53話:黒幕は【side 陛下】
カジノ・ペイトンからオレガン公爵に舞い込んだ、願ったり叶ったりの話。
それは何なのか。
「全ての借金を帳消しにする。その代わりでわたしの娘とアルセス国王を姦通させろ――というものでした」
「……なんなんだ、それは? どうしてわたしが関係してくる? ……いや、そのカジノ・ペイトンは皇族も関わっているのか。わたしを意のままに操ることを、帝国が目論んでいるということか?」
「陛下、それについては私が思い当たることがあります。これはエルガー帝国の皇族しか知らないことです。……ここにいる者は口が堅い者ばかりでしょうか?」
ミラの問い掛けには、自信を持って答えることができる。
「ここにいるのは信頼できる者ばかりだ。……アンリエッタ、君も信頼していいのだろう?」
「はい。私が仕えるのはミラ様であり、ミラ様の伴侶たるアルセス国王にも忠誠を誓っております」
そこでミラに目配せすると、彼女は頷き、口を開く。
「実はエルガー帝国の皇族は、先帝のおかげで多大な借金を抱えていたのです」
それは先帝が沢山の非嫡子をもうけ、もみ消しのために膨大な借金を抱えた件のことだった。第二皇子の婚約者であるミラは、この件を知っていたようだ。だがさすがにアルセス王国にまで借金をしていたことは……知らない。既にお金の回収は終わっているので、ミラに話してはいなかったが……というか、本当に王妃になってくれるなら、話そうと思っていた件だった。
うん……先に話してしまい、王妃にならざるを得ない状況にすることもできたのか?
いや、そんな非道はダメだ。わたしはミラに対し、心から誠実でありたいと願っているのだから!
「……おそらくエルガー帝国は、自国が非嫡子に散々苦しめられたことで、学習したのではないでしょうか。オレガン公爵の借金を帳消しにする。代わりにアンリエッタと陛下との間に、非嫡子をもうけさせたいと考えたのでは? 私の友人になり、侍女となれば、宮殿に部屋を与えられます。王宮にも行き来しやすくなりますよね。そして一度関係を持ってしまえば、それを盾に陛下を脅すことも可能になります。そうやって何度か関係を持つうちに、妊娠してくれればと考えたのでは」
ミラの推理には、なるほどだった。そしてそれが正解であるかどうか、オレガン公爵に確認すると……。
「その通りです、陛下」
これを聞いたわたしは思わず嘆いてしまう。
「恩を忘れ、仇で返すつもりなのか!? 非嫡出子をちらつかせ、金を吸い上げ、強請り続けるなんて」
「陛下、そこはもう少し話を聞いてからがよさそうです」とミラは言うと、オレガン公爵に「カジノ・ペイトンに皇族が絡んでいるということですが、それは誰なのですか?」と尋ねた。
ミラが問うと、オレガン公爵は再び身の安全を求める。
不敬罪=死罪に問われるような態度をとっておきながら、身の安全ばかり気にするとは。皇族の暗殺者に害される前に、この国の法に照らし合わせた結果、万死に値するとは考えていないのだろうか。
そう思うものの、今は話を進めたいので、「ああ、分かった。特別にお前の牢獄には警備兵をつける」と応じると「精鋭の兵にしてください!」と言うので若干ウンザリしながら「お前がどれだけわたしに情報を与えるかで、見張りにつける兵のランクを考えよう」と告げると……。
「分かりました。ではお話いたします。カジノ・ペイトンに絡んでいる皇族は第二皇子です」
これにはミラの頬がピクリと動いているが、それはそうだろう。
つい先日まで彼の婚約者をやっていたのだから。
「皇帝は薄々は気付いていると思います。ですがいざとなれば、第二皇子が勝手にしていたことと、切り捨てるのでは? ともかく現状は、第二皇子経由で借金返済の目途も立ったので、そこは見て見ぬふりです。違法カジノの存在を知っていても、摘発せず、目をつむっている」
オレガン公爵がそこまで話すと、ミラがハッとした表情になり、わたしを見る。
「公爵、ちょっと待って欲しい」「御意」
そこでミラを見て優しく尋ねる。
「ミラ、何か気づいたことがありますか?」
するとミラはコクリと頷き、口を開く。
「ペーシェント男爵令嬢……そのファミリーネームの綴りは、Paycientと少し変わっています。カジノ・ペイトンは……Peyton。なんとなく似ていますよね。ペーシェント男爵は貿易業を営んでいますが、そこでメインで扱うのはワインです。帝国は内陸の国ですが、ワインであれば陸路でもいくらでも手に入りますから。そして帝国で輸入ワインの市場の九割を独占しているのが、ロイヤル・ワイン・ヴィンヤード商会。商会主はペーシェント男爵です」
「なるほど……ミラ、わたしにも見えて来ました。オレガン公爵がエルガー帝国で足を運んでいた商会は、確かにロイヤル・ワイン・ヴィンヤード商会です。そしてこの商会主がペーシェント男爵。つまりわたしに非嫡子をもうけさせ、それをネタに強請ろうと考えているのは、ペーシェント男爵。違法カジノを運営しているのも、ペーシェント男爵。つまり黒幕はペーシェント男爵ということですね……?」
わたしの言葉にミラは考え込む。






















































