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最終章:記録の継承者たち



 


施設の崩壊を前に、アキラたちは脱出を果たした。

瓦礫の山の向こうに朝日が昇り始める。


ルゥナの義手は破損し、アンドロイドとしての機能のいくつかも停止していたが、彼女は笑っていた。

「私は――記録できた。あなたが、最後に何を選んだのかを」


アキラは黙って頷いた。


ポケットの中に残された《ゼロ》のコアは、もう光を発していない。

だが、そこには確かに“何か”が宿っている気がした。

怒りでも、憎しみでもない。

きっと、それは――安堵。


 



 


数日後。

廃墟の街の外れに、小さなログハウスが建てられていた。


風で軋むドアを開け、ルゥナが入ってくる。


「また記憶の整理? いつまでやるの?」


「終わりはないよ。

記録するってことは、繰り返し見るってことだから」


アキラは、端末に向かいながら笑った。


 


《記録ノ光核》から読み取った最終データを元に、アキラは“未来のための記録”を編纂していた。

それは《黒い爪》の全貌、被害、そして人間と非人間の境界を越えた存在たちの記録――


どれもが、消えてしまえば“無かったこと”になる情報だ。


「お前、本当に“ヒーロー”になっちまったんだな」


ふいに声がした。


背後に立つ影。

漆黒のスーツに身を包んだ、あの謎の支援者クロウ


「まだ生きてたのか、クロウ」


「ああ。お前が生きてるなら、俺も生きてるってもんだ。

……そろそろ別の都市で《黒い爪》の残党が動き始めてる。

“ゼロ”が消えても、歪んだ理想は残る。

お前の記録、もっと広める必要があるな」


「戦いは、続くってわけか」


「ああ。だが――

もう、お前は一人じゃない。忘れるなよ、アキラ」


 



 


夜、ログハウスの外。

空には星が瞬いていた。


アキラはひとつ深く息を吐いて、静かに目を閉じた。

心に浮かぶのは、数多の“記憶”たち。


ルゥナの声。

クロウの笑い声。

ゼロの、最後の沈黙。


 


――記録は、誰かに継がれていく。

それが“人間”であっても、アンドロイドであっても、

名前すら持たなかった兵器であっても。


アキラは、自分の存在が「過去」でも「未来」でもなく、

“いま”に立つことを選んだのだと、ようやく理解した。


 


 


そして――彼は、再び名乗る。


 


「俺の名前は、《紅》だ。

記録の継承者、最初で最後の“拒絶された英雄”――

でも、それでいい。これが、俺の選んだ“生”だ」


 


星が、きらめく。

どこまでも、果てなく。

 


 



---


【完】


 






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