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第12話 かつての記憶



やがて俺たちは、連合国の孤児院を出て機械都市エレクトロニアの市街地へ移された。

高層の雷導塔が空を引き裂くように屹立し、人工光が昼夜の区別を曖昧にする都市。

そこに建てられた集合住宅は、無機質な金属板が規則正しく組まれ、

風が通るたびに冷たい機械音を立てる――そんな場所だった。


迎えられた先は、“養子先”と呼ばれる家庭。

だがそこは、形式だけの親と形式だけの生活が用意された場所に過ぎなかった。

電子食卓ではプリセットされた栄養剤が供され、

温度制御された居室には温もりではなく、管理パラメータが流れていた。

笑顔も叱責もない日々の中で、俺の心はいつしか押し潰されそうになっていた。


そのとき出会った制度が、「雷導兵士候補生制度」だった。

正式名称は 《雷導連合国軍特務育成局》 --下層出身者や孤児を徴集し、

霊素兵装制御の専門兵士として育て上げる大規模な育成システム。

落下する雷霊素と同じ速度で加速する技術革新と、個人の適合指数を数値化して階級へと直結させる管理社会の象徴でもある。


リアナも、俺も、その一員として選ばれた。


入局した初日――

訓練場の光景を俺は今でも忘れない。

巨大なドームの下、地面は細かい機械砂で覆われ、

上空では人工雷雲が形成されて霊素の微細な閃光が絶えず走っていた。

鉄の匂い。機械の低い唸り。

教官の怒声は合成音声と混ざり合い、

そこはまるで“人間の入るべき場所ではない”とでも言いたげな空間だった。


その中で、俺は震えていた。

ひどく冷たい空気が胸を締めつける。

だが隣に立つリアナは違った。

鍛えられた真っ直ぐな視線で前を見据え、

恐怖を隠すでも逃げるでもなく、ただ静かに受け止めていた。

その姿は、まるで雷霊素そのもののように揺らがなかった。



そこからの日々は過酷を極めた。

朝は雷導神経の強制適合訓練。

昼は模擬戦での反応速度測定。

夜は低強度の霊素同調セッションによる精神耐久試験。

俺は幾度も床に倒れ、霊素供給器具に絡め取られ、

布団のように整形された寝具に潜り込んで震えながら涙をこらえた。


そんな俺を支えてくれたのは、やはりリアナだった。

彼女は俺を励まし、ときに叱り、ときに機械都市の人工星空の下で笑った。

気づけば、俺は彼女の背中を追うように必死で食らいついていた。


だが、差は明白だった。

リアナは訓練評価で常に上位を占め、

模擬戦では雷霊素収束の安定度が群を抜いて高く、

教官たちからの評価は日に日に上がっていった。

いわゆる上位候補――

“SERAPH適合者” として育成局の顔にもなりつつあった。


俺はというと、失敗の数が勝利の数を上回り、叱責を受けることのほうが多かった。

だが――俺は諦めなかった。

なぜなら、俺には彼女がいたからだ。

「ライならできる」

たった一言の信頼に縋り付くように、俺は前を向き続けた。



そして今――

そのリアナが、俺の教官となって立っている。


再会は隔離観察室だった。

霊素暴走の疑いで隔離された俺の前に現れた彼女は、かつて笑いながら肩を並べた少女の面影を残しつつも、冷たい観察者の目をしていた。

指示は事務的で、目線は評価者のそれだった。

かつて路地を駆け抜け、泥だらけで笑い合ったリアナの微笑みは、もはやどこにもなかった。


あの頃の希望は、

機械都市エレクトロニアの無機質な空気とともに消え去ったのか――


それでも俺は、今日も彼女の背中を追い続ける。

その場所がどこであれ――

雷の轟きが、俺たちの未来を告げるそのときまで。


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