第54話 俺はまだ人間でいたい
説明しよう!
……と言いたいところなんだが、正直どこからどう説明すればいいのか俺にもよくわかってない。
ただひとつ言えるのは、これから話すことは決して“苦し紛れの言い訳”ではないってこと。たとえばほら、火のついたダイナマイトを渡されたらとりあえず投げ返すしかないだろ?で、その“火のついたダイナマイト”が俺の目の前にボン!って置かれたとき、選択肢なんて一個しかなかったわけ。
……いや、ぜんっぜん例えになってないのはわかってる。でもそれくらい“理屈じゃねぇ”ってこと!
いやマジで。
これは俺の名誉のためにも強く主張しておきたい。
たしかに今の俺の状況は、傍から見れば「完全にアウト」な何かに巻き込まれているように見えるかもしれないが、誓って言う。悪意なんて微塵もなかったんだ。ゼロだ。いやマイナスだ。
俺はこれまでの人生、なるべく真面目に誠実に生きてきたつもりだ。
授業はサボらないし他人の陰口も言わない。訓練には遅刻しないし、ルールだってちゃんと守ってきた。
(いやまあ、ちょっとくらいは逸脱したこともあったけど、それも全部善意の延長線上だったはず……たぶん)
そんな俺が“無許可でスキルをコピーして”“自室で能力を暴走させて”“しかも戻れなくなって引きこもってる”とか、そんな軽率極まりないことをするわけがないだろう?
ねえ?ないよね??(誰に同意を求めてる)
大事なのはここからだ。
誓って言うが、俺は今これ以上ないくらい冷静だ。パニックになってるように見えるかもしれないけど、これでも理性フル稼働で状況分析中なんだ。
“ふざけてこうなったわけではない”という点は特に強調しておきたい。
むしろ俺としては、ちゃんと訓練にも真面目に取り組んでいて、その延長線で新しいスキルを試そうとしたら、
たまたま──ほんのちょっと──スキル同士が喧嘩して、
“うっかり”他人の姿のまま元に戻れなくなっちゃっただけなんだ。
……ああ、言えば言うほど言い訳くさいのは分かってる。分かってるよ?
でも本当に、今回は偶然と事故のコンボでしかないんだ。
わざとじゃない。断じてわざとじゃない。
狙ったわけでも気まぐれにやったわけでもない。
事故だ。不可抗力だ。たまたまそうなっただけなんだ。
……いや、ほんとにそうなんだ。
「だったら今すぐ素直に謝って、正直に話せばいいじゃないか」って、
たぶん誰かが言うだろう。
でもな? 物事にはタイミングってものがある。
いま正直に話したところで「俺がやりました!」って堂々と罪をかぶるのは、あまりにも短絡的すぎるというか“自殺行為”というか、とにかくまああんまり良くない状況なんだ……
謝る相手がただの知り合いや友達ならまだしも、アイツが怒ったらどれだけ“やばい”かは幼馴染である俺がよく知っている。俺はこんなところで人生を終わらせたくはない。“こんなところ”でというよりもこんな形で終わらせたくはない。今さらどう説明したって手遅れなんだ。今俺が直面している事態をそっくりそのまま説明でもしてみろ?相手がどんな聖人であっても“許される”という選択肢はいの一番に排除されるだろうし、仮に許されたとしても俺とその人の関係はそこで綺麗さっぱり終了だ。……だいたい、“これを説明すれば許される”って前提がすでに間違ってる。
アイツにとって、理由は“先に話すもの”であって“後から弁解するもの”じゃないんだ。
後出しの言い訳は全部無効。裁定は問答無用。
あの圧倒的な論理と暴力の融合体に対して、俺の口はもう黙秘する以外の選択肢を知らない。
………いや、これ以上話すのはよそう。今はとにかく集中するんだ。さっきから頭の付近に乗っかってくる未知の感触は、これまでの人生の全ての経験を凌駕するようなとてつもなく暴力的でファンタジーな“出来事“に他ならない。それに鼻の先に掠める芳醇な香りときたら……hshsh
悪気あるわけじゃないんだ(真顔)。
決して、そんなつもりは毛頭ない。だけどどう頑張ってもこの状況を冷静に対処できるほどの技量が俺には備わっていないというか、そもそもそんな心のゆとりが現状無い。
悲しいかな、普通の人間にはそんな都合のいい感情や度量は備わっていないもので、慎ましい人間には慎ましい人間なりの”身の丈“というものがあるのだ。
俺にはわかる。才能に限りのある人間にはどう足掻いても超えられぬ「壁」があることを。越えられないのならばいっそ静寂に身を任せているしか他に取るべき選択肢が無い。事態が収束するまでただ石の上に生える苔のように緩やかな時間の流れに身を任せ、四季折々の風情に耳を傾けていれば良かろう。さっきからどうも視界が暗くて仕方がないのだが、正直なところ今目を開けてしまえば、あまりの衝撃的な映像に人が人で無くなってしまう可能性があるため自重したい。(というかスキルが二次暴走をしかねない)
俺はまだ人間でいたい。人間らしく人生を謳歌していたい。
控えめに言ってこれはもう“無理”なんだ。
状況を打破するとか立ち向かうとか、そんな勇ましいフラグは今すぐ箱にしまって地中30メートルに埋めて、ついでに古文書の中に「決して開けるな」って赤字で書き残しておくべきだろ、これ。
世界七不思議の一つとして語り継がれるレベルの無理ゲーだ。
フラグ回収の資格?そんなもんは勇者候補にでもくれてやる。
俺は俺のために、ここでただじっと苔になります。
このまま風の音を聞きながら数百年を過ごす覚悟はできている。
“嵐が過ぎるまで耐える”って選択肢は、ヘタレの専売特許なんかじゃない。
生き延びるために最も合理的な判断なんだ。
歴史が証明している。生き残ったやつが勝ちなんだってな。




