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第9章:偽りの街《ニル=シティ》



都市の空は常に曇っていた。

時間が止まったかのように、通りを行き交う人々の表情はどこか不自然で、同じ台詞を繰り返している者さえいた。


「おはようございます、アキラ様」

「今日も平和で、誇らしい日ですね」

「アキラ様……帰ってこられたのですね」


──奇妙だった。


アキラとルゥナが足を踏み入れた《ニル=シティ》は、黒い爪が管理していた実験都市の名残。だが、そこにいる人々は、まるで彼を“知っている”かのように接してくる。


「解析開始……都市全体のデータベースが、あなたの記憶パターンと一致しています。まるで……あなたを“中心に構成された”世界のよう」


ルゥナの声が静かに震える。


まるで、ここは──アキラの“脳内を外にコピーした”かのようだった。


**


都市中央の白塔に、かつての記憶が眠るという。

塔を目指し進む途中、アキラはひとりの少年と出会う。


「ねぇ、アキラ兄さん、忘れちゃったの? ぼく、あの日一緒に逃げたのに……」


それは、何十年も前に死んだはずの《記録》にある少年。


「……お前、生きてるはずが……ない」


「うん。だからぼく、“記録にされた”んだ。ここでは、死んだ人も、忘れられた人も、みんな生きてるフリをしてるよ」


少年が指さす。


振り返ると、そこに立っていたのは──“もう一人のアキラ”。


だが彼の顔には、仮面が貼り付いていた。

仮面の奥の目は空虚で、笑顔だけが浮かんでいる。


「僕は君さ。君が“なりたかったけど、なれなかった方の”アキラ」


「なにを……言ってる?」


「ここは、そういう街なんだ。君が過去に葬った願望、選ばなかった可能性……全部が、君の“記憶”から具現化している。君が壊れれば、ここも壊れる」


その瞬間、街全体が歪み始めた。


空の雲が逆回転し、建物が溶け、無数の“偽アキラ”たちがぞろぞろと現れる。


「ルゥナ、これは……!」


「精神汚染レベル上昇! この都市は、“あなたの記憶から派生した幻影群”によって構成されています! このままでは、あなた自身が都市に取り込まれる!」


そして白塔の上部が開き、現れたのは──


ルゥナ=零式。


だがその表情は冷たく、先程の《レムナント》での彼女とは違う。


「さあ、“アキラ=紅影”よ。選びなさい。

過去の罪を忘れて進むか、それとも……すべてを思い出し、壊れるか」


そして彼女の背後に浮かぶ、観測者ノクトの影。


「さあ、君が“どちらのアキラ”になるのか。僕はただ、それを見ていたいだけだ」


街が崩れ、アキラの記憶が引き裂かれようとしていた。


だがそのとき──ルゥナ(現ルゥナ)が叫ぶ。


「アキラ! あなたは“今を選べる人”! 記憶なんかに、負けないで!」


アキラは目を閉じ、叫んだ。


「……俺は、“俺”を選ぶ。誰かが決めた理想の姿じゃない。

過去も、記憶も、罪も、全部俺のものだ!」


その瞬間、街の空が砕けた。


塔が崩れ、偽アキラたちが霧散する。

黒銀のブレードが共鳴し、彼自身の《記憶武装》が、真の姿へと進化を遂げる。


《真紅ノ影刃クリムゾン・ファントム

──過去と現在を断ち切り、“自分”として立ち上がる力。


だが、塔の最深部には、まだ残されていた。

“ある少女の記録”──それは、アキラの全記憶の根幹に関わる、“紅影計画”の中核。


「……次は、そこに進まなきゃいけないんだな」



---


次回予告:


第10章:少女の記録プロジェクト・ルビィ


> かつてアキラが守れなかった少女。その存在が、彼の記憶と黒い爪の“目的”を結びつける。

全ての始まりにして、失われた鍵──《ルビィ》。

そして、新たなる敵が姿を現す。“紅影計画”を、再起動する者たちが――。




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