第74話 状況を打破するには
ドッ
つかず離れずの距離の中心で、ひかりは攻撃を積み重ねていく。カーティスの思考も行動も、全て予測した上での行動だ。シールドの修復は織り込み済みだった。カーティスの攻撃が及ぶフィールドの「中」だろうと、手数を抑えるつもりはなかった。
修復が間に合わない距離へ、——翔ぶ。
ひかりの脚力はより一層深く地面の懐を掴み、柔らかい弾力とその“反動”を帯びていた。シールドの周囲に伝播していく電流の経路は、入り組んだ回線のように線と線を交錯させ、また、満遍ない包囲網を結んでいた。
カーティスも簡単には近づけさせない。
その意向が反映されたのは、攻撃を繰り出すひかりの立体平面上、——その“斜線”だった。
『サンドニードル』と呼ばれる岩の弾丸が、シールドの表層から飛び出してきた。ひかりが移動する、その経路の軌道線上へと。
飛び出してきた弾丸は、鋭い槍のような形状をしていた。全ての方向へと“同時に”飛び出したわけじゃない。ひかりの移動方向、角度。その順序を辿るように狙いを澄ませ、発射する。シールドとの距離が近ければ近いほど被弾する確率が高くなる。
後方への跳躍。
それと、——ステップ。
距離とタイミングをうまく組み合わせながら、ひかりは被弾しないように左右に動いた。サンドニードルは直線的な軌道でのみ向かってくる。避けるのは造作もなかった。
いや、——“予測”できた。
シールド表面上の微弱な電磁波の変化量を捉えれば、どこから発射されるのかを認識できる。発射されるよりも先に動く。例え、動いた先に飛んできたとしても——
キュッ
スニーカーの底が擦れる。
バチバチッという火花のとともに、強烈なサイドステップ。
距離を詰める。
接近する。
シールドの形状は歪な形へと変化していた。ドーム状だった輪郭は棘が生えたように凸凹に逆立ち、その全身を細かく尖らせていく。おそらく、接触範囲を狭めるためだろう。シールド全体を棘状の甲皮で覆えば、攻撃できる箇所を限定できる。球面であれば衝撃が直に伝わりやすいが、形状によっては分散できる。また、迎撃態勢の「手段」としても。
スパークショットよりも直接的な打撃の方が威力が大きい。ショックウェーブは物質の内部の構造を揺らし、その分子構造を変形させる。シールドは魔力で構成された特殊構造物。単純な魔法障壁とは少し勝手が違うが、カーティスの魔力流域に直接接触できる分、与えるダメージの大きさもより深く、鋭かった。
だからこそカーティスは、できるだけその攻撃が被弾することを避けたいはずだ——
教官は言った。
防御を固めるだけでは防ぎきれない。地面に電気が通る限り、ひかりから逃げることは不可能に近い。相手の攻撃を「受ける」だけでは不十分。
今の状況を打破するには…
ザァァァァァ
カーティスの異名は“土竜”。それは彼の移動範囲、及び行動領域が、地面の「中」にまで及ぶためだ。しかし地面の内側には潜り込めない“理由”があった。それはひかりの“電流”が、地面の内側へと及ぶため。下に潜ることはあり得ない。ひかりの攻撃を真正面から受ける以外に逃げ道は無い。
ゴッ
ひかりの拳がシールド表面を捉える。捉えると同時に振動が走った。ショック・ウェーブの特有の“反応”だ。魔力消費量が大きい分、連打はできない。しかし継続的なダメージを与えられる。そのダメージ総量は通常の電撃を浴びせ続けるよりも大きい。
ひかりはそれを、左拳にも控えていた。
溜めの動作から大きく息を吸う。
そして、——止めた。
ドンッ
最初のショック・ウェーブが衝撃を伝えている最中、左から放たれたニ撃目がぶつかる。その威力は岩を砕くには十分過ぎた。衝撃波が一瞬で全体に及び、ビキビキッと表面に亀裂が入る。砂が内側から飛び出したように見えたのは、衝撃を受けきれなかったシールドの内部物質が、勢いよく外へと弾き出されたためだ。破壊される外殻の破片が、ドッと空気中に漂う。
ひかりは腰を落としている。「中」にいるカーティスを引っ張り出すために、攻撃を続けて繰り出せる体勢を崩さない。
地面からは攻撃を妨害する渦や波が立ち上がっていた。カーティスの魔力が地面と接触している限りは、「攻撃」の手段と方法が途切れることはない。
変形する地面がそばにあった。
ひかりの重心を「外」へと逃がすためだ。
ただ、それはあくまで後手に回っていた。
ひかりのスピードはカーティスの視界の外に動いていた。だから魔力を展開するスペースや指定箇所が、どうしてもひかりの行動の「後」にズレていた。ただでさえシールド表面上の強度に魔力を費やさなければならない局面。効率よく敵の行動を制限するための地形の変化は、無差別に指定できない「理由」と「範囲」があった。
壁の修復に流れていく魔力。
足元に及んでいく物質の変化。
漂流する岩の破片の中に飛び交うスパークが、周囲の慌ただしさを物語っていた。
ひかりの影が、変形を始める地面の曲面上に流れていた。
敵の行動よりも速く。
それは互いの意識の流れの中に常にひしめき合う思考回路の一部となっていた。
互いの間合いは常に射程圏内の内側にある。
魔力の消耗によって2人の行動が制限される領域は立体的な空間の対角線上には“無い”に等しく、いつでも攻撃を繰り出せる「距離感」に、2人は対峙していた。
2人の魔力量の差はほとんど無いに等しい。
しかし「魔力」にも“性格”があり、出力できる幅や量には、あらゆる選択と行動に対する実践上のムラがあった。
シールドに注力する魔力の“起こり”。
その“溜め”の動作もそうだ。
魔力を「外」へと展開=具現化するためには、使用者の「思考能力」は、純粋な身体能力に匹敵するだけの重要性がある。
カーティスは選択を迷っていた。
シールドの破壊は想定内。
問題は、その“ダメージ量”だった。




