第1章:目覚めの檻(後半)第2章
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第1章:目覚めの檻(後半)
白い廊下を走る足音が、冷たい空間に吸い込まれていく。
追手の気配はない――だが、それが逆に恐ろしかった。
壁という壁に張り巡らされた監視カメラ。
アキラの動きを「監視」ではなく「誘導」しているようにも感じられる。
(……まるで、俺がどこへ行くのか、試されてるみたいだ)
目の前に現れた扉が、音もなく開く。
その先にあったのは、巨大なカプセルがずらりと並ぶ部屋。
中には、透明な液体に浮かぶ人影たち――その顔はどれも不自然なほど“眠って”いた。
「実験体……?」
アキラの足が止まる。
その瞬間、脳内に走る激痛――
「う……ッ……ぐあッ!」
視界が揺れ、何かが流れ込んでくる。
> 「記録開始。試作体001、神経系安定化に失敗。抑制剤、再投与。」
断片的な記憶。
白衣の人物。
背後で何かが笑っていた――人間ではない声で。
(俺は……殺されるはずだったのか? それとも――“何か”にされたのか?)
そのとき、突如部屋の奥から“それ”は現れた。
ガキン――という金属音と共に、スライド式の扉が開き、
中から現れたのは一人の少年。いや、**人のような“何か”**だった。
顔は幼いが、両目は左右で色が違っていた。
右目は人間のもの。左目は、真紅に光る電子の眼。
そして、彼の左手にはアキラと同じ、紅い刻印が浮かんでいた。
「……お前、もしかして……」
少年が口を開いた。
> 「お前も、実験体か。試作体001。
なら、おれは002……“失敗作”同士、仲良くできるかな?”」
刹那、少年の身体が跳ねるように加速した。
アキラは咄嗟に後ろへ跳ぶ。
その直後、床がえぐれるほどの一撃が降りていた。
(ッ!? なんだ、あの動き――)
本能が警告を発する。
そして、同時にアキラの右腕が灼けるように熱を帯びた。
脳内に浮かぶ、言葉にならない命令。
何かが解放される――いや、目覚める。
「……来いよ、002」
その一言と共に、アキラの右手に紅い光が凝縮されていく。
> ――紅影、初起動。能力発動:紅撃爪――
カッと爪状に伸びる赤い光刃が、アキラの右腕を包んだ。
002との、最初の戦いが始まる。
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第2章:試作体No.002
戦いは一瞬だった。
002の動きは確かに速かった。だが、それ以上に、アキラの“右腕”が反応していた。
無意識に振り払った一撃が、空間ごと斬り裂く。
風圧。
重力の歪み。
そして、002の身体が吹き飛ばされた。
「っ……く、は……! やるな、“紅影”……」
息を切らしながらも、少年は立ち上がる。
> 「その力、試されてるぞ。お前の意思じゃない。“あの人たち”のテストだ」
「“あの人たち”って……誰なんだ?」
少年は、うっすらと笑った。
> 「……黒い爪。お前もその一員にされるんだよ。“自分の意思”なんて、最初からなかったんだ」
アキラは、その言葉に返せなかった。
なぜなら、今の自分に“信じられる記憶”は、何ひとつなかったからだ。
だが、ひとつだけ分かることがある。
このままここにいては、自分は人でなくなる。
だから――出なければならない。
「……ここから出よう。お前も一緒に来るか?」
002はしばらく沈黙していたが、やがて目を伏せた。
> 「……おれは、出られない。出るには、“鍵”が必要なんだ」
「鍵?」
> 「……お前の中にあるよ、“紅影”の記憶の中に」
その瞬間、アキラの中で何かが脈打った。
自分の中に埋め込まれた、“何か”が目覚めようとしていた。
(記憶……それが、出口の鍵?)
逃げ場はない。
だが、戦えば開く扉があるなら――戦うしかない。
そうして、アキラは次の部屋へと進む。
まだ見ぬ“真実”の断片と、刻まれた運命の刻印を胸に。