60話:アドバイス【side 陛下】
カジノ・ペイトンの支配人に、ここが違法カジノであると認めさせ、言質をとる。それを皇太子であるシリウスに聞かせる必要があった。
そのためにミラがわたしにしてくれたアドバイスがある。
その前に。
そもそもこの作戦。
シリウスを連れ、カジノ・ペイトンへ乗り込み、私達を支配人にハイローラーであると思わせる必要があった。巨額のチップでベットし、勝ちはするが負けもする。しかも負けの割合が多い。そう分かった瞬間、支配人は動く。
さらに手持ちの金は使い切ったがまだ遊びたい、金を工面して欲しいとなれば――支配人は直接客と会い、本当にハイローラーであるかをジャッジする。そして間違いないと確信すると、金を工面すると快諾するはずだ。
そこに登場するのが、オレガン公爵もたんまり持っていた借用書。
借用書に記載された利率を見れば、一目でおかしいと分かる。違法カジノでもなければ設定されない利率なのだから。そこを突破口に、「ここは違法カジノだろう!」と詰め寄るという作戦だった。
「シリウス皇太子扮するリチャードには、そのままの彼で、支配人に詰め寄っていただきます。オレガン公爵の紹介でやって来たのです。当然、違法カジノであると知っている……そう支配人のリバーは思うはずです。まさか自分に、違法カジノであるのかと問うとは思わないでしょう」
それはミラの言う通りだと思う。
わたしは素直に頷く。
「そして問われた時。それは相手が上客であろうと、『ええ、ここは違法カジノです』とは認めないはずです。アルセス王国と同じで、帝国でも証言が重視されます。ゆえに簡単には、違法カジノであると認める発言をしないでしょう」
「認める発言をしない相手に詰め寄ったところで、それは堅く口を閉ざした貝を、さらに警戒させる。そしてそれまで以上に強く閉ざさせることになるのでは?」
「それで構いません。口を閉ざし、でもリチャードがしつこく尋ねる。でもリバーはそれをのらりくらりかわす。リチャードは……シリウス皇太子はそういう態度が大嫌いです。そこでことさら強く問いただすでしょう。声を少し荒げ、大声で。リバーの部屋には間違いなく用心棒がいるはず。彼らはその声に反応し、動くことでしょう。動いたらチャンスです。こちらの護衛につく皇太子の近衛騎士にも、動いていただきます」
これには驚き、思わずミラに聞いていた。
「ミラ、それではまさに一触即発です。リバーは絶対に認める発言をせず、わたし達が部屋から追い出されるのでは!?」
「そうはなりません。陛下が動いてくださるので」
「?」
そこでミラは実に魅力的に微笑む。
「シリウス皇太子が鞭なら、陛下は飴になります。一触即発の状況を、まさに仲介するかのように『双方、落ち着いてください』と声をかけるのです。そしてリバーを安心させるような声音で説得します」
ミラは私の声音を真似するようにして、話を続けた。
「ここが違法カジノとは思っていませんでした。よってこの利率ではおかしいと、リチャードは声を荒げています。でも違法カジノなら、この利率でも納得です。億単位でお金を貸し付けるなら、この利率にもなりますよね……とリバーを擁護するような言葉を口にします。その上で優しく、『ここは違法カジノだからこの利率なんですよね?』と畳み掛ければ……」
「このカジノは、違法カジノです……そうリバーが答えるということですね」
「その通りです。カジノの支配人といえど、彼自身はひ弱なはず。用心棒がいるからこそ、強気に出られるだけ。生まれついての皇太子であるリチャードの、強いカリスマ性と物怖じしない雰囲気には、呑まれてしまう。そこで射し込む一筋の優しい光。それが殿下です。しかも自身に理解を示し、この場が収まる方法を示してくれる。このような状況では、リバーは陛下に心を許してしまいます。違法カジノであると認める発言をするはずです」
間違いない。
ミラはまたも心理学を応用していると思う。そして確かにこの手法であれば、リバーも違法カジノであると認めそうだ。
そしてその通りの結果になった。
「本当にミラ様は、ただの公爵令嬢なのでしょうか? まるで諜報員のようです」
わたしの隣に座るルーカスがそう言うと、対面の席でミラは「まさか。ただの公爵令嬢に過ぎません」とたおやかに笑う。
その様子に胸が胸が高鳴る。
裕福な伯爵夫人に扮したミラは、黒のシンプルなイブニングドレスだが、とにかく宝飾品を派手にしていた。宝飾品が映え、そちらへ目が向かいやすいと、敢えてドレスを簡素にしたのだ。
つまりカジノ・ペイトンに、ハイローラーだと思わせるための演出の一つだったが……それはまさに目論み通りだったと思う。が!
シンプルな分、体の曲線が露わになり、わたしとしては落ち着かない。
シリウスでさえ一瞬、目を見張った。ドアマンの男二人は、見てないフリをして、しっかりミラのことを眺めまわしていた。黒服の男もしっかりミラに釘付けになり、リバーも食い入るようにミラを見ていたのだ。
こういうタイプのドレスは、わたしと二人きりの時に着て欲しいと、頼もうかと思っていたら……。
宿泊予定のホテルに着いた。






















































