【番外編】陛下は最高の●●●をご所望です(11)side 陛下
「陛下! エッカート公爵令嬢、ようこそマルデリア湖へ!」
山小屋の従業員が、大歓迎で迎えてくれた。
今回、山小屋はミラとわたしでの貸し切りとなる。
「テラス席にランチをご用意します。荷解きなどはスタッフに任せ、どうぞこちらへ」
焼き立てのパンの匂いに加え、なんとも食欲をそそるいい香りが漂っていた。
ミラと顔を見合わせ、思わず笑顔になる。
これは料理に期待ができそうだ。
ミラの手を取り、部屋には向かわず、山小屋の南側に広がる庭へと向かう。
周りを森で囲まれているが、庭は綺麗に整備されている。そしてそこには一面に、サルビアが咲いていた。
「陛下、すごいですね! 紫、青、白、赤、オレンジ……カラフルなサルビアの花絨毯ですね」
「ええ、これは実に見事です。食事の後、この庭から散策ですね」
「はい! ぜひそうしましょう」
笑顔のミラが眩しい……!
「陛下、エッカート公爵令嬢、リクエストのお料理をご用意いたしました! 島の菜園で栽培している野菜を使ったバーニャーカウダです」
女性スタッフの声がけに理解する。
いい香りの一つ目の正体は、これだった。
カブ、ミニトマト、キャロット、ズッキーニ、パプリカなどの野菜を、アツアツのガーリックとアンチョビの濃厚ソースに絡めていただく、バーニャーカウダ。
新鮮な野菜を楽しめる一品だ。
「ミラ、いただきましょう!」
「はい、陛下! もうお腹がペコペコです」
早速、パプリカにソースをつけ、口に運ぶと、クリーミーな塩気の効いたソースに手が止まらなくなる。
「陛下、ミニトマトにもよく合います!」
「パプリカにもピッタリですよ、ミラ」
夢中で野菜を食べていると、焼き立てのパンも登場する。
その瞬間、ミラとわたしの目が合う。
「陛下、もしかして」
「ええ、同じことを考えていたと思います」
そこからは申し合わせたように、焼き立てパンにバーニャカウダのソースをつけ、頬張る。
「美味しいです!」
「このソースはパンにも合いますね」
そこへ「湖で獲れた白身魚のムニエル、レモンソース添えです」と魚料理が登場。
バーニャーカウダのソースが濃厚だったので、このムニエルのレモンソースはさっぱりしていて、ペロリといただくことができる。
ミラもお上品にムニエルを口に運んでいるが、美味しいのだろう。わたしとそう変わらない速さで食べ終えている。
そこで先程の女性スタッフがお皿を手に再び登場。
「鶏むね肉とアスパラガスのさっぱり塩炒めです」
続いての肉料理もさっぱりしているので、これまた食べる手を止めることなく、綺麗に平らげてしまう。
「ミラ、気に入りましたか?」
「はい。……夢中でいただいていました」
「それはわたしも同じです。温かい料理はその状態で食べるのが一番ですから」
そこでミラが嬉しそうに微笑むので、その理由を尋ねると……。
「陛下と料理の味や好みが一緒で、嬉しくなりました。美味しいと感じた気持ちを、陛下と共有できる。とても……幸せです」
ミラのあまりにも可愛らしい言葉に、悶絶しそうになる。
だがなんとか爽やかな笑顔で誤魔化すことができた。
本当にミラは。
不意打ちでわたしのハートを鷲掴みにしてしまう。
「お口直しのレモンシャーベットです。この後、ピーチタルトをお持ちします」
さっぱりシャーベットの後に登場したピーチタルトは、これまで見たことのないタルトだ。
とても厚みもあり、タルト生地にはたっぷりの生クリーム、その上に大きくスライスされたピーチがのせられていた。さらにサイコロ状にカットされたピーチも散らされている。
ピーチ好きにはたまらないタルトだろうと思ったら、ミラの瞳がキラキラと輝いている。
「ミラ、もしやピーチが好きなのですか?」
「はい。大好きです。このタルトはワンピースで、丸ごと一個分のピーチを楽しめそうで……夢のようです……!」
「確かにそうですね。気に入ったら、おかわりをしていいですよ」
これには「そんな」と公爵令嬢らしく遠慮する。
そんなところを含め、ミラは本当に愛らしい。
「ミラ」
「はい」
頬についている生クリームをナプキンで拭うと、ミラは「まあ、ありがとうございます。そして失礼しました」と恥じらう。
大好物のピーチタルトを食べ、子供のように頬に生クリームをつけていたミラ。
宰相が喜ぶ才女になったかと思えば、妖艶なマダムになり、そして今は幼い少女のような表情を見せるのだ。
その魅力はあまりにも多彩。
わたしは違うミラを見る度に、恋している気がする。そしてどんなミラであろうと、彼女の魅力の根底にあるのは、優しさだ。
優しさ――それは気遣いと思いやり。
「陛下、ご馳走様でした。とても素晴らしいランチの時間を持てました」
「ええ、わたしも満足です。王都からここまで来た甲斐があります」
この湖を薦めてくれた自然環境大臣に、御礼を送らないと。
「ゆっくりお庭を散歩してお腹を落ち着かせたら、陛下は休息されますか?」
ミラのこの言葉には、心臓がトクンと高鳴る。
「休息……つまり昼寝、ですか?」
「はい。もし陛下がお疲れでしたら、その……私の……膝枕を使ってくださいませ」
「……!」
ダメだ。
もう理性が崩壊する。
「陛下、しっかりしてください」
ルーカスの声に救われることになった。






















































