62話:気になってしまった。
ルーカスは従者を連れ、エントランスホールから出て行った。
何かがある──。
そこで思わずアンリエッタに「ルーカスの後をつけたいの」と言うと「ええっ!?」と驚いたものの。「分かりました」と応じてくれる。
こうして静かに一度閉じた扉を開き、廊下の様子を見ると……。
ルーカスと従者は、既に階段のところまで移動している。
アンリエッタと顔を見合わせ、部屋から出ると。
ルーカスは従者を連れ、階段を下りて行く。
その姿が見えなくなってから、アンリエッタが私に尋ねる。
「インペリアルスイートルームは最上階ではないのですか?」
「最上階よ。私達の部屋の真上のはず。どうして下の階へ行ったのかしら……」
「従者とお茶でもするのですかね」
「まさか」
イグリスの部屋には尋ねないようにと言われた。
それはお互い寛ぐため。
ルーカスも気を遣い、部屋には行かないことにしたの……?
そもそもイグリスと私は、別々の部屋に泊まる必要があった。その一方でアダムス伯爵夫妻としては、部屋が別々なのはおかしい。だからこそスイートルームをとっていた。だが実際泊まる際は、別々の部屋で休めるように、もう一部屋、ルーカスがとっていたのだ。
もしやその部屋に向かったのかしら?
でもインペリアルスイートルームであれば、ルーカスや護衛の騎士のベッドルームはある。何せワンフロアの半分を占めている部屋なのだから。
そう考えると、なぜ下のフロアへ向かったのか……。謎だった。
「ひとまず何か気になるの。陛下の部屋の様子を見に行ってもいいかしら?」
「勿論です。行ってみましょう」
心臓がなんだかドキドキしている。
どうしてこんなに気になってしまうのか。
その理由は分からない。
でも何だか直感で確認せずにはいられなかった。
階段は廊下の左右の突き当りにそれぞれあった。
ルーカスが降りて行った階段は避け、逆の階段へ向かい、上がっていくと……。
いきなり上がり切った先が、壁になっていると思ったら「ミラ様、扉です。鍵穴がここに」とアンリエッタが教えてくれる。
鍵。
ナイトティーを一緒に飲むため、イグリスの部屋に行くことになっていた。そして部屋の鍵は二つあるので、その一つを預かっていたことを思い出す。
ドレスのポケットから鍵を取り出し、鍵穴へと差し込む。
「ルーカス様が降りた階段を上がると、最上階のレストランへ行けるのでしょうね。そしてこちらの階段は、インペリアルスイートルーム専用。上のフロアへ行けるのは、鍵を持っている人のみ、ということなんですね。プライバシーとセキュリティが、万全のホテルですね」
アンリエッタの言葉に「なるほど」と思っている間にも鍵が開き、扉が開く。
中に入るとそこには廊下……というか、ちょっとしたスペースとソファがあった。そして「ミラ様」と護衛の騎士に声を掛けられる。
「陛下に会いに来ました」
「! ルーカス様がお部屋を尋ねませんでしたか?」
「ルーカス? 来ていないわ」
これには二人の護衛の騎士は顔を見合わせ「困った」という顔になる。
「陛下は今、その……立て込んでいるので、お会いになることはできません」
「立て込んでいる? あ、入浴中なのね」
私の言葉に護衛の騎士は「「そうです!」」と首を何度も振る。
「そうですか。では部屋の中で待たせていただくわ」
これには護衛の騎士は「「しまった!」」という顔になるが、私は気にせず入口の扉に鍵を差し込む。
「ミラ様、陛下は入浴中ですので、ご自身のお部屋でお待ちいただいた方がよいかと……」
最後は消え入るような声で護衛の騎士が言うが、私はニッコリ笑顔で答える。
「陛下のお側に少しでもいたいのです。それは……いけないことかしら?」
少し悲しそうな顔をすると、護衛の騎士二人はハッと息を呑む。
私は婚約者なのだ。護衛の騎士が止め立てすることはできない。
二人は苦悩の表情で「「いけないことではありません……」」と唱和する。だが諦めないで。
「ルーカス様が、誰も部屋に通さないようにと言っていたのです。そこにはミラ様が含まれている可能性が……」
「陛下が私を部屋から閉め出すの? そんなことするかしら?」
うるうるの瞳で騎士を交互に見ると、二人は黙り込む。
騎士はなんとか私を止めようと言葉を紡ぐが「カチャッ」と鍵は開く。
「ミラ様」「失礼ですよ。ミラ様は陛下の婚約者です!」
遂にアンリエッタがピシャリと言うと、護衛の騎士は完全に沈黙。
ゆっくりとアンリエッタが扉を開け、私は滑り込むようにして中へ入る。
静かに扉をアンリエッタが閉じた時。
女性の嬌声が聞こえた。
こんな時。
回れ右して帰るのが一番だと思うのだ。
でも「信じれない」という気持ちと「本当にそうなのか」という確認したい思いで、歩き出していた。
「ミラ様」とアンリエッタが言うのを無視して、エントランスホールを抜け、その先にある扉の前に行くと。
先程以上に女性の嬌声が聞こえる。一人ではない。何人かの声がする。
もう心臓が爆発しそうだった。
「開けない方がいい」と冷静な私が言っている。
「開けて確認した方がいい!」ともう一人の興奮した私が言っている。
その結果。
理性より感情が勝り、扉を開いていた。
「信じられない……」
ふかふかの絨毯に散乱するドレスやクッション。
下着姿の三人の女性。
ブロンド、茶髪、赤毛。
三人とも胸が大きく、身に着けている下着も実に際どいもの。
そしてイグリスは剣を抜いて、驚愕の表情でこちらを振り返った。






















































