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第26話 隠居飯テロ親父の本音



「カイ。これからある魔獣を狩りに行くが、ついてくるか?」


「魔獣??なんだよ、私の力が必要だってか?」


「そうじゃない。ずいぶん退屈そうにしていると思ってな。どうせすることもないんだろう?」


「これからコイツらと湖に釣りに行こうと思ってたところだ。ま、どうしてもって言うんならついていってもいいが」


「勝手に釣りなんかするんじゃない。言っておくが、ここらへん一帯は俺の所有地だぞ?村の人間にだってちゃんと了承してもらってるんだ。なにかする時はまず俺に相談しろ」


「ケチケチしたこと言ってんじゃねーよ。大体湖はあんたの敷地じゃねーだろ」


「だとしてもだ。あんなデカい飛空挺を停めさせてやってるのも特別だということを忘れるな?元々ここの空域は航行禁止なんだぞ?」


「へいへい。わーったよ。この堅物ちゃんが」


……全く。チョロチョロとキャンプまがいのことをするのはまだいいが、勝手にほっつき歩かれるとなにをしでかすかわからんからな、この連中は。言葉はキツいかもしれんが、ここにいる間は大人しくしておいてもらわないと。


「……で、なんだよ魔獣って」


「それなんだが、このガルヴァ山郷でも少し有名な魔獣でな。帝都の魔獣討伐機構(MSM)にも掲載されている。“黒爪グラウベルク”ってやつだ。討伐レベルは……18だったか?」


「18ぃ!?ただの雑魚じゃねーか」


「数字だけで言えばな。だが、魔獣には常に“個体値”というものがある。グラウベルクには、かつて帝都の補給隊を壊滅させた実績がある。体長は三メルト(約4.5メートル)、体重は軽く1トンを超える。問題はそいつの“筋力と耐久”だ」


「ふーん。まあ、ちょっとした巨熊ってとこか」


「熊“だったもの”だな。ベースになっているのは〈ヒスカ熊〉――ガルヴァ山郷の東部や灰針山脈に広く分布する中型獣だ。本来は臆病で、山菜や木の実を主食とする雑食性でな、滅多に人里には降りてこない」


「それがどうして魔獣なんかに?」


「長年、“魔素濃度の高い領域”に適応するうち、肉体と性質が激変した。魔素を蓄える性質が強まり、筋組織は強靭化、骨格は肥大化。さらに、縄張り意識と攻撃性が極端に高くなった。分類上は今や“変異獣種”――熊の名を残してはいるが、もはや別の存在と考えるべきだな」


「なるほどね。そいつが今、この辺りに?」


「そうだ。近くの枯骨の谷――あそこは地形的にも音と匂いが籠もりやすく、グラウベルクのような単独型の魔獣には格好の縄張りになる。もともと灰針山脈の麓が主な生息地だったが、こっちに流れてきた理由は、どうも周囲の生活臭が関係してるらしい」


「へぇ……少しはワクワクするじゃん」


「……するなよ」


──MSM。それは“帝都魔獣監視機構(Magic-beast Surveillance Mechanism)”の略称で、帝国の学術機関が設立した“分類・管理・討伐”のための公的組織だ。


魔獣を“討伐レベル”という独自基準でランク付けしており、1が子供でも倒せるスライム、10以上になると騎士団クラスの対応が必要とされる。

討伐レベルの基準は、以下のような目安で定義されている:


・レベル1〜5:一般猟師、村の自警団でも対応可能

・レベル6〜15:有資格の冒険者、もしくは騎士団の初級部隊対応

・レベル16〜20:戦術部隊級。中規模集団での討伐推奨

・レベル20〜29:特別許可制。小規模の都市単位での警戒対象

・レベル30以上:災害級。軍または国家機関レベルでの対応が必要


《黒爪グラウベルク》はレベル18。

一般の村なら緊急警戒対象。だが俺にとっては“多少タフな熊”って程度だ。


「最近この辺に現れ始めたのは、俺が食堂をやっていることも1つの要因かもしれん」


「食堂……って、そんなに影響があるもんなのか?」


「ある。最近は人の出入りがかなり増えたしな。黒爪は縄張り意識が強いんだ。音と匂いにかなり敏感で、外来種や人間の生活臭が増えると“敵意”を持って接近してくる傾向がある」


「へぇ……つまり、私たちがこの地にいることも原因になってるってわけだ」


「少なくとも、無関係じゃない。だからこそ早めに“追い払っておく”必要がある。なにより、あいつの肉は干し肉にすると非常に旨い」


「出たよ、隠居飯テロ親父の本音」


「……事実だ」


黒爪グラウベルクの前足の筋肉は、干し肉にすると驚くほど味が濃く、しかも油が甘い。スープの出汁としても上質で、以前スモークにした際は客が無言で泣きながら噛みしめていた。


「さっきも言ったが、出没場所は東の“枯骨の谷”だ。かつて火山活動で一帯が枯れた森で、今は苔と灰に覆われている。音が響きやすく、足跡が残りにくい。やつの気配を見つけるのも一苦労だ」


「つまり、狩り甲斐があるってことだな」


「ライル、今日は留守番だ。客が来たら“本日休業”って伝えてくれ」


「了解、親父! 看板も下げときます!」


「それと、もし補給商人が来たら干し肉の在庫と入れ替えたいと伝えておけ」


「わかった!」


さて――“熊狩り”と洒落込もうか。

怪我人が出る前にも、定期的に対策は取っておかないとな。


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