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第46話 これはどういうことかな?



『テラスサイド寮』


フレンが住んでる寮の名前。ビルの建ち並ぶ大通りを抜けて、私たち3人は「コペルニクス研究センター」の見える68番線の遊歩橋を渡った。都市部にはビルとビルをつなぐ通路がいくつかあり、各街区に通じる鉄道が、育成局の周りを囲うように建設されている。


街の中心部に立つ電波塔。空中を縫うように張り巡らされている高速線。ガラスで覆われた高層建築物が、入り組んだ街路の周りを覆い隠すように整列していた。歩道橋の下にある『パルム図書館』は、くじらの骨格をコンセプトに作られた大図書館だ。広い公園と、緑に囲まれた石畳のテラス。カフェが近くにあって、よくそこで皆と勉強会を開いてる。と言っても、真面目に勉強してるのはフレンくらいだ。アカネも私も、文字だらけの教材や資料を見るのは嫌いでさ?


「午後の授業はどうすんの?」


「私は出るけど」


「えぇぇ!?一緒にサボろうよ」


「サボってる場合じゃないでしょ。反省文とか書かなきゃだし」


「そんなもんほっときゃいいって」


「寮長怒ると思うけどなぁ」


「あんたたちは寮生活じゃないから良いよね?先輩にどやされることもないしさ」


フレンは寮で生活してるが、私とアカネは違った。


アカネは、去年の秋頃から自主実習の名目でパートタイムワーク(*注釈1)を始めている。雷導兵候補生としての義務課程をこなしながら、外部協定企業の補助業務に就くのは簡単なことじゃない。

私とフレンは将来、雷導外交局か都市外事部門への配属を目指してるけど、アカネは早くから「金融関係の仕事がしたい」って明言してた。


専攻してる副課程も、経済基礎演算とか、霊素貨幣論とか……私たちにはちょっと難しい分野ばかり。バイトもその延長線上で、都市連携金融機構の下部データ整備に関わってるらしい。候補生としての生活と並行して、将来のための実務経験を積もうとしてるなんて、ぶっちゃけすごいと思う。


それに自分で稼いだお金で、前に住んでた寮を出た。

都市機構に特別申請して単身居住許可を取ったんだって。今はセントラル・リングの一角にある、《ガーデンスクエア》の30階で一人暮らしをしてる。

あのエリアは候補生用というより、若手技術職とか外部連携者向けの中間層住宅区だから、生活の質もそれなりに高い。彼女なりの覚悟が見えるっていうか、ただの“兵士候補”じゃ終わらないって意思を感じるんだよね。


それに比べて私は、いまだに実家暮らしっていう…


「アカネん家に行ってもいい?」


「ダメ」


「アカネはアカネで呼び出されてるんでしょ?」


「だから一緒にサボろうって言ってんじゃん」


「絶対怒られるじゃん。めんどくさいからヤダ」


「どうせいつも怒ってるじゃんアイツ」


「それはクロエが真面目に勉強しないからでしょ?」


「してますー」


「どこらへんが??」


…どこら辺がってそりゃ、色々だよ。


周りからよく言われるけど、私だってやる時はやるよ?今回みたいに、時々やらかしはするけど。


「ミカの部屋にでも行けば?」


「今日確か課外授業とかじゃなかった?」


「そうだっけ?」


「今日は港の方に行ってんね。漁業関連の人と交流するんだってさ」


「交流ゥ!?」


「釣りとかするんじゃない」


「めちゃ楽しそうじゃん。いいなぁ…」


「ミカの学科はそんなじゃん?よく郊外の実習農園に行ってるしね」


「聞いた聞いた。農園の人たちと一緒にジャム作ったって。寮の冷蔵庫にもあったもん」


「…とにかく、今はおとなしく反省したら?ただでさえ素行が悪いんだから」


失礼だな。フレンだって時々サボる時があるでしょ?文化祭の練習とかでよく他の学区に行ったりしてんじゃん。うちらの準備はほっとらかしといてさ?


「ちゃんと業務報告は提出してますー」


「報告してたら抜けてもいいってわけじゃないでしょ」


「補助要員が不足してたから手伝いに行っただけだし」


「こっちも訓練スケジュール詰まってるのに?」


「でも進行状況は計画通りなんでしょ?」


「……それは、まあ、そうだけどさ」


フレンがよく行く「他の学区」っていうのは、《アカデミア・アーク西区》──中環第三市街のことだ。


うちらの《訓練棟(Zone-A17)》がある区域の隣に位置してて、そこには術式演算クラブとか小隊戦略演習サークルが集まってる。

フレンの幼馴染もそこに籍を置いてて、しょっちゅう共鳴協力とか連携演習で顔を合わせてるらしい。


あと、隣接する《エレクタ・カルチャーストリーム》(第十一市街)にはLCA主催のクラブ合同施設──通称「ホロフィールド・アリーナ」があって、術楽演舞部や霊素スポーツ系の課外活動が行われてる。

フレンはその辺の補助要員やサブ演算係として、よく動員されてるってわけ。


「とにかくあんたはサボりすぎ。期末試験は赤点ギリギリだし」


「うっさいなぁ。ギリギリセーフだからいいでしょ?」


「それより大会も近いんだし、あんたはチームのメンバーなんだから自覚持たなきゃダメだよ」


「自覚って?」


「最悪出場停止になるかもなんだよ?」


「流石にそれはないでしょ」


「あるある。ニニーは確か出場停止喰らってない?局外で暴力事件を起こしたとかで」


「アイツは論外でしょ。ってか、あんなやつと一緒にしないでよね!」


「あはは。ごめんごめん」


……とはいえ、笑って流せる話でもない。

フレンが言った「大会が近い」という一言が、頭の片隅でじわじわと重さを増してくる。


実際、育成局からの通達も最近はそれ関係ばかりだ。

訓練スケジュールの調整、外部演習区画の確保、候補生の行動規制。

どれも「その時期」が近づいている証拠だった。



──育成局主催の能力実戦トーナメント(候補生トーナメント)、


【-バトルシティ-】



通称「BTバトル・サーキット」と呼ばれるこの大会は、中環第十市街コモンズ・リンク・センターの北側一帯──第十〜第十一市街の特設演習区画を封鎖・貸切にして開催される、チーム対抗の勝ち抜き型戦術演習トーナメントだ。


私たちはそれぞれ別のチームに所属していて、フレンは「インフィニティ」、私は「ブラックサンダー」というチームで登録している。


チーム総数はLCA(雷導育成機関)全体で300を超える。戦術適応課、術式応用課、情報解析課、後方支援課など、すべての専攻からの参加が可能で、予選ラウンドを突破したチームのみが本戦への出場権を得る。


この大会は雷導祭と並んで育成局内で最も注目される公式行事の一つ。

毎年11月第1週以降に開催されるが、予選まではもう3ヶ月を切っていた。


そのうえ後期の戦術適応度評価期間も近いから、チームのメンバーと連携を深めておく必要がある。

……とはいえ所属課程が違うと日常の訓練エリアや使用棟が別だから、なかなか顔を合わせられない。


BTのチーム編成にはルールがあって、同一専攻内の候補生だけで構成することはできない。

最低でも二つ以上の育成課程(=専攻)を跨いだ混成編成じゃないと出場資格が得られないんだ。


私のチームは合計3人構成(チーム構成は最大4人まで。チーム内のメンバーの総数に制限はないが、本戦出場には枠がある。3人構成でも出場することはできるが、基本的には4人構成で臨むケースがほとんど)


私以外の2人はどちらも《分析補助課程》所属の子たちだった。学区区域でいうと、中環第六市街アーク・スピアの旧市場区側だね。

街区で区切れば第五街区南端から第六街区北部にまたがる場所。あの辺は赤煉瓦造りの街並みに旧時計塔が残る観光区としても有名で、休日には霊素ホログラムの街灯が並んでいい雰囲気になるんだ。


このBT、勝てば評価ポイントの直接加算と、上級専攻課程への推薦資格まで与えられる。


特に本戦トーナメント上位に進出したチームには次期能力審査でのランク補正が入る仕組みで、昇格や専攻課程選抜において優位になる。逆に敗退が早かった場合や戦術違反を犯した場合には、指導対象候補生としてマイナス査定が付く可能性もある。


つまりこの大会は訓練の延長ではなく、“将来の進路と評価に直結する選抜制度”の一部なんだ。


……だからこそ、負けるわけにはいかない。



そういえば来週、術式解析課との合同講義があったっけ。


そこには私の友達がいる。

通称“アイスモンスター”──本名はシルヴィア・コール。冷徹・無表情・融通ゼロの三拍子がそろった、「雷導育成局の冷血演算機」として有名だ。


私はいつも彼女のことをガリ勉メガネと呼んでる。

だってあの真面目さはもはや霊素干渉レベルで胃にくるんだよ。

この前なんて「たまには外に出よう」ってカラオケに誘ったのに、平然と実技演習用端末と問題集を持参してきたからね。歌いながら演算問題を解いてた姿を見て、改めて頭おかしいって思ったし。


……さーって、メシ、メシ。


食堂区画に向かうと、そこに仁王立ちしていたのは――

“不死川涼子”……通称フッシー先輩(本名:伏見川涼子)。


眉間に霊素が集まるレベルの鬼形相でこっちを睨んでいた。

……やば、もう耳に入ってる。


今日の件、前回の「廊下天井吹き飛ばし」騒動に続く再発だったし、そりゃ怒るか。

彼女は私の監視役モニタリングアドバイザーでもあり、書類と規則と鉄拳制裁をこよなく愛する“歩く校則みたいな人”だった。


「……クーローエ?」


来た、沈黙圧殺系の問いかけ。


「はい」


「はい、じゃないよね?何したの?」


「…それはすでに耳にしているとは思いますが」


「生徒指導室には行ったの?」


「これからです」


「ほう。で、ノコノコご飯を食べに来たと」


左様でございますが。ビッグスは今他の生徒の演習でまだ帰ってきてない。約束の時間は13時ってことだから、まだ1時間以上もあるんですよ。それまではご飯でも食べてゆっくりしようかなーと思いまして。


「フレン?」


「はい」


「クロエのこと頼んだよ、って言ったよね?」


「そうですね…」


「これはどういうことかな?」


「えーっと」


フレンは困った顔していた。フッシーのめんどくささは嫌というほど知っている。一度怒ったら日を跨ぐまでは終わらない。こうなったらドーナツか、先輩の大好物なチョコレートでも献上しようかな。駅の近くにある『ダンウェル・ドーナツ』は、最近できたばかりのドーナツ専門店で、何度かみんなと寄ってシェアしたんだけどめちゃくちゃ美味しかった。フッシーは大の甘党だし、絶対に喜ぶと思う。


ねえ、一旦逃げない?どうせ長くなるよこの説教タイム。


アカネにウィンクして促すが、うまく通じない。


いっそアカネを盾にして逃げるのも手なんだけど、そんなことしたら1週間くらい口聞いてくれなさそう。ただでさえ今日のこともあるしなぁ…


「ちょっとクロエ!ちゃんと聞いてるの!?」


「うぁーい」


「うぁーいじゃなくて『はい』!ちゃんと返事する!」


はぁめんどくさい。


いい先輩なんだけど怒るとなぁ…


食堂の丸椅子に座らされ、コンコンと叱られた。


この後先生にも怒られなきゃいけないのに、鼓膜がジンジンと響く。途中眠たくなったから立ち上がった。水水。喉乾いて仕方がないよ。能力使いすぎてヘトヘトなんだ。さっきからお腹は鳴りっぱなしだし。



※この後クロエは「反省中」のプラカードを持たされたまま、廊下に立たされた。



──────────────────────



*注釈1



《雷導帝都エレクトロニア》


◼ パートタイムワーク制度(自主実習制度)概要



【制度名称】


選択課外研修制度(E.O.T.:Elective Offsite Training)



【制度目的】


雷導兵候補生(LCA訓練課程所属者)の中でも、将来の進路に即した職能訓練を希望する者に対し、都市外部の協定機関・準軍属企業において、限定的な実地経験を積むことを認可する制度。



【対象候補生】


・評価ランク D-以上

・過去12ヶ月間における規律違反ゼロ

・所属課程の教導官による実施承認



【実習内容】


・週最大12時間まで(学内訓練を優先とする)

・内容は希望進路に応じた補助的業務に限定(例:金融補助業務、情報処理、法務サポート、物流解析等)

・軍事的・霊素関連の中核業務には従事不可



【契約形態】


・E.O.T.協定企業との三者協定(候補生・企業・LCA)

・候補生は労働者ではなく「訓練研修員」として扱われる

・謝礼・報酬は活動支援金の形式で月額支給(霊素通貨換算で上限規定あり)



【制限事項】


・寮外居住の許可には課程長の二重承認が必要(※アカネのようなケース)

・履修遅延が発生した場合、進級審査での補正が必要

・実習中のトラブルや業務上の違反は即座にE.O.T.資格剥奪および査問対象



【制度的意味】


・一般課程からのキャリア分岐選択として評価される

・卒業時の職能評価ランクに加点効果

・実習評価は将来の配属審査(雷導外交局、都市金融部局等)において参考資料とされる



この制度によって、アカネのような候補生は雷導兵課程を全うしつつ、都市内の非軍事職種へと進むキャリアパスを具体的に形成できるようになっている。

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