第7章:仮面の従者と、影より来たる者
《カナリア・ノワール》を発つ直前――
アキラたちは、都市外れの連絡路で待ち伏せされていた。
鋼の仮面に深紅のマントをまとった存在。
その手には、細く長い槍のような武器。
「アキラ=紅影。ようやく見つけた」
低く冷たい声。その音に、ルゥナのボディが警告音を発する。
「警戒! 相手は“従者クラス”改造人間――コード名。かつてのあなたの訓練教官です」
「教官……?」
アキラの記憶に、かすかに焼け爛れた戦場と、背中を追い続けた“誰か”の姿がよぎる。
《レヴナ》は冷笑を浮かべた。
「記憶はまだ戻っていないようだな。……なら、思い出させてやる。お前が何を裏切り、誰を見殺しにしたかをな」
彼が槍を振るうと、空間が軋む。
アキラは紅影の力を展開し、即座に応戦する。
交錯する刃と炎の残光。
だが――突如、戦場の上空から強力なEMP(電磁妨害)が放たれた。
バチバチッ、とルゥナの視界が一時的に乱れる。
《レヴナ》の動きも止まった。
そして、廃ビルの屋上に、フードを被った人物が姿を現した。
「やれやれ、タイミングが良かったね。さすが僕」
その声はどこか軽く、冗談めいていた。
ルゥナが即座に分析を開始。
「不明な個体。生体反応とAI信号が混在……人間、ではない?」
フードの人物は、アキラたちに手を振ると、背後から浮遊する球体型ドローンを展開させた。
「おっと、自己紹介がまだだったね。コード名。僕は君たちの“支援者”……ということにしておいてくれると助かるよ」
《レヴナ》が低く唸る。
「お前は……旧情報管理局の……! なぜここに?」
「それを言うなら、なぜ君がまだ“仮面”を被ってるのかって話さ。記憶を奪われた者と、記憶を与えられすぎた者……どちらが不幸か、試してみようか?」
EMPの効果で戦闘は一時中断され、レヴナは撤退を選ぶ。
その背に、アキラは複雑な感情を抱きながら、ただ静かに拳を握った。
「《ノクト》……あんた、俺たちの味方なのか?」
アキラの問いに、ノクトはにやりと笑って言った。
「さあね。少なくとも今は、“敵じゃない”。でも、君がすべてを思い出したとき、僕をどう見るかは……君次第だ」
そう言い残すと、ノクトの姿は霧のように消えた。
残されたアキラとルゥナは、再び歩き出す。
知らぬ誰かに支えられ、誰かに狙われながらも――
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次回予告:
第8章:データの墓場へ
> ノクトから渡された暗号キーが示す先は、かつて“LXシリーズ”の実験体たちが消された地、《レムナント》。
ルゥナの“前任機”たちの記録、そして……アキラの“別の可能性”が、そこに眠る。