プロローグ《謎に沈む街》
雨が、降っていた。
ネオトキオ第三区。かつて栄えた高度技術都市は、今や巨大企業と地下組織が睨み合う影の箱庭となっていた。
その夜も変わらず、街の片隅で人が消えた。
何の痕跡も残さず、ただ――「消えた」。
平凡なサラリーマン、紅アキラ。
毎朝同じ時間に目覚め、同じ電車に乗り、同じメールに疲弊する。
そんな彼が“消えた”のは、定時退社の帰り道だった。
目覚めたとき、天井はなかった。
いや、正確には天井に“空”が描かれていた。
人口照明。偽物の風。金属の床。
そして、自分の腕に浮かぶ──
燃えるような紅い刻印。まるで、何かの契約のように。
「ようこそ、“紅影”。」
耳に直接届く声。
だが周囲に人の気配はない。
ただ、無数のカメラが彼を見下ろしていた。
なぜ自分が選ばれたのか。
なぜ自分の記憶が断片化しているのか。
そして、誰が“彼”をここに連れてきたのか。
逃げ道は封鎖されている。
だが、真実だけは――閉じ込められなかった。
その日から、アキラは自らの正体と、「黒い爪」の正体を追うことになる。
そして気づくのだ。
あの刻印は、単なる“兵器”の証ではなかった。
それは、真実に辿り着くための“鍵”だった。