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第47話 久しぶりの特訓



放課後の空って、どうしてあんなに優しいんだろう。


夕陽が高層ビルのガラスに反射して、空の端っこに赤と金のリボンみたいな光がひらひらと舞っている。街全体がほんの少しだけ柔らかく色づいて、あたりの喧騒さえも穏やかに感じられるこの時間が私は昔からけっこう好きだ。


どこか遠く、軌道を変えた飛空艇が低くエンジン音を響かせていた。その後を追うように白い群鳥の編隊がゆっくりと羽ばたいていく。まるで見えない風のレールの上をすべっていくみたいで、見ているだけで心がすーっと軽くなっていく。


「はぁ〜…ひさびさに、のんびりできた気がする」


そう呟きながら、私は《多目的訓練棟・第3演習フロア》へ向かって歩いていた。


ここは教導局の施設内でも、各課程共用の公的トレーニングスペース。

大きな吹き抜けのドーム型ホールで、周囲には観覧デッキやコントロールブースも備えられてる。ふだんは集団演習や競技テストに使われる場所だけど、今の時間帯はまだ予約も少なくて、比較的空いているらしい。


そう、今日は――

ひさしぶりに、ブラックサンダーのメンバーと集まって練習する予定なんだ。


ふたりとも、わりと忙しい子たちでさ?

だから前みたいに定期的に集まるのも難しくなってきてるんだけど、BTバトル・サーキットの予選も近づいてきたことだし、そろそろ本腰入れて連携訓練もしておかないとね。


「おーい、クロエ〜!」


先に到着していたのは、うちのチームの癒し系――ミリア・セラノア。


淡い銀髪にところどころ水面みたいな水色のメッシュが差し込まれていて、夕陽の光を受けるとまるで水晶みたいに柔らかく輝いて見える。ゆるやかに揺れるロングスカートと薄手のカーディガンの袖をひらひらさせながら、ミリアはいつものゆるい笑顔で小さく手を振っていた。


「ごめんね、ちょっと遅れちゃった。待たせた?」


「ううん、大丈夫。私も今来たところだから〜」


ふわふわした声。ふわふわした仕草。そしてふわふわしたオーラ。


……うん、やっぱりミリアと話してると、世界の時間がゆっくりになる気がする。


ミリアは水属性の適応型で、主に回復・支援・地形干渉系の術式を扱ってる。

性格はというと、超がつくほどのマイペース。争いごとは基本苦手で、演習でも攻撃にはあまり関わらず後方支援に徹していることが多い。だからこそ、うちのチームには必要不可欠な存在なんだ。


「クロエちゃん、また怒られてたって聞いたけど〜?」


「うっ……それ、どこ情報……?」


「うふふ〜、風の噂〜」


「……いやそれ、どうせあの“情報通気取りの風紀員”からでしょ」


「ふふっ、正解〜」


予想通り。っていうか、もう他の学科にもバレてるわけ!?


と、そこへ。


ミリアの背後にひとつ、影がスッと現れる。

黒く長い髪にきっちり整えられた前髪。その右目にはいつもの白い眼帯。

立ち姿は無駄がなくて、なんていうか、見ただけで空気がピリッと引き締まる感じがする。


「……おしゃべりはそのくらいでいい?」


レイナ・ヴォルテクス。


うちのもう一人のメンバー。風属性の突撃型で、タイプとしては私に近いんだけど、こっちはもっとクールで理知的。あんまり多くは喋らないけど、言葉の選び方が鋭くて、いつも要点だけをスパッと斬ってくる。


ちょっと毒舌気味だけど私は嫌いじゃない。むしろ、こういう子が一人いるとチームが締まるから。


「さすがに時間押してる。さっさと始めよ。演習フロア、2時間後には他の予約も入ってるし」


「はーいはーい、ちゃんと真面目にやりますよ〜っと」


「それ、真面目な人が言う台詞じゃないと思うけど?」


「ミリア、何気に手厳しいよね」


「ふふ、クロエちゃんの扱いには慣れてます〜」


まったく、頼もしいやら何やら。


そうして私たち「ブラックサンダー」は、演習フロアに歩き出した。

BT予選まではもう時間がない。

ふざけてる余裕なんて、ホントはどこにもないのかもしれない。


でもこうしてみんなと一緒に動き出せるだけで、少しだけ背筋が伸びる。


さあ、やるよ。今日はみっちり特訓といくからね。


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