57話:囲め、囲め!【俯瞰視点】
カジノ・ペイトンを所有し、経営のトップに君臨するのはペーシェント男爵だ。
現場の責任者、すなわち支配人はリバーというブルネットの髪をオールバックにして、鼻の下に髭を生やしている小太りの男だ。
黒服の男から「ハイローラーと思われる新規客が、オレガン公爵の紹介で入店しました。リード辺境伯の遠縁のリチャード、アルセス王国で投資家をされているアダムス伯爵夫妻です。この三人、身に着けている宝飾品は一級品。店のサービスの百万チップはあっさり一度で使い切り、その後は一千万をベットしています」と報告された時は。
――オレガン公爵め、ようやく金づるを連れて来たか。借金を少しでも減らしたいなら、上客を連れて来いと言ったが……。もしハイローラーなら、囲い込む必要があるな。
リバー氏はそう思っていた。
「よし。見張れ」
「了解です」
こうしてオレガン公爵が連れてきた、ハイローラー候補を黒服に見張らせると……。
「勝敗は微妙ですね。少し下げたチップでベットした時に勝ち、その勝ちに乗じ、倍賭けをして負けています。トータルで我々の利益が大きいです」
その報告を聞いたリバー氏は、黒服の男にこう命じる。
「囲め、囲め! 抱き込むんだ。そいつら間違いなくハイローラーだ! ラウンジはダイヤモンドを解放しろ。専用のテーブルを準備し、ディーラーを張り付けるんだ。それとホテルはどこに宿泊しているか聞き、部屋をアップグレードしろ。あとは帰りの土産だ。……辺境伯の遠縁は女を連れていないのだろう? 部屋に送っておけ」
「かしこまりました!」
カジノとしては、ハイローラーは囲っておきたい上客ではある。しかし賭けにおいて勝ちばかりでは困るのだ。勿論、勝ってくれることで盛り上がり、周囲の客へいい影響を与えてくれる。「俺もやってみよう」「勝てるかもしれない」と希望を与えるのだ。だが勝ちばかりでは、カジノ側の利益が出ない。できれば負けて欲しい。適度に勝つも、トータルでは負けが多いハイローラーほど、カジノにとっては嬉しい。
そしてリチャードとアダムス伯爵夫妻は、まさに上客のハイローラーであることが分かった。
なぜなら。
「支配人。リチャードは2億G、アダムス伯爵夫妻は3億Gを負けています。さすがに手持ちの金を使い切ったので、金を借りたいと打診がありましたが」
「喜んで貸そうではないか。どうせ負けて戻ってくる。しかも貸せば恩を売れ、リピート客になるだろう。まずはこの部屋に通せ。最高級のシャンパンを用意しろ」
「アダムス伯爵夫妻は酒は飲まないようです。酔うと負けるからと」
これを聞いたリバー氏は、鼻で笑う。
「はっ! 酔っていなくて3億G負けている。酔ったらどれだけ負けるんだ!? この場で飲ませたいところだが、無理強いはできん。それで夫妻は何を飲んでいる?」
「ザクロジュースを飲まれています」
「なんだ、ガキの飲み物じゃないか。まあ、いい。シャンパンのボトルとザクロジュース、それにフルーツとチョコレートの盛り合わせも用意しろ」
黒服は「かしこまりました」と部屋を出て行く。
リバー氏はほくそ笑みながら、極上の葉巻も用意する。
ハイローラーに人気の嗜好品、それは葉巻、高級ウィスキー、シャンパンだからだ。
そこでノックが聞こえ、黒服がオレガン公爵、リチャード、そしてアダムス伯爵夫妻を連れてきた。さらにぞろぞろと連れているのは、ボディガードだという騎士だ。
――騎士をつれているなんて、間違いなく高位貴族だ。アダムス伯爵夫妻は、アルセス王国の人間。調べないと分からないが、伯爵位の中では1、2を争うのではないか。
リバー氏はそこでアダムス伯爵夫人に目が吸い寄せられる。
着ているのはシンプルな黒のイブニングドレスで、宝飾品はゴージャスだが、彼女自身も実に魅力的な体をしている。ドレスが浮き彫りにする体のライン。胸のふくらみ、腰のくびれ。口元のつけぼくろも大変色っぽい。
リバー氏は生唾をごくりと呑む。
「支配人、こちらのソファにご案内しても?」
アダムス伯爵夫人に見惚れていたリバー氏に、黒服の男が尋ねる。「そうだ。ご案内しろ!」彼は答えた。
こうして黒革張りのソファに四人が座り、その対面のソファに、リバー氏が腰を下ろす。
「ようこそ当カジノへいらっしゃいました。まずは今日という出会いを祝しましょう」
リバー氏がそう言っている間に、二人の黒服により、グラスにシャンパンとザクロジュースがそれぞれ満たされる。
リバー氏の音頭で乾杯がなされた。
しばらくは雑談が続き、やがて本題に入る。
つまりは金の話だ。
「それで、おいくらほどご入用でしょうか。我々としては可能な限りお力になりたいと思っています」とリバー氏。
「そうだな。わたしは5億Gほどあると、楽しめるのだが」とリチャード。
「わたし達は、夫婦で7億Gほど用立てていただけると、嬉しいのですが」とアダムス伯爵。
それを聞いたリバー氏は、金庫に置かれている100億Gを思い浮かべ、ニコリと笑う。
「勿論、ご用意いたします」
そこでリバー氏が目配せをすると、黒服の男が動いた。






















































