇ルクレティア七世は高齢で政務を枢機院に委譲。
・政治腐敗と権力闘争が深刻化。
・外交的には七大陸との冷戦状態(特に雷・闇との関係悪化)。
・経済的には繁栄の絶頂だが、民間の貧富格差拡大。
・市民は信仰よりも「光の恩寵=便利さ」を信じている。
・神の沈黙以降、形式化した祈りは、今や政治の道具に近い。
【総括】
ルミナス聖皇国=秩序の象徴
帝都セレスティア=人の理性と矛盾の結晶
ゼンにとってこの国は、
「かつて世界を守るために戦った故郷」であり、
「真の静寂を得るために去らなければならなかった場所」でもある。
彼が今、ガルヴァの山郷で暮らすのは――
帝都の喧騒と信仰の矛盾を、静かに“受け流す”ためである。
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ガルヴァの山郷(Garva Valley)
― 光の届かぬ、静謐なる灰の谷 ―
● Ⅰ. 地理的概観
【項目/内容】
□ 所属大陸 / ルミナス大陸北東部山岳帯(帝都セレスティアのやや北東約280km)
□ 位置 / セレス山脈の最深部、〈灰の尾根〉と呼ばれる霧帯の奥
□ 標高 / 約1,600〜1,900m(高山帯に近い気候)
□ 気候区分 / 冷涼湿潤気候。昼夜の寒暖差大。年間降雨量1,400mm。
□ 地質 / 黒曜岩と白灰石の混成地層。地熱活動が残る。
□ 地形タイプ / 谷間盆地型。三方を山に囲まれ、南のみ渓谷で開ける。
□ 面積 / 約4平方キロ(帝都の一区画ほどの広さ)
□ 外見的特徴 / 霧が常に漂い、昼でも薄明るい。夜は星が近く、風が鳴る。
北:灰の尾根(灰白の断崖)──帝都方面
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| 〈古戦場跡:灰の谷〉
| └ 埋もれた遺跡と魔導兵器の残骸
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中腹:ガルヴァの山郷(集落)
┣ 北西:灰庵亭(ゼンの食堂)
┣ 東:清流ガルヴァ川(湧水源)
┣ 南:段畑と薬草地帯
┗ 南東:聖灰祠(古い石造の祠)
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南端:ガルヴァ渓谷(断崖と吊橋)
└ 向こうに〈サンメル自治圏〉への山道
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さらに南:潮霧海(マガローデ洋の内海に続く断崖海岸)
● Ⅱ. 地質と地脈構造
◆ 大地の構成
・主成分は「灰白石」と「黒曜鉱」。
→ 古代戦争時の魔導爆心の影響で、岩盤が灰化している。
・地下には“古代魔導兵器”の残骸と、光脈(ルミナ脈)が交錯する。
・このため、方位磁石や魔導計器が狂う。
・魔力感知者には“ざわめくような残響”が聞こえると言われる。
◆ 地脈(魔力流)
・通称:〈ガルヴァ脈〉。地中を流れる純粋魔力の層。
・ルミナス大陸中でも特異で、光と闇の魔力が同時に流れる“中性地脈”。
地脈学では、“ガルヴァ脈”を「七潮の中心に最も近い中庸の泉」と呼ぶ。
そのため、神官・錬金術師・魔導学者が秘密裏に訪れることもある。
● Ⅲ. 気候・季節変化
【季節/特徴】
□ 春(黎春期) / 雪解け水が谷を満たし、山菜が豊富。霧が濃い。
□ 夏(暁夏期) / 日照は短いが、日中は穏やか。花と薬草が咲く。
□ 秋(宵秋期) / 山鹿や雷鳥が現れ、狩猟期。紅葉が鮮烈。
□ 冬(白凍期) / 積雪深く、外界との往来が絶える。静寂の季節。
平均気温:春 9℃/夏 17℃/秋 10℃/冬 −6℃
湿度:常時80%前後。霧が光を反射し、幻想的な光景を生む。
● Ⅳ. 水系・自然環境
・ガルヴァ川:地下水脈〈光脈泉〉から湧き出る清流。飲用可。
魔力浄化効果があり、料理や酒造りにも最適。
・霧樹林:常に湿気を含む針葉樹林帯。枝葉に魔力を帯び、夜光る。
・灰花草(Ash Bloom):この地特有の白灰色の花。毒にも薬にもなる。
・山鹿:食材として登場する幻獣鹿。魔力耐性を持つ。
ゼンの料理に登場する素材のほとんどが、この谷の生態系から得られている。
● Ⅴ. 村落構造・生活圏
【要素/内容】
□ 人口 / 約30名(人間25|獣人3|老妖精2)
□ 主産業 / 農耕(山菜・薬草)・狩猟・木工・小規模酒造
□ 政治形態 / 村長+年寄り会(実質自治制)
□ 通貨流通 / ほぼ皆無。物々交換が基本。
□ 宗教 / 神の沈黙以降、無信仰。ただし古祠〈聖灰祠〉への供物のみ続く。
□ 教育 / 口伝と経験学習。帝国の教育圏外。
◆ 代表的施設
【名称/機能/備考】
□ 灰庵亭(ゼンの食堂) / 村の中心|社交の場 / 旅人の唯一の宿泊場所
□ 村の共同井戸 / 水脈直結の湧水 / 魔力濃度高め。飲むと体が軽くなる。
□ 木工房(老獣人フェルグ) / 家具製作・修理 / 村人全員の家を一手に建てた。
□ 薬草園(老妖精レニア) / 薬草・毒草の栽培 / 帝都薬学者の密かな仕入れ先。
□ 聖灰祠(古祠) / 古代神への供物台 / 石碑に“七潮”の象徴文字が刻まれている。
● Ⅵ. 民族・種族構成
【種族/人数/特徴】
□ 人間 / 約25名 / 元帝国民・逃亡者・開拓民など。
□ 獣人族(狼・猫系) / 約3名 / 狩猟・木工を担当。誇り高く温厚。
□ 妖精族 / 2名 / 長命種。薬草知識と古代語に通じる。
村は“人の終着点”とも呼ばれ、帝国を去った者、戦に疲れた者、
信仰を失った者が最後に辿り着く場所とされている。
● Ⅶ. 交通・外界との接続
【道路/内容】
□ 北街道(旧帝国道) / 帝都方面へ続くが、崩落して久しい。通行不能。
□ 南渓道(吊橋経由) / サンメル自治圏へ。唯一の通行路。片道約1日半。
□ 山中小径 / 狩猟用の獣道。旅人が迷う原因の9割。
□ 空路 / 飛空艇は結界干渉で基本的には航行不可。
ゼンがここを「誰も来ない場所」と選んだ最大の理由が、この地形閉鎖性である。
だが今では“幻の食堂”の噂を頼りに、徒歩で山を越える客が絶えない。
● Ⅷ. 霧と幻視現象
・地霊の影響により、夜明け前後には強い霧が発生する。
・魔力感応者は、霧の中で“過去の記憶”や“幻影”を見ることがある。
・ゼンも過去、霧の夜に亡き仲間の幻を見た記録がある。
・この霧は「灰の夢(Ash Mirage)」と呼ばれ、地元では畏怖と敬意をもって語られる。
● Ⅸ. 文化・風習
【分野/内容】
□ 食文化 / 山菜、鹿肉、渓魚、穀麦。発酵食品が中心。ゼンの料理が村の味。
□ 信仰 / “光でも闇でもない灰”を尊ぶ中庸信仰。
□ 言葉 / 帝都語+古方言。語尾が柔らかく、響きが静か。
□ 音楽 / 風笛と太鼓。祭りは年2回のみ(灰祭・灯祭)。
□ 灯祭(秋) / 亡き者に灯を捧げる祭。ゼンも毎年参加。
□ 工芸 / 木彫り・石碑彫刻・灰染布。全て手作業。
● Ⅹ. 歴史的背景
【時期/出来事】
□ 終焉戦役(約20年前) / 帝国と魔神族の最終決戦地の一角。光と闇の衝突により一部地形崩壊。
□ 神の沈黙(数百年前) / 魔導異常により地脈中和。以後、この地に霧が絶えず。
□ 開拓期(数百年前) / 一部の流民と開拓民が入植。定住開始。
□ ゼン来訪(3年前) / 山中の古屋を再建し、食堂〈灰庵亭〉を開く。
□ 現在 / “幻の食堂”として噂が広まり、旅人が殺到。
● XI. 象徴としての意味
「世界の光が届かぬ谷で、人はようやく“本当の自分”を見つける。」
ガルヴァの山郷は、光(ルミナス聖皇国)と闇(魔神族)のどちらにも属さない、中庸の聖域。
文明の恩恵も、神の加護も、権力の支配も届かない。
それゆえに、人々は自分の力だけで生きている。
そして――
その地の中心に立つ“灰庵亭”こそが、
「過去と現在を受け流し、静けさを調える場所」である。
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灰庵亭/Ash Hermitage Inn
― 霧の谷に佇む、ひとりの英雄の隠れ家 ―
● Ⅰ. 基本概要
【項目/内容】
□ 所在地 / ガルヴァの山郷・中腹部(清流ガルヴァ川のほとり)
□ 標高 / 約1,720m(霧樹林帯の上層)
□ 構造 / 木造平屋+半地下倉+小屋裏
□ 敷地面積 / 約220坪(建屋50坪/畑・倉庫・薪小屋含む)
□ 建築者 / ゼン・アルヴァリード(自作)
□ 建築材 / ガルヴァ杉・霧樹・灰白石・魔力漆喰
□ 屋根材 / 焼き杉板+防霧結晶膜(夜間に淡く光る)
□ 構造方式 / 古帝国式木組構造+魔導安定結界
● Ⅱ. 建築理念・デザイン哲学
ゼンの設計思想は、“必要なものだけを、心地よく”。
帝都時代の壮麗な宮殿や石造建築とは真逆の、無装飾・実用・静謐を追求している。
「風が通って、火が見えて、湯が沸く音が聞こえれば、それでいい。」
このため、全体構造は「風」「水」「火」「土」の循環に基づいている。
魔法的ではあるが、“生活の理”として緻密に作られているのが特徴。
● Ⅲ. 平面構造図(簡易構成)
[東]川の流れ
|
| 畑・菜園
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┌─────────────────────────┐
│ 玄関土間 ─ 炉端間 ─── 客座敷(八畳)── 座敷奥(寝室)│
│ | | │
│ └──厨房────裏口(薪小屋・倉庫)────┘
│
└────半地下倉庫(漬物・味噌・酒・保存食材)──────┘
※屋根裏:弟子ライルの寝床兼書物置場
● Ⅳ. 主要空間詳細
① 炉端間
・家の中心。調理・接客・団欒の全てがここで行われる。
・囲炉裏を中心に据え、天井に魔導煙抜き「灰筒」を設置。
・床材は無垢の灰白木。冬場でも素足で温かい。
・照明は油灯と光石(夜間は淡い琥珀光)。
・壁には狩猟具と包丁、古びた剣〈蒼竜の残片〉が飾られている。
客はここでゼンの手料理を食べる。
炉の火と香の煙が常に漂い、“落ち着く”と評判。
② 厨房
・面積:約六畳。
・石張りの床。中央に魔導調理炉〈五行竈〉を設置。
・火・水・風・土・無の五系統魔力を循環させ、火力・湿度・香気を制御。
・水路はガルヴァ川の清流を直接引き込み、魔法陣で濾過。
・食器・包丁類は帝都時代の戦友が鍛えた業物。
・冷蔵庫代わりに、地下の“氷結槽”に魔導氷晶を埋め込んでいる。
炊飯・煮込み・燻製・発酵・乾燥の全工程がこの竈で行える。
ゼンいわく「この竈があれば、世界のどんな鍋も負けねぇ」。
③ 半地下倉庫(貯蔵室)
・直径8mの石造ドーム構造。温度10〜12℃を一定に保つ。
・味噌樽、酒樽、漬物甕、干肉、燻魚、穀物袋が並ぶ。
・魔導符「静結符」により、湿度を一定に維持。
・小型の魔導燈がゆっくりと呼吸のように光る。
・ゼンはここでよく一人で「静かな酒」を飲む。
→ 実は瞑想の時間でもある。
④ 裏畑・水車小屋
・自給用畑。麦、芋、根菜、薬草、香草を栽培。
・畑の中央に“魔力循環柱”を立て、微弱な魔力を水と土に還元。
・水車小屋は粉挽きと発電を兼ねる。
・夜になると水車が淡い青光を放つ(魔力共鳴)。
⑤ 寝室・ロフト
・寝室は八畳間。調度は簡素。
・ベッドではなく厚い藁敷きと毛布。
・窓辺には乾燥薬草と古い写真(騎士団時代の仲間)を置いている。
・ロフト(屋根裏)はライルの寝床。書物と料理帳が山積み。
【Ⅴ】魔導設計・生活魔法体系
灰庵亭は、帝都時代に培ったゼンの技術と感性をもとにした“静的魔導建築”。
派手さはないが、生活そのものが魔法の循環で成り立っている。
【機構名/系統/効果・特徴】
□ 灰筒 / 風|火 / 炉端の煙を上昇気流で除去。暖気だけを残す。
□ 光水陣 / 水|光 / 清流を濾過・魔力調整して飲用化。
□ 五行竈 / 火|土|風 / 竈心に魔石を設置。火加減を感応で制御。
□ 静結符 / 氷|無 / 貯蔵庫の温度・湿度を一定に保つ。
□ 防霧結界膜 / 風|光 / 屋根に張られた霧除け結晶膜。視界を確保。
□ 霜灯 / 光|氷 / 夜間照明。火を使わず、灯のようにゆらめく。
これらは“神頼みの魔法”ではなく、
すべてゼンが独学で再現した“生活のための魔術”。
彼が最も重んじるのは、「便利ではなく、心地よいこと」。
● Ⅵ. 料理空間と演出(食堂描写設定)
・客席は囲炉裏を囲む三方のみ(最大6名)。
・窓は一枚だけ。外の霧が淡く揺らめく。
・湯気・光・香りの層が重なり、“時が止まるような静寂”が生まれる。
・ゼンの動きは無駄がなく、火と湯の音が会話の間を埋める。
・料理が出る瞬間、霧の外から鳥の声が聞こえる――まるで、世界が一瞬だけ息を止めるような空間。
“灰庵亭の定食は、心まで温まる”
― 旅人たちの噂
● Ⅶ. 料理哲学と空間の関係
「食は戦じゃねぇ。祈りだ。」
ゼンは料理を「神への奉納」でも「人を癒す術」でもなく、
“生きていることの確認行為”と捉えている。
そのため厨房の火、炊ける音、香り、湯気――
すべてが彼の中で戦場の記憶を鎮めるリズムになっている。
火の音=呼吸
水の流れ=血脈
香の立ち昇り=記憶の昇華
灰庵亭は、ゼンにとって単なる食堂ではなく、
心の調律場であり、
この静謐な循環が彼を“人”として保っている。
● Ⅷ. 灰庵亭の象徴構造
【要素/象徴/解釈】
□ 囲炉裏 / 生命の火 / 生の象徴・魂の中心
□ 灰(屋号) / 過去の焼け跡 / 破壊の果てに残る再生
□ 水車 / 流転 / 変化と循環の象徴
□ 霧 / 境界 / 外界と内界の隔て
□ 畑 / 未来 / 自ら育てるという生の継続
“灰庵”とは、「灰の中の庵」――
つまり、一度燃え尽きた者が、再び火を灯すための場所を意味する。
● Ⅸ. 物語的機能
・読者の心を休ませる“聖域”としての空間。
・ゼンの「静」の象徴であり、世界の「動」との対比軸。
● Ⅹ. 補遺:ライルの空間
・ロフトに設けた「ライルの部屋」は、ゼンがかつて自分の師(蒼竜団長)から譲られた部屋を模している。
・書物、料理帳、帝都新聞、落書きノートが散乱。
・小窓から見える霧の夜景が彼のお気に入り。
この空間が後に、「継承」を象徴する場になる。
◆ 総括
灰庵亭とは、光でも闇でもない“灰の色”の静けさを宿す建築であり、英雄ゼンの再生と失われた“人の穏やかさ”の象徴である。




