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第42話 今日は流石に、失格は勘弁


挿絵(By みてみん)




候補生たちが使用する『スキル』には、大きく分けて4つのカテゴリーがある。


基礎から応用、そして規格外へ――。それらはLCAが提供する個別能力総合指標(ACCP)によって定義され、訓練課程でも必ず教わる項目だった。


最初に位置づけられるのは基礎型スキル(Basic-Type)。

霊素への適性を有する者なら誰でも初期段階で発現する、小規模かつ単機能の能力群だ。たとえば「風の流れを察知する」「高熱に対する耐性を持つ」など、個人の特性や属性に応じて異なる形を取る。いわば、霊素との接続が可能であることを示す“最初の証明”にして、すべての異能の根幹をなす存在だ。


応用性と拡張性に優れ、訓練次第では高等術式すら補佐する“基盤強化型”へと昇華することもある。

つまり基礎型とは、単なる「初歩」ではなく――あらゆるスキル体系の土台であり、戦術構築の柱となる重要カテゴリーなのだ。


次に挙げられるのが、特異型スキル(Unique-Type)。

これは、世界に同一の発現例が確認されていない特殊能力の総称であり、発動者本人の霊素構造や精神構造に強く依存して発現する。空間の穴を穿つ『ゲート』や、時間差で記憶を読み取る『時差記憶』などがその代表だ。常識的な霊素理論の枠を越えた現象が多く、観測記録さえ困難な場合もある。


三つ目が、複合型スキル(Compound-Type)。

これは異なる霊素属性が組み合わさることで成立する、極めて応用的な能力だ。雷と闇、水と光といった相反する性質を内包し、それぞれの特性を部分的に統合・変換する。戦術的な幅が広く、実戦部隊でも特に重宝されるが、同時に制御も難しい。クロエ自身のスキルもこの分類に属している。


そして最後に――特級スキル(EX-Class)。

この分類に入る能力は、文字通り“規格外”だ。

世界中を見渡しても発現例はごく僅か。存在そのものが観測対象となり、《ACCP》によって定期的に監査・記録される。過去にこのスキルを保持した者の大半は、戦争か研究機関のどちらかに吸い上げられている。それだけの“異常”と“価値”を孕む存在。



クロエの“能力スキル”である超重力(スーパーグラビティ)は、特異型スキルに分類される。


正確には、特異型スキルと複合型スキルのハイブリッドって感じ?


正直、自分の能力についてをまだよくわかってないんだ。レザックのように例えば「金属」みたいな“他の物質に”体を変化させることはできない。ただ、自分の体の“内外”にある『重力』を自由に操作することはできる(色々と制約があってめんどくさいけど)


例えば、こんなふうに。



 バッ



レザックの放った液体金属の粒子は、クロエの体に触れることなく“通過”した。


簡単な話だ。


地面に隠れて戦うつもりなら、地面から出てこざるを得ない状況を作ってやればいい。超重力(スーパーグラビティ)の“下”で戦うっていうのは、人間が、水の中にいる鮫と戦うようなもんだ。


クロエは上空に飛び上がった。


範囲5m圏内を無重力状態にし、出力を高める。狙いは地面。フィールド全体とまではいかないが、グラビティボムを片っ端から喰らわしてやる。


ボッ


クロエに向かって飛来する無数の金属粒子――その全てを、彼女が圧縮して生成した“重力球ブラックポイント”ごと呑み込ませるように、地面へ叩きつけた。


この“ブラックポイント”は、空間内の重力因子を一点に収束・凝縮し、瞬間的に解放する波動装置のようなもの。単体では爆発もしなければ、視覚的な破壊も起こさない。ただしそれが“何か”に衝突した瞬間、事態は一変する。


重力場の極点に触れた物質や空間は、その局所に存在する“時空間そのもの”を歪められる。対象の質量や密度を直接変えるわけじゃない。むしろ、“それらを取り巻く空間の慣性構造”を撹乱し、あらゆる物体に対して異常な加速度を強制的に加える。


具体的に言えば――

重力は進行方向に対して“押し潰すように働き”、対象を本来よりも遥かに“重く”“鈍く”する。運動エネルギーは圧縮され、回避も跳躍も、そもそも意識的な動作さえも、タイムラグを伴って遅延する。


一時的に数倍以上の重力が作用する領域――それが、このブラックポイントの真価。


逃げ場も間合いも、ここにはない。


範囲制限? 今日は大盤振る舞いだよ。


地面から這い出してきたいなんて思える余裕すら、奪ってあげる。



 ボッボッボッ



地面に叩きつけたブラックポイントが引き金となり、圧縮された重力の波が地中を這うように拡がっていく。まるで地層そのものが悲鳴を上げているかのように地面はわずかに盛り上がり、急角度で歪み始めた。


重力の干渉範囲に触れた箇所は瞬間的に“引力の渦”へと変化する。表土は波打ち、金属のリングが拡散させた微粒子の一部が逆流のように吸い込まれ、周囲の構造を不規則に変形させていく。


これ以上やれば地面そのものが陥没しかねない。演習フロアとはいえ、さすがに床を抜くのは後で怒られる。だからこそ、警告がてら言ってやる。


「……あんまり粘ってると、本気で地盤ごと落ちるよ? 私は空を飛べるけど、地中潜りっぱなしのアンタは……無理でしょ?」


クロエは空中で姿勢を維持しながら視野の全体を意識の枠に固定する。フィールドの“内側”にいる限り、こちらの認識外には逃がさない。


でも――


「チッ……」


舌打ちが漏れた。


精度が甘い。タグの座標指定が甘いのか、あるいは内部圧縮の位相が微妙にズレてるのか……。確かに地形は削れてるけど、ピンポイントで“仕留める”には至っていない。範囲攻撃に頼りすぎたかもしれない。


ターゲットを完全に炙り出すには、もう一段階“深く”制御を絞る必要がある。


そんなことを考えていた瞬間――


一瞬、視界の端に微かな違和感。


チラ、と観客席に視線を滑らせた。油断したわけじゃない。視線を感じた。あの“刺さる”ような感覚に、勝手に首が反応しただけだ。


観客席はほとんど空だった。定例訓練の演習なんて、普通わざわざ直で観に来る人間なんていない。訓練棟各階のモニターからも映像は見られるし、演習成績は後日報告される。


いたのは――

クラスメイトが数人と、相手チーム《ビショップ》の何人か。

その中に、“妙に視線が重い奴”がいる気がして……。



…あれは?



観客席の北側、最前列――

視線の先に、柵にもたれかかる女子グループがいた。その中でひと際目立つのが、足を柵に引っ掛け、まるでこの演習が“自分の私物”ででもあるかのようにふんぞり返って座る金髪の女。


“ニニー・ホワイト”。


この学園でも指折りの“問題児”。私と同じ《エーリア系》の血を引いていて、妙に馴れ馴れしく絡んでくる鬱陶しいタイプ。試合に関係ないのは明白なはずなのに、なぜかあのガラの悪いオーラだけは異様に目立つ。


遠目でも、鋭く光る目つきと挑発的な態度は一発でわかる。

ああ、もう。演習じゃなかったら一発ぶちかましたいとこだけど――


(……今日はさすがに、失格は勘弁)


クロエは感情を飲み込んだ。


が、次の瞬間――

妙な“違和感”が、脳の奥を駆け抜けた。


……何かがおかしい。


レザックの術式は液体金属メタルの変性操作。それは“自身の肉体構成を金属化・流動化させる”というだけのもので、あくまで自己変質能力に過ぎない。物理的な物質の形態を変える力であって、外部の環境――とりわけ空間や重力場の性質そのものにまで干渉できるようなスキルではないはず。


なのに。


さっき、アイツは――

“宙に浮いた”。


しかも、自力で。


物質の分裂操作までは理解できる。細胞レベル、いや、脳幹中枢の神経塊ごと流動化して、分裂体同士を金属内部の微弱な電磁リンクで結び、遠隔制御を可能にする理屈もあり得る。


けれど――


私に向けて放ったあの《金属リング》が見せた動きは、明らかにおかしかった。

それは、空間に跳ねるような、不規則で、重力のベクトルを明らかに“無視した”挙動だった。


ただの回転体じゃない。放物線軌道を逸脱して、引力を受け流すように“滑る”。

地上から空中へ跳ね上がったあとも、その加速度と軌道に、どうしても物理法則が追いついていない。


仮にあれが完全な遠隔操作であったとしても――

“周囲の重力”に対抗できるような推進力や、浮遊能力は本来備わっていないはず。


そして、決定的な矛盾。


地中に完全に沈み込んでいたはずの本体が、なぜ“空中で行動可能だった”のか?


その一点だけが、説明できない。


つまり――


(……誰かが干渉してる?)


演習中のこの空間に、“もうひとつ”の術式が走っている可能性。

もしくは――別のスキルが、どこかから割り込んでいる可能性。



私を――

追ってきていた。


無数に散らばった1つ1つの金属の粒子が。


逃げ道も、死角もない。四方八方から、まるで生き物のように“狙いを持って”収束してくる。


「……どこ見てんだよ」


「――はっ!?」


背後から聞こえた「声」。

それは明らかに“生身の音”じゃなかった。電子的なノイズが混じった、ノドの奥を削るような人工音声。それを耳にした瞬間、首筋にゾッとする悪寒が走る。


(フィールド内には、私とレザックの二人だけ……なのに!?)


直感が叫ぶより早く、私は地面への攻撃制御を中断し、勢いよく後方を振り返った。


その視界の中央に――

モヤのように波打つ、半透明の金属膜が円を描いて膨張していた。


黒銀の薄膜が、まるで肺のように脈打ち、内圧を高めながら膨らんでいく。その全体が不安定に揺れながら、少しずつ「ヒトの形」へと輪郭を持ちはじめていた。


凝固と液化を繰り返す金属粒子が、フィールドの地表から浮上してきている。

一粒、一粒が意思を持つように滑らかに軌道を描き、正確に一点へと集約されていく。


その合流点――


「それ」は、ゆっくりと“立ち上がって”いた。


銀色のボディラインはまだ未完成で、所々に波のような乱れが走っている。関節部はぐにゃりと伸びたり縮んだりしていて、まるでスライムが“人型”を試行錯誤しているような姿。


(いつから…こんな……!?)


表面積は、すでに人間一人分を超えていた。

明らかに「レザック」だと直感したが、その直後、喉の奥に違和感がせり上がる。


(違う。いや、違う……これは、“さっき”と理屈が合わない)


地面から浮き上がってくるだけなら理解できる。だが、これはもう“地中から現れた”というより、空間に“出現した”という方が近い。

重力を無視したように、自在に空間を移動している。


(なぜ“浮いて”これる?レザックの能力に、空間干渉や重力無効なんて……)


思考が答えに辿り着くより早く、反応速度を求められる瞬間が来た。


ドクン、と心音が跳ねた直後――

形状変化の“途中”だった銀の肉体から、鋭く形成された「腕」が突き出された。


「ッ……!」


反射的に身体を反転し、腕でガードを試みたが――

間に合わない。


拳のように成形された金属の塊が、横から一閃、私の脇腹――肋骨下部に、重く深くめり込んだ。


「ぐっ……!!」


全身に響く衝撃。まるでバットでフルスイングされたかのような重量感。表面は滑らかに研がれた金属質で、質量と密度が段違い。

無重力制御中のクロエは衝撃を逃すことができず、逆に慣性で吹き飛ばされる。


地面への着地角度すら整えられないまま、無重力域を抜けた彼女の体は、重力に引かれるように――


「ッ、くっ……!」


コンクリートの床に背中から叩きつけられていた。


肺が潰れ、空気が一瞬抜ける。

耳鳴りの中、レザックの金属体が音もなくこちらを見下ろしていた――


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