【番外編】陛下は最高の●●●をご所望です(2)side 陛下
事の発端は、大臣達との恒例のランチミーティングでの席のことだった。
このランチミーティングは、二週間に一回行うもので、参加は任意。
国政について話す場ではない。
自由な発言の場であり、ある大臣は自身の子供の成長について話し、また別の大臣は自身の好きな作家の新作について話す。
ようは即位したばかりの私が、大臣達との関係性を深めるために設けた社交の場だった。
そしてこの日の話題は、わたしが先日行った、トラブルあり、だが大変にムード満点で幕を下ろしたプロポーズの件で持ち切りだった。
「さすが陛下ですな。禍を転じて福と為すとは、まさに今回のプロポーズでは!?」
「月と月虹と流星群。その全てを味方につけられた陛下は、実に強運の持ち主だ」
「私はエッカート公爵令嬢が月虹についてご存知なことに、驚きました。恥ずかしながら私、今のお話で月虹について知りましたわ。天文学についてはもっと勉強しないとダメね……」
そこでおもむろに口を開くのは、教育科学大臣だ。
「月虹は実に特殊な気候条件が揃わないと、見ることが叶いません。そして我が国ではそう簡単にその条件が整うわけではないのです。まずは明るい月。できればその位置は低い場所に。空気中に水分が含まれているということで、滝のそばなどは見やすいと考えられています。さらに空は晴れている必要があるのです。その上で、月光が空気中の水分に適切な角度で当たる必要もある」
席から立ち、講義をするように、教育科学大臣は熱く語る。
「陛下が海辺を選んだこと。日没後の月がまだ低い位置にある段階で、その場にいたこと。突然の雨も、空気中に適度な水分をもたらすので、月虹の発生条件にプラスに働きました。さらに突発的な雨は、あっという間に終わり、雲も流れて行く。そこで輝く月。絶妙な角度で水滴に当たる月光。訪れた奇跡の瞬間。まさに陛下の強運がもたらした、月虹なのではないでしょうか!」
この解説に居並ぶ大臣達が「「「おおおおおっ!」」」と拍手をする。
「陛下の強運に加え、エッカート公爵令嬢が聡明であり、月虹について言及できた点も、見逃せないのではないでしょうか。月虹の登場を予見し、最高のタイミングで陛下がプロポーズできるようにした。エッカート公爵令嬢を含めた奇跡と、わたしは思いますが」
スタンレー宰相は、すっかりミラのファンになっている。
最初はミラにテストをするなど言い出した宰相だった。だがミラの賢妃の資質にいち早く気が付き、今ではミラと政策を語る時こそ、一番生き生きしている気がする。
「しかし最初からこれだけの奇跡でスタートすると、陛下も大変ですな」
国土交通大臣の言葉に、わたしは「うん?」と片眉を上げることになる。
「聞けば陛下とエッカート公爵令嬢は、まだ正式なデートもされていない。プロポーズが奇跡の月虹だったとなると、その後のデートもそれを超える、もしくは同等と思われるような、素晴らしいものにしないと……」
そこで国土交通大臣が真剣な顔になる。
まるで重要施策を提案する時のような表情に、わたしの背筋もつい伸びてしまう。
「もし期待外れのデートとなれば、きっとエッカート公爵令嬢も、ガッカリしてしまうかもしれませんな。お優しい方なので、決して口には出さないでしょうが」
これには「なに!?」と思わず声が漏れてしまう。
「そんな! エッカート公爵令嬢をガッカリさせてしまうなんて! 何よりそれでは、アルセス王国とはその程度かと、思われるリスクもありますわ!」
「それは困りますね! 陛下が最高のデートをエッカート公爵令嬢に提供できないことは、国の威信に関わるのでは!?」
「そうですね。ここは陛下に頑張っていただかないと。帝国出身であるエッカート公爵令嬢が、母国にいる両親に報告したくなるような、これぞというデートをぜひ実現してください!」
「そうです!」「その通りだ!」
「陛下、頑張ってください!」
この国の重鎮達が、一斉にわたしへ熱い視線を向けた。
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