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第75話 カーティスの狙い



ひかりは一時的に“全ての魔力と互換できる”特性スキルを持つ。


――『超電導』と呼ばれる特性だ。


敵味方問わず魔力流域が発生している「場」に於いて、自らの魔力をその流域内にリンク=接続することができる。魔力流域に発生している「流域場」というのは、本来であれば所有者の魔力と常に相関関係にあり、人間で言うところの【体全体を動かすための「血管」の役割】を果たしている。


他人の血管に入り込み、その血流を自らの体内に流し込むことは肉体的な危険性を孕むだけでなく、それを“互換性”のあるものに置き換えることは、例え同属性の術者同士であっても相応の準備と適応期間が必要である。自らの魔法流域を他者の魔法流域と絡め合うことはできても、それを相互的に「結合」することは物理上あり得ない内部構造を持っているためだ。


しかし、ひかりの特性はその“法則”を無視する。


実際には他者の魔力流域を自らの魔力量に置き換え、それを乗算できる(掛け合わせられる)わけではない。あらゆる魔力流域を「水」に置き換える。この場合で言う「水」と言うのは、あらゆる物質を媒介できる⇄媒質化できる物理的な「場」のことを指し、魔力流域そのものをあらゆるエネルギーに変換可能な経路へと“転換可能にする”という意味だ。



「シールドを捨てた!?」


「…いや、どうだろう」



ひかりが攻撃を繰り出している最中、周囲に持ち上がる砂塵の波。カーティスは消費エネルギーを“補充”できる。しかしそのためには、必要最小限の動きでエネルギー能率の質を高める時間が必要だった。


ひかりはカーティスの魔力流域内を媒介し、その「魔力量」を自らの出力領域へと変換していた。この時点で互いの魔力総量には差が出始めていた。カーティスの魔力流域を利用し、自らの魔力消費量を最小限に抑える時間――



「超電導」の特性でもっとも重要なのは、“魔力が流れている場に常に身を置くこと”だ。



そうすることで、ひかりはその「場」の魔力を自らの「魔力消費量」に分配し、それをエネルギーとして活用することができる。


カーティスはたまらずに後ろへと後退していた。


壁を修復するには時間が足りない。


互いの魔力効率がぶつかる直線距離はひかりの選択と行動に依存している。


攻撃の「先」。


その“先端距離”にひかりが動いている限り、防御への意識を欠くことができずにいた。


電撃によって弾ける砂の壁は、修復への時間をすでに脱ぎ捨てていた。後ろへと後退するステップの跳躍に混ぜる、砂塵の津波。 


視界を塞ぐ。


しかしこの選択は悪手だった。


カーティスは認知していなかったわけではない。ひかりの「視界」はフィールド上の電磁波そのものを立体的に拡張できる。砂塵による目眩しなど、ほとんどその効力を持たないのは承知の上だった。カーティスが展開しようとしたのはその「物量」だ。砂を流動させ、地形そのものを防御の“起点”に変える。敵の視界を防ぐことはできなくても、地面の上はあくまで自分のフィールドだ。その自負だけは、常に胸の内側にひしめいていた。



 ザザザザザザザッ



地形の変遷による環境の変化。カーティスは後退しながらも、魔力の出力量を惜しまない。回転する渦が水平方向へと伸びる。ひかりは崩壊したシールドの表層から目を逸らさなかった。直線上に後退するカーティスの足取りを追跡する。


追撃する雷の粒子。


空気中を伝播する電流の熱波。


崩壊するシールドの外殻が、その綻びを空間に零していた。ひかりはその“スキ“を逃さなかった。低い重心からのステップ。それは重厚な波動を生み、瞬く間に地面を“掴む”。



バンッ――



叩くというよりも”打つ”。


強烈な「一歩」の踏み出しは低い軌道を保ちながらも、確かな推進力を運んでいた。地面の変形など意にも介さず、カーティスとの間合いを詰める。砂塵を利用した膜。その防御への「魔力」の具現化は流れる動作の中に絶えず“動き続けていた”。しかし『超電導』の特性を持つひかりの前には、「時間」が足りない。ひかりの攻撃によって崩壊したシールドの修復を捨て、後退するまでの“距離”。


この「距離」の間に注いでいたカーティスの魔力流域は、地面から持ち上がる砂や石の原子間を結び、渦状の防護壁を生み出し続けていた。けれども、ひかりはその魔力流域をも自らの「経路」に変換していた。


「電流」だ。


カーティスとの直線距離に漂っている純度の高い流域。


その「場」を媒介できる媒質こそが、彼女の持つ特性に他ならない。


ひかりの特性はその「場」にある魔力の流れを“媒介”できるだけで、決してそれを自らの魔力総量に“置換”することはできない。


特性が発動している間は、その「場」にある魔力のみを仲介することしかできない。


だが、それこそが、『超電導』と呼ばれる能力のもっとも長所とされるべき点だった。


その場にある魔力を「仲介」できる。


すなわち、水のようにその場の魔力の中に溶け込むことができ、“自由に出入りすることができる”。


カーティスとの間にある魔力流域は彼女にとっての「通路」でしかなく、「魔法」への具現化、——つまり魔力の出力=実体化が遅れれば、彼女が移動できる領域はより広く、大きくなる。


シールドが崩壊した間際、彼女はカーティスへと近づく「一歩」の中に自らの魔力を押し込んでいた。


爆発的に外へと放出された力が彼女の体を押し上げ、——進ませる。その前進力を持たせながら、カーティスが魔力を具現化するまでの領域内部へと翔ぶ。


ほんのわずかな「隙間」でしかなかった。


判断が遅れれば、再び壁を形成される恐れもあった。


カーティスは首の根っこを掴まれ、後退する勢いのまま地面の上に押さえ込まれた。肉体を掴まれることは、魔力を出力する上での「経路」を阻害される要因にもなる。術者は体内の魔力を外へと放出し、「魔法」へと昇華するのが基本原則の一つだからだ。動きを拘束される中、至近距離からの電撃が振りかぶるひかりの右腕の最中にあった。


「…あれは?」


フィールドの周りにいる観衆の目に留まっていたのは、2人の“頭上”にあるものだった。


振りかぶるひかりの背後に迫る影。


その「気配」に、彼女も気づく。


「間に合ったようだね」


不敵な笑みを浮かべるカーティスのそばで、静止する時間。


ひかりが振り向いた先。


――その頭上には、高速で近づいてくる巨大な「岩石」が。



2人の上空には、砂塵の渦の残骸が絶えず浮遊していた。


砂塵の「雲」。


それは空中に留まり、絶えず“成長し続けていた“


カーティスがサンドストームを発動し、フィールドが砂嵐に包まれた時だ。


——あの時、すでに彼の「特性」は発動していた。


彼の特性は『補充』。


発動条件の一つは”魔力を消費すること”。


そしてもう一つは、“消費した魔力を滞留できる領域を形成すること”。


彼は「隠す」必要があった。


ひかりとの戦いにおいて求められる勝利条件、——もとい、勝利する確率を高めるための一つの手段としては、“いかに相手を出し抜く事ができるか”。


魔力総量が拮抗している両者にとって勝敗を分けるカギはお互いの攻撃、およびその「手段」を、一つの間合いの中に見極める事。



カーティスはあらかじめ準備していた。



『超電導』に対抗するためには、相手が気付けない「間合い」から距離を詰める必要がある。


戦いの鉄則は手の内をさらさない事であり、情報を開示しない事。


周囲を包み隠すほどの大がかりなサンドストームに打って出たのは、ひかりの「意識」そのものを撹乱するためだった。


サンドストームが発動した直後、ひかりは上空で遠距離からの攻撃に移る。嵐によって巻き上げられる周囲の砂や岩石は、彼女の「スパークショット」の弾丸に利用されていた。視界が見えなくなるほどの濃い砂嵐は、ひかりの攻撃手段によって少しずつ中和、分解され、視界を遮るほどのものではなくなっていた。間接的にサンドストームの効力が失われたかに見えたが、その「嵐」は元々彼の居場所を隠すためのものでは“なかった”。



砂塵はリンの攻撃の後も尚、「宙」に浮遊し続けていた。



周囲の人間がそれに気づかなかったのは、それが上空に浮かぶ「雲」の一種だと認識していたためだ。嵐が薄くなり、形が失われていく。その過程で生じた魔法流域の“減退”が、一種の錯覚を生んでいた。上空で成長する「岩石」のために嵐が利用されていたとは、誰も気づけなかった。




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