【番外編】陛下は最高の●●●をご所望です(6)side 陛下
「陛下」
「分かっている、ルーカス。今日は大丈夫だ。いろいろな意味で。まず重要案件の稟議には、全てサインを終えている。次にあの絵の通りなんだ、氷の洞窟は。見ただろう? 恐竜の糞のような展示もないし、黄金のゾウの像もない。美しい氷の世界。まさに王道で素敵なデートになる」
「ええ。ロマンティックの対局にあるような国立自然史博物館に飾られている、氷の洞窟の絵を見ましたよ。そしてホルマリン漬けの深海魚の前で微笑むお二人は、大変幸せそうでした」
ルーカスにチクチク攻撃を受けながらも、今度こそ失敗はないはずだと、わたしは思っている。
今日は領地視察を兼ねて訪れた王都の郊外で、ミラの到着を待っていた。ここから馬車で30分程のところに、氷の洞窟がある。
私は前日から現地入りして、領地視察を行い、午前中もちゃんと執務をこなした。その上で午後、氷の洞窟へ行くことになっていたのだ。
滞在していた宿のロビーへと向かい、そのままエントランスに出ると、ジャストタイミングでミラを乗せた馬車が到着した。
「ミラ、お待ちしていました。道中に問題はありませんでしたか?」
「陛下、お待たせしました。何の問題もなく、到着できましたわ」
微笑むミラを一度ロビーに案内し、そこで寛いでもらう。飲み物を出してもらい、一息ついてから、レストランへ案内した。
個室へ通され、席に着くと、あらかじめ頼んでいたコース料理がスタートする。
「疲れていませんか? 氷の洞窟はここから30分ほどです。それに今日はここでミラも一泊できるので、昼寝をされてからの出発でも構いませんよ」
「ふふ。陛下は壊れもののように私を扱ってくださいますが、馬車の中ではぐっすり寝ていました。わりとどこでも眠れてしまうんです。よってランチを終えてすぐの出発でも、問題ありません」
そこでミラは、その聡明さをたたえた青紫色の瞳で私を見る。
「昨日、現地入りされ、視察に執務と追われていたのではないですか? 陛下こそ、休息が必要では?」
「ミラ……!」
さりげない気遣い。それが出来て当然とミラは思っているようだが……。
ミラは公爵令嬢なのだ。
その立場は王族で言えば、王女と変わらない。
誰かに何かされ、気遣われて当然の立場なのだ。それなのにこうも自然とわたしを気遣えるのは……。
愛おしいという気持ちが高まる。
今すぐミラを抱きしめたい……!
そこで思いついてしまう。
ささやかではあるが、極上の幸せを。
「ミラにそう言われると、ランチの後、20分程休むと元気になれそうです」
「陛下、それが正解です。昼寝は深い眠りに入るまで寝てしまうと、逆に疲労感を覚えることになります。20分。ぜひ、おやすみください」
「ええ、ミラ。君の言う通りだと思います。よってベッドで休むつもりはありません。ソファで横になるつもりです」
わたしがそう言うとミラは「短い昼寝にはソファがピッタリです。ベッドは深い長時間の眠りに向いていますから」と応じる。
本当にミラは何でも知っているな。
でもこの後に言うことには「えっ」と驚くだろう。
「ミラ」
「はい」
「わたしの昼寝に付き合っていただけますか?」
「えっ……?」
「膝枕をしていただきたいのです」
これにはミラは「あっ」と頰を淡く染める。
「それで陛下が休まるのでしたら……」
恥じらい、瞳を静かに伏せるその淑やかさ。
完全に心を持っていかれ、今すぐ席を立ち、ミラを抱きしめたい衝動に耐えることになる。
「ミラの膝枕で心が癒されると思います。わたしの昼寝に、お付き合いいただけますか?」
「はい」
まだ膝枕されていないのに。
既に気持ちは昇天しそうだ。
もはやその後のランチで食べたものは、覚えていられない。何を食べても美味しく感じるし、早く食べ終え、膝枕をしてもらいたくてたまらなくなっている。
子犬が我慢がならないと甘える時に、似ているかもしれない。まさに今の自分は、ミラに甘えたくて悶絶している。






















































