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第76話 点と点を繋ぐ先



カーティスのコントロールする術式領域は、サンドストームによって「拡散」されていた。


地面が近くにある状態の彼にとっては、空や水の中で魔力を消費する時と比べ、はるかに出力効率を高められる。かといって彼から離れれば離れるほど魔力の「純度」そのものは薄れていき、コントロールできる密度や質量も自然と失われていく。


彼が拡散したのは、自らの魔力を滞留させるための「経路」だった。


魔力は本来“発散型”と“蓄積型”という『力の向き』に関わる性質としての特性が備わっているが、発散型と呼ばれるものは瞬間的な魔力の解放、つまり外へと放出される力の向きに作用される。


逆に蓄積型は術者(魔法を使用する者)本来の能力を高めるために利用される事が多く、魔力を内側へと圧縮・結合するために用いられる。


パターンとしてはその限りではないが、大別すると「外」と「内」の“力が伝わる方向としての”二面性を持つ。


いずれにしても魔力が実体化する上で重要なのは、【魔力が継続的に途切れない領域を生成する必要がある】という点だった。


遠距離からの操作が難しいのは、複数の魔法や複合的な魔力の縫い目を一つの流域場へと結束する事が技術的に難しいという点だけでなく、魔法(術式)を具現化する上で単一化しなければならない原子間の密度や距離が、“一度も発散されることなく”ある一点に留まる必要があるという点、——しいては、運動エネルギーを繋ぎ止める部分的な核子が、ある経路からある経路へと“連続的に触れ続けている“必要があるためだ。


例えばパソコンに繋がれているコンセントを一度でも抜いてしまえば、たちまちそのパソコンは機能しなくなる。それがどれだけ短い時間であったとしても、電力の経路が失われた機械は動作するために必要な機構が失われることと同義になる。


平たく言えば魔法(術式)も同じで、ある“事象”へと変化する前の魔力の「基底状態」を流動的に操作するには、系から系へ、すなわち「点」と「点」を一本の線で繋ぎ留めておく必要があった。


自らの体の中に魔力を集中⇄滞留することは、1つの【ゲージ=容器】の中にエネルギーを圧縮することと似た作用を持つことが知られており、時間と空間を密接に絡め合わせながら、ある特定の「魔法」へとエネルギーを変換する事が可能になる。しかし体の「外」になると話が変わり、周りの環境が利用できる場合でない限りは、魔力流域を展開しつつ1つの「魔法」へと魔力を等価交換することは、ある特殊な場合を除いてかなりの制限が課されることは必至なのだ。


「魔力流域」とは、文字通り魔力が流動的に動くことができる領域・場を指す。


しかしそれ自体では単一の事象面として取り扱うことができず、あくまで魔力を“動かす”ことができる「範囲」であり、エネルギーを連続的に伝えることができる「共変場」であるという点に留意しなければならない。


ある一点へとエネルギーを集中させるためには力の向きとそれを閉じ込めるための“仕切り”が必要だが、空間中に漂うエネルギーを常に同じ場所に留めておくことは、容器を使わずに水を掬おうとすることにも等しい。


流域はあくまでエネルギーを運ぶための輸送路であり、また、エネルギーが自由に飛び回ることができる位相空間でもある。言い換えれば流域そのものは魚が泳ぐための「水場」であり、人間が呼吸するために必要な「空気⇄大気の流れ」によく似た構造をしている。単位空間あたりに満たされている水や空気をある一点に集めることは可能だが、その対象となるエネルギーの素量をある区間から区間へと閉じ込めておく必要があり、かつ、そのエネルギー間のネットワークを一本のケーブルで繋いでおかなければならない。


カーティスが拡散したのは、岩石を構成する上で必要となる地中の物質であり、その「組成」である。


彼が自らの魔力を閉じ込めておくために利用したのは、サンドストームによって巻き上げられた地中内部の堆積層で、時間によって成長する堆積岩の“堆積物粒子”だ。


砂嵐に紛れさせた岩石の元となる成分を空中に飛散させることで、魔力流域を利用して岩石内部の構成情報を“分子状”に広げていた。


自らの魔力を一つの容器に閉じ込める。


この場合で言う「容器」とは、岩石の構成に使うための粒子と粒子を繋ぐ「ネットワーク」のことだ。



「チッ」


ひかりは離脱しようと試みる。しかしカーティスは彼女の手を掴んでいた。自らも被弾する覚悟で、彼女の動きを封じ込めようとしていた。


ひかりが彼の首を掴んだところまでは良かったが、それは同時に自分の体を相手に触れさせる距離でもあった。ほんの数秒にも満たない時間。カーティスはすでに詠唱していた。自らの「特性」を活かした【具現系岩式】、物質生成魔法――





 ロック・メテオ(岩流星)。




 ——ゴッ




上空から降下してきたのは、岩などという生易しいものではなかった。


一瞬にして視界を覆い尽くしたのは、空を割って出現した直径数十メートルにも及ぶ漆黒の巨岩。鈍く光を反射するその表面には地霊素の文様が血管のように走り、まるで岩そのものが“意志”を持って脈打っているかのようだった。


大気を押し裂く咆哮とともに、それは重力の限界を振り切る速度で急降下する。



  ——ズドォオオオオンッッ!!!



落下と同時、地面が裂けた。


衝撃点は一撃で数メートルに渡って“陥没”し、地殻そのものを叩き砕くほどの質量エネルギーが周囲へと放射状に解き放たれる。


中心から広がる“破壊の波紋”は凄まじく、まるで地面が液状化したかのように揺れ、波打ち、フィールド全体の地形を塗り替えていく。


地中に潜んでいた地霊素が呼応し、抉れた地盤を這い回るように亀裂が奔走する。そのたびに土煙が吹き上がり、爆風が咆哮する龍のように轟いた。




 ゴォォォォォォオオオオオオ……!!!




地を駆ける爆風が、津波の如き土塊の奔流を巻き起こす。瓦礫が唸り、塵が巻き上がり、押し寄せる熱波がせり立つ“壁”のように演習場を覆っていった。


爆風の中心は既に視認できず、空間そのものが塵煙と圧縮された霊素の熱圏に沈んでいく。


あらゆる感覚を麻痺させるような空気の震えが、数十メートル先にいる者の肺までをも揺さぶった。


地面が唸り、波打つように盛り上がる。土の大地はその巨大なエネルギーを全方位に拡散させ、何層にも重なる大地の皮膚が、まるで生き物のようにうねっていた。



 「っく……!」



審判団や周囲の候補生たちは、衝撃波が到達する“前”に即座にフィールドを離脱。訓練された術式で防御を展開しながら、爆心地からの退避を試みていた。


観客席でも各自が防御障壁を張り、岩の破片と土の濁流に巻き込まれまいと身を固める。


 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…



衝突地点の景色は、噴火が起きた後のようだった。


カーティスが放った魔法は本来よりも威力が増大している。それは彼の特性を利用した攻撃だったためで、通常よりも数倍魔力の質と量が高まっていた。


「わわわわわわ…!」


「間一髪だったね」


「ひかり先輩は!?」


「…わからない。多分ダメージは負ってるとは思う」


こうなることを恐れていた。


八雲先輩の頭の片隅にあったのは、カーティスの特性が届く範囲での攻防、——その戦局の行方が、ひかりの敗北をチラつかせるものであったという予測だ。


彼は知っていた。


補充(チャージ)』の恐るべき点はその魔力の増大量であり、局所的なエネルギーの圧縮という観点に於いて、カーティスほど適した能力は無い。


範囲と時間は絞られるが、自らの魔力総量よりも高い出力を出せる彼の「特性」は攻撃面という側面に於いて脅威であり、地の利を活かせるこのフィールドの上では、ひかりに不利な状況が生まれるのではないかと危惧していた。


ひかりが試合開始直後に動いたのには、明確な理由があった。


それはカーティスの特性が、時間の経過によって【発動条件を満たせる環境】が整いやすくなるという側面だけでなく、自らの土俵に足を踏み入れることが、カーティスとの戦闘においてもっとも勝機を見出せる一手になると踏んでいたからだ。


――しかし




モクモクと立ち上がる煙が薄れていく頃、フィールドには、巨大なクレーターが。



「ひかりッ!!」



雪音先輩は悲鳴を上げていた。


ほとんど反射的だった。


クレーターの中心には2人が対峙していた。


勝負はまだ決まっていない。


……ただ、ひかりが負ったダメージは極めて深刻なものだった。



「…次で勝負を決めるだね」


「次…?」


特性スキルの発動直後だ。カーティスもすぐには動けない。それに、自らも自分の攻撃を喰らった。自爆覚悟だったようだが、ひかりと彼ではもらったダメージ量に差がありすぎる」


「じゃあ…」


「カーティスは次の攻撃に備えている。対してひかりは…」


ひかりは、負ったダメージの回復に勤しんでいた。


カーティスは魔力流域を展開しない。


それは彼女の脱出経路を塞ぐためだった。


下手に流域を拡張すれば、その流域を利用され彼女の回復速度を早めてしまう恐れがある。


ひかりの特性は“常時解放型”だ。


発動に於けるリードタイムも、発動を満たすための特殊な条件も必要としない。


ただしオンとオフのスイッチは自ら切り分けることができる。


戦闘の状況や環境によっては、特性が自らの流域に悪影響を及ぼしてしまう恐れがあるためだ。



外にではなく内。


カーティスは“密度”を高めていた。


『補充』の能力は外に発するための魔力の増大に役立たせることもできるが、逆に体内の魔力の“圧縮”に役立たせることもできる。



 ジジ…ジジジ



迸るプレッシャー。


大きく深呼吸し、カーティスは魔力の充填に集中する。


体外へと漏れ出る流域を最小限に抑えつつ、その圧力を一本の「槍」の中に閉じ込めていく。



「…あれは」


「巨槍 《グラヴェル・ドライヴ》。カーティスの“武器”だよ」


「そういえば、”槍使い“だって言ってましたね」


「術者にはそれぞれ「属性」や「霊素」が存在するのは知ってるよね?だけどそれと同時に、生まれながらの「魂魄」があるんだ」


「魂魄??」


「授業で習ってるでしょ?あれが『ギア』だよ」


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